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絶対に笑ってはいけないラジオドラマ大賞

「……選考作品はこれで最後、か。どいつもこいつも」

「あっ、もう読み終わったんですか。さすがに早いですね」

「面白くねぇ作品は読み込む気が起きねぇからな。当然さ」

「つまり、最後まで読んでないってことじゃないですか。それ」


 安い長机とパイプ椅子を部屋中に並べ、黙々と原稿を読み込む男女の集団。

 彼らは今、彼ら自身が立案した企画「持ち込みラジオドラマ大賞」の選考予定十作品を、アシスタント・ディレクターやその他スタッフ数人と読み込んでいる最中である。

 部屋の奥の席にふてぶてしく座り、他のスタッフに憎まれ口を叩く、前髪の後退した無精髭のこの男。彼の名前は「夢野(ゆめの) 三杉みすぎ」。NGK放送局の放送作家であり、この道十余年のベテランだ。

 夢野は荒っぽく原稿を机に放り、溜息をついて椅子の背もたれに重心を掛ける。今読んでいたそれも、彼の眼鏡にかなう作品ではなかったようだ。

「夢野さん、ハズレですか? その原稿……『生きてようが、生きていまいが』でしたっけ。自殺願望の男があの手この手で死のうとしている奴」

「ンなもん、読む前から却下だよ。ネガティブすぎて放送出来ん。……なんともまぁ、期待外れもいいとこだ。番組内であれだけ煽って、反響もあったってのに、結局たった十作しか来ないとは。世も末だぜまったく」

「期待外れなんていいますけどね、こんなにガチガチに設定固めた上じゃあ、リスナーも話を書きにくいんじゃないですか」

 スタッフの一人が賞の取り決めを記した紙を夢野に渡す。そこに書かれていた内容はこうだ。


 ――輝け!リスナー持ち込みラジオドラマ作品大賞――


 ◎募集要項


 ・書き下ろし未発表の小説作品。

 ただし、リスナーからの意見投票の結果を考慮し、以下の要素、登場人物を踏まえること。


 ・主人公の少女「カンナ」、友達の「アヤコ」、クラスの担任「牧村先生」

 ・主人公は「牧村先生」に恋心を抱いている

 ・原稿用紙20~30枚程度。

 ・本文の前に200字程度のあらすじを書き添えること。

 ・○月×日 17時半消印有効。


 ※放送時間はCMを含んで20分程度のため、長い場合はカットを、短い場合は脚色を加える。


「間口が狭すぎるんですよ。こんなに窮屈じゃ面白いものもできませんって」

「企画立案時のアンケートで、リスナーがこうしてほしい、って要望があったんだからしょうがねぇだろ。民主的で実にいいことじゃないの。それにみんな同じ題材で書くんだ。書く人間の力量がダイレクトに伝わってくるし。しかも採用されれば即ラジオドラマとして放送されるんだぞ、物書きを目指してるんなら、もっとバンバン挑戦してくると思った……のだがなぁ」

「でも、こっちの作品なんかは結構面白いと思いますよ」


 夢野とスタッフのやりとりに、一人の女性スタッフが口を挟む。彼女は自分の読んでいた原稿を夢野に手渡した。

「へぇ。どれどれ……」


 ~だいすきです。~ 

 作:P.N.右往(うおう)左往(さおう)


 あらすじ:

 女子高生のカンナは自分のクラスの担任「牧村先生」が大好き。友人の「アヤコ」に後押しされ、学校の校門前で告白するも断られてしまう。

 牧村先生は不治の病で、持ってあと数週間。彼女を悲しませたくないという優しさからの判断だった。


 茫然自失のカンナは、誰も使っていない小さな空き家に放火し、そこに飛び込んで命を断とうとするが―――


「どうです? どうです? 恋愛物ですよ恋愛もの。イケそうだと思うんですが」

「面白い。面白いとは思うよ。でも、こんなのフツーの恋愛モノ、ギョーカイじゃごじゃまんとあるわけで。今さらこんな物語を出しても新鮮味も面白みも何もないわけで。分かる?」

 僅か数分で原稿用紙の束を読み終えた夢野は、彼女に原稿を突き返しつつ苦々しい口調で返す。

 女性スタッフは「そこまで言わなくても」と呟きつつ、突き返された原稿を抱いて項垂れた。

「そうですか……。わたしは面白かったのになぁ」

「ま、そう落胆するなよ。他のがよっぽどダメならそれを採用するって手もある。他には誰かいないかー? 面白いと思える原稿読んだやつー」

「あ。それなら、これなんかも結構いいんじゃないかと思うんですけど」

「よし、見せてみろ」


 ~変態教師牧村先生~ 作:P.N.苦楽(くらく)拳斗(けんと)


 あらすじ:

 校内でいい意味でも悪い意味でも有名な牧村先生。

 今日もすれ違いざまに女の子のおしりを触ったり、女子更衣室からブルマを盗み出したりと大忙し。


 そんな中、彼のクラスの生徒、カンナとアヤコは友達との罰ゲームにより、牧村先生にウソの告白をすることになったのだが――


 原稿を読み終わった夢野は堪え切れなくなってふっと笑いだす。

「馬鹿かこいつ。馬鹿じゃねぇのホント。よくもまぁこのお題でここまで。っと、思い出し笑いが……」

「でしょー? いいでしょこれ? やっちゃいましょうよ夢野さん」

「でもさ……、くふふっ。さすがに”シモ”の話題がたくさん出てくるようなのを、公共の電波で流すわけにはいかないだろうよ。これを読み上げる声優さんは慣れてるかも知れんが」


