第1話 あたしは地縛霊
ぼぅとあたしは見ていた。入居者が立ち替わる室内を、何度も訪れる季節の中で、真っ白な頭にようやく鮮明に蠟燭の火が灯ったような感覚。
今までの記憶がフラッシュバックをして目が醒めたんだ。
「あたし、あの日、……睡眠薬の量を間違えて、死んだっ。二十三歳で……あぁ!」
あたしがいたのは生前住んでいたアパートの一室。一人暮らしには丁度いい1LDKで、街から離れた地区と築二十年の物件のアパートということもあって家賃も格安の二万五千円、ペット可物件。
社会人なったばかりの頃で、仕事にも慣れたら、猫や犬、ハムスターに文鳥や兎、ペットとの生活に憧れていたのに、ああ、社会に出たら両親のように出来ると思っていたのに。
「お父さん、おかあさん……あたし、あたし、親不孝でごめんなさい、ごめんなさい……」
就職先をきちんと確認するべきだったのか、ううん、仕事内容や同僚たちに無理だと思ったときに離職をするべきだったんだろうな。
でも、何も仕事以外で頭を使う余力なんかなくて、考えることも放棄して私生活を犠牲にした社会人二年目。
睡眠障害で処方された薬を見誤ったんだ。
身体がなくなったのに。おかしいな感情が、こんなに鮮明だなんて信じられないよ。あたしは幽霊なのに。
生きていた頃なんかよりも生きている。
「成仏しそこねちゃったのかな」
天からのお迎えがなかったのかもしれない。
それはそれで、あたしなんかお呼びじゃないと拒絶された気持ちで、悲しくもなったけど、そのおかげであたしは地縛霊なんです。
社会人という縛りとはまた違うけど自由なんです。
入居者のいない真っ暗と静まり返った居室。恐らく、あたしが死んだこともあって事故物件扱いなのかもしれないなけど待ち続けよう。
同居人となる誰かも知れない人間を、永遠とある時間の中で。