第2話 あたしの存在理由
間もなくして同居人が出来た。母親と就学前の男の子。男の子を母親は「いおちゃん」と呼んでいた。
本当の名前は庵くんだと文字の勉強からあたしも知った。母親は度々、庵くんを一人にして出かけることが多かったから、あたしが見守っていたのね。
庵君の危なっかしい状況を神通力か分からない能力で助けたりしていたら、お姉さんはゆーれいなの? と聞かれた。
子どもは感受性が強いとは、生前から聞いたことはあったから驚きはしなかったけど、一点だけ注意をした。
「お母さんにはナイショだよ」
庵くんは、わかったよ! と言ってくれたけど、母親はほんの少し霊感みたいのがあったようで、薄々とあたしの存在も見えていて恐かったようだ。
生者と死者は決して分かり合えない関係で恐怖の対象だもの、仕方がない。
死者は愛される訳がないんだから。あっという間に母親は音を上げて引っ越して行ってしまった。
あたしは何もしていないけど、存在が確認出来るだけで迷惑のようだ。
「また、一人か。永遠の時間をこの空間だけは、きっついなぁ」
神様、仏様、お願いです。
どんな存在にも成れはしない一介の地縛霊の霧島キリコに、ささやかな幸せをください。絶対にお応えします。
あたしは元々、社畜ですから、任された仕事はがんばります。
何もない幽霊の人生には枠も筋書きもない、この先真っ暗な幽霊として活きて行かなきゃいけない人生に、どうか、存在理由をお与えください。