「えぇー? 夢野さんちょっと厳し過ぎっすよ」

「馬鹿。こちとら全国一千万人のリスナーの期待を背負ってこの企画に臨んでるんだ。少し厳しいぐらいが丁度良いの。他はー」

 夢野の真向いに座る男性スタッフがおずおずと手を挙げる。

「あぁ、じゃあデスク。僕もひとつ」

「……おぉお、こりゃまたお固い文章だな。どぉれどれ」


 ~我が愛しの学舎まなびや~ 作:P.N.本間 海奈(ほんま かいな)


 あらすじ:

 教師と生徒という間柄ながら、恋中となってしまったカンナと牧村先生。それなりに幸せだった二人を引き裂くかのように、カンナの友人、アヤコが謎の死を遂げる。

 死の真相を追うカンナの前に自身の想い人である牧村先生が立ちはだかり―――


「どうです? いけそう……、だと思うんですけど」

「ううむ、サスペンス……ねぇ。二十分番組用に構成まで練られてやがる。本当に素人のホンか? でも、お昼のラジオ番組で扱うにはちょいと暗すぎる。それに、よく見ろよこれを!規定枚数5枚も過ぎてるじゃないか! この時点でもうダメだろ」

「でも夢野さん。今の三つ以外は面白いの、ないんですよね」

「う……ん。それは…認める」


「そんな頭ごなしに否定ばっかしてちゃ、何にもならないですよ」

「ぐぅ……っ」

 夢野は頭をくしゃくしゃと掻いて唸った後、彼らの方を向かずに答える。

「わかった、わかったよ! 君たちの意見はよく分かった! 後はもう私がやる! 君らはほら、次の番組次の番組の準備! 急いで」

「で、でもデスク」

「無駄口叩かない。パーソナリティの人もあっちでスタンバってんだから。ほらほら、散った散った」

 スタッフを追い払った夢野は、一人スタジオの奥に引っ込んだ。用具庫からパイプ椅子と小さな丸型テーブルを引っ張り出して、テーブルの上に三種の原稿を並べると、タバコに火をつけ一服し、うんうんと唸る。

「どれもこれも、一本のラジオドラマで使うにはちょっと厳しいんだよなぁ。しかし、企画の立案も決定権も私にあるわけだし。誰かに任せるわけにもいかんしなぁ」

 ――使えない脚本をうまく編集して扱えなければ、一流の放送作家とは言えんぞ夢野。

 妙案が浮かばず、原稿の前でにらめっこを続ける夢野。そんな夢野と原稿用紙の格闘を、一通の電話が強引に遮った。

「夢野さーん、夢野さーん! お電話でーす」

「悪いけどそっちで出てくんないー? 忙しいのよ私」

「オンエア五分前なんです! 手が離せないんですよ手が! 出てくださいってば」

「あぁもう、わぁった、わぁったよ!出ればいいんだろ」


 夢野は吸っていた煙草を灰皿の底で揉み消し、スタジオ脇に置かれた電話の受話器を面倒臭そうに取る。

「はい、こちらNGK放送局……あぁ、松川プロデューサーですか。どうしたんです? こっちは本番前なんすよ」

「悪いわねこんな時間に。”リスナー持ち込みラジオドラマ大賞”の選考場所はここ……でよかったわよね?」

「えぇ、そう……なりますけど」

「そこに”右往左往”というペンネームで書かれた原稿があるでしょう? 何も言わず、何も聞かずにその原稿、採用してくれないかな」


「なっ……、何を言ってるんですプロデューサー! 原稿の審査採用の権利は私にあるんだ、そんなごり押し、通すわけには行きませんよ」

「その原稿が”彼方(かなた)春香(はるか)”の作品だ、と言ってもそう言える?」

「はるか……って、え、えぇっ!」


 ――――彼方春香。

 十代後半から二十代前半の女性に絶大的な人気を誇る有名作家の名前だ。

 なるほど。持ち込みの作品にしては、章立てや構成がしっかりしている。納得しつつも、彼女が何故、こんな企画に寄稿したのだろう。夢野は佇まいを直し、一度深呼吸して返答する。


「仮に、仮にこれが春香先生の作品だったとしましょう。しかしですねぇ、そんなことをして何になるんです? たかがラジオドラマの原稿ごときに。春香先生は押しも押されぬベテランじゃあないですか」

「あなたの気持ちは分かるけど、アタシにそう噛みつかないでくれないかしら。こっちだって困ってるのよ。夢野君あなた、大友出版って知ってる?」

「大友出版っていうと……」

 日本の出版物、とりわけティーン向け小説においては三本の指に入るほどの大物企業だ。このような企画の立案を行う夢野が知らないはずがない。

 松川プロデューサーの言い分はこうだ。

 偶然この企画を耳にした彼方春香が、ペンネームを偽ってこちらに投稿してきた。本人は隠し通そうとしたのだが、彼女の担当編集者からその話が漏れ、ならばそれを人気取りに使おうと画策した大友出版の重役が、”彼方春香のホンを採用させろ”って言ってきたのだという。

 彼方春香は若者向けの人気作家、 彼女の作品を採用させたとなれば(少なからず批判はあるだろうが)数字はそれなりに出せるだろうし、大友側も彼女さらなるファン層拡大販促になるし、と松川やさらに上役を言いくるめてしまったのだと言う。


「ちょ、ちょっと……でもこの企画の責任者は自分」

「ごめんね夢野君、ラーメンおごるから、さ。じゃあ、あとはよろしくねぇ」

「ぷ、プロデューサー!」

 夢野の反論を軽くいなして電話は切れた。電話の前には噛みつくべき相手と牙をを削がれた哀れな男だけが残る。

「ど、どうしたんですか夢野さん。そんな”目の前で、数量限定販売商品が売り切れた”みたいな顔して」

「やけに分かりにくい例えだこと」夢野は投げやりな態度で答える。「ほら、さっきの”だいすきです”ってホンあったろ? あの原稿、彼方春香の作品だったみたいでよ、もう審査しなくていいからそれを使えって上からお達しがきたの」

「あれを、ですか! しかし、許されるんですか? そんな横暴な」

「許されちゃうんだよ。出版社もこの放送局も得するんだから、断る理由がないんだと。……こういうとき損をするのはいつだって現場だ。冗談じゃないぜ」


「夢野さん。ふてくされる気持ちも分かりますけど、仕事はしないと」

「君は楽天家でいいね。こちとら、そうささっと気持ちの切り替えができないもんでーっとォ」

 気落ちしうなだれていると、再び電話のベルがスタジオ脇で鳴り響く。「ほら、ほら。また電話ですよ。もしかしたらさっきの決定を取り消すのかも」

「そんな素っ頓狂な話があるかよ。出たくねぇなぁ」

 彼は頭をぽりぽりと掻きながら、嫌そうに受話器を取って耳に当てる。電話口から聞こえて来たのは、ややしゃがれた男の声だった。


「こんにちは。君だね? ”ラジオドラマ大賞”のディレクター、夢野(ゆめの)三杉(みすぎ)、というのは」

「はぁ。失礼ですが、あなたはどのような……」

「”スポンサー”。君たちには『おしどり出版』、と言った方が分かりやすいかな」


 おしどり出版。先の大友出版程ではないが、これまた出版業界内では大手の会社だ。頼みを断れば番組に金が入って来なくなるし、自分の首だって危ない。夢野の声から急に怠けとふてくされが消え、電話口の会話にも拘わらず、背筋がピンと伸びた。 

「お……おしどり出版! というと、あの?」

「その、だ。君の所に、”本間 海奈”というペンネームの原稿が届いているだろう? あれを、君の番組で扱ってはくれないかね」

「なっ、なんですって!」

 予想はしていたが、またこれか。嫌になるぜ、と夢野は心の中で呟く。そんな彼の気を知ってか知らずか、先方は更に話を進める。

「私もね、こんなマネはしたくはない。したくはないんだ。だが本間海奈……、富田(とみた)民人たみと先生も今年でデビュー30周年の大御所。そんな先生が、こんな番組のために原稿を書いてくださっているんだ。取り次いではくれないかね」


 ――――富田民人。

 日本のサスペンスものドラマ、小説作家の常連。

 その筋のファンで知らないものはいないとまでされるその手の大御所だ。

 理解はしたが、もううんざりである。彼はわざと電話先の人間に聞こえるように、ふぅと大きくため息をついて言葉を返した。

「あのですねぇ。確かに私はこの企画の立案者で、決定権は私にあるかもしれません。ですが、私にそのようなことを頼むのはお門違いではありませんか?」

「そうだね。君の言うとおりだ。全面的に、な。しかし、しかしだ。既にプロデューサーや局の上層部の方には、”他の会社の手が回っている”みたいでね。そこで、現場の独断で変更が行える君に頼むしかないのだよ。分かって……いただけるよね?」


 しゃがれ声に威圧的なものが加わる。なんとしてもこのホンを採用させるつもりなのだろう。一介のプロデューサーである夢野には、返す言葉は何もなかった。

「あぁ、いやいやいや。すまなかったね。では、これにて」

 受話器の先でぷつん、と切れる音がした。夢野もこれ以上の問答に意味はないと判断し、かけなおすこともせず、悪びれることもなく、ただ静かに受話器を電話に戻した。


「――いやぁ、困っちゃいますよね~。そういう理不尽な要求ってぇ」

「――仕方がないですよぉ。やんなきゃ、自分の首が危ないですもんねぇ」


「くそう、ちくしょう! おめぇらに言われなくたって分かってんだよ!」

「夢野さん落ち着いてください! あの番組の構成と脚本、あなたでしょう!」

 今まさに収録を行っている現場に殴りこもうとした夢野を、数人のスタッフが押さえつける。

 押さえつけられ、なだめられて少し落ち着いたのか、彼はスタッフを振りほどいて一声かけると、少しくたびれたソファに、上半身の重心を思いっきり掛けて腰掛け、右手で目を覆ってつぶやく。


「はぁあ……、何が”リスナー参画型企画”だよ。何が”企画の統括”だよ。これじゃあ体のいい左遷じゃねぇか」

 愚痴を言って塞ぎ込む夢野に、スタッフの一人が大丈夫ですか、と声を掛ける。

「お気持ちは……お気持ちは分かりますけど、私たちは、そういう条件、状況下だって、いや、だからこそ、そこで踏ん張っていいものを作るために、ここにいるんじゃないんですか?」

 しかしそれも今の夢野にとっては火に油でしかない。彼は慰めの言葉に「冗談じゃねぇ」と噛みついた。

「あぁ、そりゃそうだなァ? でなきゃ、こちとら単なる給料泥棒になっちまうもんなァ。ンなこと、言われなくたって分かってるよ。だからどうすりゃいいか迷ってんじゃねぇか」

「夢野さん……」


 ひとつは上層部からの命、ひとつは直接的な圧力。番組の企画立案者として、どちらも認めたくはない。しかし、どちらかを認めざるを得ない。社会で生きるとはそういうことなのだ。

 だが、どちらに転んでも無事では済まないこともまた、夢野は解っていた。だからこそ彼はスタッフ相手に悪態をつき、無駄だと分かっていてもどうすればよいか思案を巡らせている。


 三度、電話のベルが彼の脳裏に鳴り響く。しかし、今度はスタジオの電話ではない。スーツのポケットにしまっていた携帯電話がぶるぶると震え、着信音を鳴らしていたのだ。夢野はただ、力なく携帯電話を着信ボタンを押して耳に当てる。

「今電話に出る気は……って!張替はりかえさん、張替さんじゃないですか! いやぁ、もう、お久しぶりですぅ」

「よっ、久しぶりだな夢野。今NGKのお昼のラジオ番組の放送作家やってるんだって? ”ハッピータイム・オールデイト”……だっけか。いつも聞かせてもらってるぜ」

「本当ですか!? いやぁ、ありがとうございます。そうだ、今度飲みに行きましょうよ。自分、いい店知ってるんですよ」


 同業者の、しかも仲の良い先輩から不意にかかってきた電話。

 自身の進退を含めた抜き差しならぬ状況で、荒んでいた夢野の心に一筋の光明が見えた。この手の理不尽な要求を何度もこなしてきた先輩なら、今の自分の悩みに答えてくれるのではないか、そういう思惑もあってのことだ。

 しかし、夢野が話を切り出す前に、事態は予期せぬ方向へと動いた。


「ああ、それもいいかもな。だが、その前にお前にひとつ、頼みたいことがあるんだ」

「なんです? 張替さんの頼みなら、なーんでも聞きますよ。だから自分の……」

「そうか、そいつは助かる。あのよ、お前んとこのラジオドラマ大賞? だっけか。あそこで放送する原稿の中によ、”苦楽拳斗”ってやつが書いたの、あるだろ?」

「そりゃまぁ……ありますけど」

「いやさ、そのね? 苦楽拳斗……いやいや、俺の知り合いの若手作家なんだけどさ、もう読んだだろ? 面白い? 面白いっしょ? な、な!」

「そうですね。声出して笑ったことは確かですが」

 まさか、先輩に限ってそんな……。夢野の額に冷や汗が滴る。

「だろ? な? な! 売れてしかるべきだろ! そこで、だ。彼の原稿、今回のその企画に出しちゃあくれねぇかなぁ。あいつ、いいホン書くんだけどよ、ちょいと自分に自信がないみたいでさ、こういうところで自信をつけさせてやりてぇのよ。分かる? 分かるでしょ? この親心。あぁ、俺はアイツの親じゃないけど」

「分からなくはない……ですが、さすがに自分の一存ではなんとも」

「そっか。悪いね夢野! じゃ、後は頼むわ。あぁ、俺、これからバラエティ番組の仕事があるから、じゃな!」

 張替の楽しそうな笑い声と共に電話は切れた。同時に夢野の中の何かもぷつんと切れる。

 直後、同時刻に収録を担当していたスタッフがスタジオ脇に戻ってくた。


「おつかれさまでーす」

「夢野さん、どうかされたんですか? そんな”目の前に銃口向けられた”みたいな顔して」

「なんだか、顔もすごく青ざめてますよ? 医務室に行ったほうがいいんじゃ」

 夢野が青ざめ、生気のない目つきをしていることを不審に思い、思い思いに尋ねるが、返答は何もない。

 だが、彼は皆が集まってきたことに気づくと、突如その場に座り込み、地面に頭を擦り付けて叫んだ。


「すまん!」

 事情も知らないスタッフたちは対応に困る。何故彼が頭を下げているのか、彼らは全く理解できていないからだ。

「はい?」

「夢野さん、どうかされたんですか?」

「すまん」

 一片の無駄のない、美しい体曲線を描いた、正座から頭を下げるまでの動き。今まで生きてて最高最大に、もう二度と見られないような美しい土下座。彼らは後に、この時の夢野の土下座をこう評したのだが、それはまた別の話だ。


「いや、もういいですよ、頭上げても」

「それよりも、私たちが収録に行ってたとき、何かあったんですか?」

「す・ま・ん!」

 夢野はおでこを床にごりごりとすりつけて許しを乞う。

 スタッフ一同も、うすうす”とんでもないことになった”と気付き始めた。

「いや、だから……すまん、だけじゃわからないんですってば」

「強調とかしなくていいですから」

「わかった。話すよ。話せばいいんだろ」

 謝って誤魔化すのを諦め、夢野はスタッフ全員に事情を説明することにした。

 まるで驚きやどよめきを示す漫画の擬音が目に見えるかのようなの衝撃がスタジオ内を包む。

「な……なんでそんなことに」

「ひとつやふたつの圧力ならまだしも……みつどもえ! なんていうかもう、圧力のサンドイッチですよ!」

「おーい、そこー。誰もうまいことなんか期待してないからなー。だが……抜き差しならない状況にあるのは確かだ。どれを選び、どれを抜いたとしても、俺たちはクビを切られるだろうからな」


「あの……ひとついいですか?デスク」

「この忙しいときに何だ」

「先輩、夢野さんの先輩は別に省いたっていいんじゃ」

「よくねぇよ! そこは省いちゃまずいんだよ!」

「そりゃあ夢野さんは困るんでしょうけど、プロデューサーとスポンサーに比べれば」

「馬鹿野郎、えこひいきか? えこひいきするのか? お前は人をえこひいきできるほど偉いのか? あーあー、嫌だねぇ。人の恩や絆をアダで返すやつはさぁ……」


 溜まりに溜まった怒りを、部下たち相手にあたり散らして発散する夢野。

 そのために、テーブルに置かれていた三種の原稿が何枚か床に落ちた。これはいかんとかがんで原稿を拾い上げる。

「あーあーあー、ぐちゃぐちゃ。なにやってるんですか夢野さん」

「悪かった。悪かったから、手伝ってくれって」

「はいはい、わかりましたよ」

 三種の原稿が床の上でバラバラに混ざり合ってしまったため、スタッフ総出で集め、並べ直すことに。

 その時だ。夢野は苦楽と右往の原稿の一部が混ざっているのを見て、何か、この状況を打開するアイデアを閃いたのである。

「なぁ。ひとつ。ひとつだけ……、私に、考えがあるんだが」

「考え……って、何です」

「クビがどうなるかは分からんが、被害を最小限度に留めるやり方だ」


◆◆◆


「来ちゃい……ましたね」

「あぁ、来たな」

「夢野さん。これで、これで……よかったんですかね?」

「それを決めるのは私たちじゃない。視聴するリスナーだ」

「自分がリスナーだったら、声を大にして間違ってる、って投書出しますよ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 それから数日後。よく晴れた昼下がりの中、夢野らが企画した”持ち込みラジオドラマ大賞”。その放送時刻を十五分前に控え、スタジオにはラジオドラマを朗読する声優3人が到着。

 時間に余裕がないのは当初から想定されていた事態だ。これも演出のうち。それが夢野D(ディレクター)の構想していた番組の動きなのだという。


 その様子をスタジオの脇より見守る夢野他、制作スタッフ一同。誰も彼もが精根尽き果てた表情で収録場を見つめる。


「デスク、何か、自分にできること、ありますか」

「主演の豊崎さんがホンを読んでひきつった顔をしている。黙らせてこい」

「無茶言わないで下さいよ」


「俺、無事に収録が終わったら、片思いの彼女にプロポーズしてきます」

「不吉だからそういうことは言うな」


 誰も彼もがあきらめとは違う、どこか悟りきった雰囲気であった。

 自分たちのこの先の運命を事実として受け入れる準備を、覚悟を決めたのだろう。


 そんな空気の中、そんな裏方の事情など露知らず、声優とパーソナリティは収録現場に入り、パーソナリティの明るく、良く通る声を皮切りに、『ラジオドラマ大賞』の放送の火ぶたは今、切って落とされた。


「はいはーい! それでは、全国一千万人のリスナーさんおまちかね! 『輝け! リスナー持ち込みラジオドラマ作品大賞』の入賞作発表! そして、その台本を使ってのラジオドラマ、いよいよ放送でーす! ぱちぱちぱち」


「それでは、さっそく発表しちゃいましょー! この企画、第一回の栄えある入賞者は……、な、な、な、な、な、な、な、な、なぁああああんとぉおおっ!!」


 P.N.右往左往さん!

 P.N.苦楽拳斗さん!

 P.N.本間海奈さん!


「……の、三人。つまり、合作脚本でぇえええっすっ!」


 すべてが終わった。パーソナリティの明るい声を聞きながら夢野はそう呟いた。

 三つの圧力。これらすべてを満たすにはこれしかない、そう思ったからこその事態であったのだが――。

 しかし、夢野自身はこの決断を間違ったものだとは思っていないし、もう何をやっても無駄だから、というあきらめもあった。しょうがなかったのだ。


 他のスタッフも同じ気持ちであった。

 しかし誰一人として、この状況を打開できる代替案を発案できなかった。となれば、まとまる可能性はとてつもなく低くとも、上司の出した案に従わざるを得ない。当然の帰結である。


 そんな事情を知ってか知らずか、パーソナリティは明るく朗らかな声で、夢野たちが前日にでっち上げた作品紹介及び、入選理由の原稿を読んでゆく。


「夢野さん、電話。電話、鳴ってます」

「すまないが、誰か出てくれないか?気分がすぐれない」

「嫌です。私だって、おなかが痛くて」

「あ、僕も僕も。昨日の徹夜の原稿整理で腱鞘炎(けんしょうえん)になっちゃって」

「デスク。自分、持病の腰痛が再発してきちゃったんで、帰っていいですか?」

「がんばれ。こういう時こそ気合いを見せろ。踏ん張るんだよ」


 三人の声優が収録用マイクの前についた。いよいよ、いよいよである。

 スタッフは皆、電話の回線を抜き、携帯電話の電源も切り、くたびれたソファに腰掛けて、ある者は頭を抱え、ある者は収録現場から片時も目を離さずに見守る。


 軽い咳払いと深呼吸をして、語り兼主演の声優が口を開く。



◆◆◆


 ――わたしの名前は岩崎カンナ。

 わたしは今、ある意味人生で初めて、なんというか、そのぅ、岐路と言うべきか、壁と言うべきか、とにかく大きな何かを飛び越えようとしているところ、なのです。

 わたしが越えようとしている何か。それはちょっと、言いにくいんだけど……いてっ!


「こぉら、カンナ。なぁにぶつぶつ言ってるのー?」

「はっ! ご、ごめん。アヤコちゃん」

「まったく……、アタシだって暇じゃないのよ? それを! 大親友の! あんたのために! 割いてやってるんだから。ありがたく思いなさいよ?」

「うん。ありがとね、ほんとに、さ」


「何よ、しおらしくしちゃってさ。あんたらしくもない」

「だって、アヤコちゃんのおかげだもん。わたしが先生に告白しよう、って思えるようになったの」

「あぁ、そのこと。気にしないでいいって。アタシがただ、ウジウジしたやつが嫌いなだけだからさ。

まぁ、あんたの背中をばーんと押して、そのまま気絶するとは思わなかったけど」


「あのときはもう、決心する前に失神しちゃったよー」

「うまいこと言うじゃないのこいつぅ」


 ――そう。アヤコちゃんのおかげで、わたしは決心できたんだ。

 憧れの、クラスの担任の牧村先生。彼に『告白』することを。


「でもさカンナ。あんたなんで、先生に告白しようと思ったの?」

「なんで?」

「なんでって……牧村先生。あの牧村先生よ? あの」

 ふと、アヤコちゃんが口を閉じ、教室の外に視線を移す。

 噂をすれば何とやら。牧村先生が誰かと話をしているみたい。


「先生ッ、また……、またですか! 先日”出所”してきたばかりだというのに!」

「いやぁ。ははは。ついつい、出来心で」


「先月はリコーダーの先っぽ、半月前はブルマ! そこでしょっぴかれて反省したかと思いきや、出所して早々、こんどは”女性下着”を盗むなんて……もう少し教師としての自覚を持ってください!」

「いやはや。参りましたよねぇ、ほんとに。何がまいったって、クラスで一番かわいい子のと間違えて教員の先生のを持ってきちゃって、あの時はもう悔しくて悔しくて」


「そういう話をしているんじゃありません! こっちとしてもこれ以上問題は起こしたくないんですよ、

頼みますから大人しくしてください」

「あ。もうそろそろドラマの再放送の時間じゃないか。……三島先生、お先に失礼いたします」

「ちょ、ちょっと! 先生、先生ッ!!警察、警察を呼びますよ!」


「ふっふっふ。アヤコちゃん。”恋に理由なんてないのだよ。好きだから好き。好きだから告白したい”と思ったの。それでいいじゃん」

「さいですか」

「って、あぁぁああああっ! 先生、走ってどっかに行っちゃった! もう、アヤコちゃんのせいだかんね!」

「なんでそうなる! あたしに文句言ってないで追え、追えってば」

「あーん、先生早いー、アヤコちゃーん、手伝ってぇ」

「あぁもう! わかった、わかったら、ひっつくなっての」


◆◆◆


 cm入りし、ドラマが一旦途切れた所で、スタッフの一人が項垂れたまま夢野に聞く。

「あの場面、確か右往左往さんのやつだと、”牧村先生に告白する女生徒がフラれて、アヤコが告白の難しさをカンナに訴えかける”もの……、でしたよね。

 これじゃ、なんでカンナが牧村先生のことを好きになったのかさっぱりじゃないですか」

「しょうがないだろ。全体の構成上、ここで苦楽の文章も入れとかなきゃいけなかったんだから。それに見ろよ、牧村先生役の前田さん、ノリノリで演技してるじゃないか。……これでよかったんだよ」


「豊崎さん、時々マイクの電源切ってくすくす笑ってますよ」

「佐藤さんなんか……」


◆◆◆


(カンナ・ナレーション)

 >>さすがはウチの女子陸上部エースのアヤコちゃん。軽々と先生に追いつき、校門前に来てもらえるよう、約束を取り付けてくれました。やっぱり持つべきものは友達だよねー。アヤコちゃんだいすき。

 地面を通じてわたしの耳に響いてくる足音。それに合わせて高鳴る鼓動。言いたいことや伝えたいことはいくらでもあるのに、……あぁんもう、どきどきしすぎて頭が真っ白。

 あー、もう!わたしのバカバカバカっ。落ち着け、鼓動、心臓、妄想!


(アヤコ・ナレーション)

 >>校門の柱の影から黄色いリボンがちらちら映る。何を考えているのやら。でもせっかくだ。牧村先生のフリをして近づいて笑ってやろうっと。……悪いことじゃないよね。予行練習、ってやつで。


(カンナ・ナレーション)

 >>あぁ、背中越しから先生の感じが伝わってきた。あぁもう! 我慢できないっ。

 わたしは、先生が校門の前を通り過ぎるよりも先に、ついつい顔を出してしまったのでした。


 ――ぱぁん。


 期待と希望を胸に秘め、勇んで校門の影から飛び出したわたしを出迎えていたのは、一発の銃声と、それによって眉間を打ち抜かれ、血しぶきと若干の脳しょうを撒き散らして仰向けに倒れこむ、親友の姿で……って、えぇええっ!?


「きゃあああああああ」


◆◆◆


 まだcmで中断になっていないにも関わらず、唐突な展開に目を白黒とさせた夢野が声を荒げる。

「おい、誰だ! 民人先生の文章をここに挿入したの!」

「いや、ほら、拳斗さんと右往さんの文章だけじゃないですか前半分は。このままじゃバランスが悪いんですよ。三人分バランス良く埋め込まなきゃダメですし」

「そりゃあそうだが、よりによってこんな……。見ろよほら、アヤコ役の佐藤さん、固まっちまったぞ」

「……あの人、ホンを読みきってなかったんですね。まだ”ガヤ”の役はあったはず、ですけど」


 ※ガヤ:

 アニメ・ゲーム業界などにおける『声』のエキストラ。

 エンディングにおいて”男の人”だの”通行人”だのと表記され、本筋に伴わない端役の声を当てた人物などがこれにあたる。


◆◆◆


「あぁ……、あぁ、あぁっ」


(カンナ・ナレーション)

 >>横たわるアヤコちゃんの肩を抱く。その温もりは徐々に、確実にわたしの手から消えてゆく。

 声にならない。言葉にならない。何も考えられない。わたしはどうすればいい?なにをしてあげればいい?


「……君! カンナ君!」

誰かがわたしを呼んでいる。わたしはそれが何なのかを確かめた。


「やぁ! 遅くなってすまないね! 三島先生を振り切るのに時間がかかってしまって」

 ブルマをかぶったスーツ姿の変質者がそこにいました。あ、牧村先生ですね。

 牧村先生のお姿を見られたおかげで、わたしは少しだけ落ち着くことが出来たけど、同時に押し殺していた何かが抑えきれなくなった。もう、耐えられない……。


「せんせい……せんせぇい」

「どうかしたのかい……? おぉ、君が抱いているのはアヤコ君じゃないか。あぁ、なんと変わり果てた姿に」

「あ、あ、あ……あの、先生」

「大丈夫。私の担当教科は保健だ。うぅむ……やはり、ダメ。だったか」

「えっと……あの、先生?」診てまだ三十秒も経っていないというツッコミは無しですか?

「カンナ君。彼女と親友だった君には悪いのだが、私に彼女を弔わせてはくれないか。せめてものはなむけだ」


「あ。いや、あの。先生。……そのぅ」

「街の外れの丘に行こう。夕方になるがそこなら」


 先生はアヤコちゃんの体を抱いて校門を抜け、道路へ。後を追うわたし。

 どうしても今すぐに、先生に伝えなければいけないことがあったから。


「あの。もしもし?」

「はい? 今急いでいるのでまたあとに」


「ちょっと……署の方まで来てはもらえませんかね」

「いや、だから私は急いでいると何度言えば……んん? 貴方がたは、もしや……”警察”?」

「えぇ。そうですが何か。って、ちょ……ちょっとあなた! その抱いてらっしゃる方は何です!

頭から血を流しているではありませんか!! 警邏中けいらちゅうの各移動に連絡、迷惑条例違反及び殺人の現行犯の男性の身柄を現行犯で逮捕。至急パトカーを一台、こっちに回してください。以上」


「ち、違う! 断じて違う! 私じゃない!私じゃないんだ!」

「何が違うだ! 頭から”ブルマをすっぽりとかぶっている”やつが信用できるか!あー、御苦労さまです。容疑者の身柄を預けます」

「だから、違う! 違う! 違うんだってのに!」


 ”おまわりさんが来ています”、そのたった一言を伝えることが出来ずに、先生はパトカーで連行されてしまいました。

 ……頭からブルマかぶってる人ような、誰がどう見ても怪しい人を”信じろ”って、いくらわたしだって、さすがに無理ですよ先生。ごめんなさい。


「えっと、君は……大丈夫、かな。立てる?」

「はい。なんとか」


 どうやら、先ほどのおまわりさんが連れてきた婦警さんみたい。パトカーで連行される先生を見送ったわたしは、彼女に肩を貸してもらって立ち上がり、校門を出て家へと帰ることにしました。


◆◆◆


「もう無茶苦茶じゃないですか夢野さん。原形とどめてませんよもう」

「分かってたことだろ。みなまで言うな。空しいだけだ」


「夢野さん。収録室の佐藤さんがこっち見てます。めっちゃ睨んでます」

「おーけー、睨み返せ。俺が許可する」


◆◆◆


(カンナ・ナレーション)

 >>わたしの大切な友達はもう、いない。

 頼りにしていた牧村先生は警察に連れていかれちゃった。

 わたしは……どうすればいいの? 冷たく乾いた北風は、わたしの問いかけを無視して足早に去ってゆく。


 足に何か当たった。その小さな何かを拾い上げてみる。古ぼけたマッチ箱、なのかな。

 箱はぼろぼろだったけど、中には4本のマッチが入っていたし、こすって火をつける部分も無事みたい。

 ふいに、一軒の廃屋が目に止まった。税金がどうとか維持費がどうとかで、ずぅっと前から買い手もつかず、誰も住んでいない空家だった。

 周りの人たちもみんな引き払っていて、近くには誰もいない。

 わたしは廃屋に足を踏み入れ、4本すべてのマッチに火をつけて、床に投げつけた。

 ぼろぼろで木造建築の空き家に投げ込まれた火種は、乾いた風と合わさって、もうもうと黒い煙を上げながら、ただひたすら大きくなってゆく。

 意識が朦朧としてきた。スカートも少し焦げてきたような気がする。

 アヤコちゃんのいない世界なんて、アヤコちゃんのいないわたしなんて。そのことばかりがわたしの頭の中でぐるぐると駆け巡る。


 おとうさん、おかあさん、親不孝な娘でごめんなさい。

 牧村先生。ずっと、好きでした。


 廃屋を支えていた大きな柱が焼けて、びきびきと音を立てている。煙のせいで息苦しくなってきたし、

このまま柱に潰されてしまうのも悪くない。そう思えた。手と手を重ね、目をつぶって柱が落ちてくるのを待つ。


 ――やめろおおおおおおおおおおおッ!

「きゃっ!」


声が、聞こえた。聞き覚えのある声。

声に気づいて目を開けた瞬間、わたしは誰かに突き飛ばされ、

脆い廃屋の壁を突き破って、雑草の生い茂る裏庭に出た。

目を開くと、炎で赤く染まった夜の空、牧村先生がわたしを見つめていた。


「何を……何をやっているんだッ!」

「せ、先生……!」


 それ以上言葉が出なかった。

わたしを突き飛ばした先生は、代わりに落下する柱をその背中で受けていた。

 柱が古ぼけていたおかげで、押し潰されることはなかったけど、火のついた大きな木片は、先生の体に火傷と打撲による傷を残すには十分だったから。


「友達が死んで悲しいのもわかる。彼女が君にとって大切な存在だったのもわかる。でも、いいや、だからこそ、君が死んで何になるんだ!何の意味もないじゃないか! 死んだってなあ、彼女に会えるわけでもないし、償いにだってならないんだ! わかって……くれるよな?カンナ君」

「せんせい……せんせぇえ」

「あぁ、泣かないで。ほら。これで涙をお拭きなさい」


「ありがと、先生。あぁ、なんだかとてもしっとりして気持ちいい……。

 って、こ、こ、これは!昨日の水泳の授業のあと、忽然と消えた、わ…、わたしのショーツ!」

「あ。ハンカチと間違って出してしまったね。すまない」

「”すまない”で済んだらニューヨークポリスデパートメントはいらねぇんだよォ!」


 わたしは激怒した。この変質者に制裁を加えなければならないと決意した。

 先生がわたしの顔に自身の顔を近づけた瞬間、ぐっと反動をつけて先生の顔に頭突きを叩きこんだ。


「おぉぉおおおおおぅうぅぅう」


 先生の体が大きくのけぞる。自分の力で体を支え切れずに、仰向けに倒れこんだ。


◆◆◆


「先生……? 先生、どうしたの!?起きてよ! 起き上がってよ! 先生!せん……せ、い」


 牧村先生は起き上がらなかった。

 その顔には血色も生気も殆ど残っていない。わたしの顔から血の気が引いた。


「イヤ、嫌!絶対に嫌だよ、こんな……こんな終わり方、わたしは認めない!認めたくない!

先生……先生! 開けて! 目を……開けてよぉ」

 

 ものすごい鼻声。涙が目からも鼻からも止まらない。

 自分でなんて言っているのかわからない。ただひたすら先生を揺する。先生の手をぎゅっと握る。

可能性なんて無いと分かっていながら。けれどあきらめたくなかったから。


「うぐ……うぅ、うう」

「せんせい……先生!」


 先生はうっすらと目を開け、目線をそらすことなくわたしを見つめてくれている。

 今の私には、それが何事にも代え難く、とても嬉しかった。

 でも、生気や血の気がないのはさっきと一緒だった。いつ気を失うか、そのまま眠ってしまうのかわからない。

 先生は、息も絶え絶えになりながら、必死に唇を動かせてわたしに何かを伝えようとする。


「きにしないで……いい。こうなることは……わかっていた…から。私はね、持ってあと数日の命……。君の告白……な。あれ…断…るつもり、だった。君を悲しませるだけだったから」

「そん……な」


 信じたくなかった。けど、目の前で力なく横たわる先生を見てしまった今、そのことを信じずにはいられない。


「自分が教えてきた生徒に……看取られて……か。それも……悪くない。ごめん、な。カンナ……ちゃん」

「せ、先生……、先生―――ッ!!」


 先生はわたしの頭をなでようと手を伸ばした。応えるためにわたしも頭を近づける。

 でも、そこまでだった。先生の腕は力なくだらんと倒れ、それ以上動かなかった。泣いた。ただ泣いた。泣くこと以外何もできなかったから。


 先生の上着の内ポケットから、何かが落ちた。

 わたしはあふれ出る涙を制服の袖でぬぐって、落ちたものが何か確かめる。


「け……拳銃?」

 床に転がっていたのは、上着の内ポケットにすっぽり収まるぐらいの小さな拳銃だった。

 落ちた拍子に弾倉が開いたらしく、中に弾丸が5発入っているのが見える。

 なんで先生がこんなものを?なんで6発入る弾倉に弾丸が5発しか入っていないの?疑問をいくつか思い浮かべているうちに、わたしは”あること”に気付き、ぞっとした。

「まさか…、まさか!先生が……、アヤコちゃんを?」


 そう考えると6発入る弾倉に5発しか弾丸がないことにも納得がいく。けど、理由は?そんなことを先生がした理由は?

 わたしも、アヤコちゃんも先生のクラスの生徒。彼女にしたってわたしにしたって、それ以上の関係にはなっていないはずなのに。

 なんで、こんなことになっているの―――


◆◆◆


「いやぁ、繋がりましたねぇ。とても面倒な方向に。

 あの場面、右往左往先生の時は”血のついたハンカチをうっかり渡しちゃって、カンナが先生の命がもう長くないことを悟る”重要な場面だったのに……」

「あぁ。あんなあさっての方向の三作品が、きちんと一本の線につながるとはな。私も驚きだ」

「夢野さん、自分、褒めてないですから」

「あぁ、そう」


「っていうか夢野さん、止めなくていいんですか? セリフ読むとき、みんな半笑いですよ。

 途中、泣きの演技とかありましたけど、ときどきクスクス笑うのが聞こえて台無しに」

「いいんじゃないの? これを放送しようと思った時点で我々のキャリアも台無しなんだから」


 その瞬間、現場のスタッフ全員が凍りついた。防音設備に阻まれ、

 その言葉が収録中の声優に届かなかったのは不幸中の幸いと言えよう。


「デスク。佐藤さんが台本の次のページ見て、固まってます」

「紙とサインペン……、あぁ、紙は段ボールでもなんでもいいや。カンペ書くから」

「あ、自分が書きますよ。なんと?」

「”ナマなんであとはもう、アドリブでお願いします”とかなんとか」

「了解」


 カンペを走り書いたADは、どこか開き直ったかのような顔で収録の場へと向かって行く。

 放送終了五分前にして、誰もが完全に吹っ切れてしまったのだろう。


◆◆◆


「―――そこまでよ!」


(カンナ・ナレーション)

 >>声が、聞こえた。聞き覚えのある声。そして、もう二度と聞くことのなかった声……って、

「ア……アヤコちゃん!? うそ! なんで……!?」

 生きてた。生きていてくれた。わたしは、涙が止まらなかった。

 でも、奇跡的に生きていた親友は、おおよそとんでもないことを口走りました。


「カンナ! その人から離れて、早く!でないと……。あんたのブラ、先生にとられちゃう!」

「はぁ……って、えぇぇぇええええっ」


 何を馬鹿な、先生はもう…とアヤコちゃんに告げようとしたその瞬間、

 え、何、何よこれ。牧村先生が、わたしの胸辺りに向かってわきわきと手を伸ばしている。わたしは怖くなって牧村先生を突き飛ばし、とりあえず距離をとった。


「ひぃいいいいいいいい! え、え、え……Xファイルだー! モルダー……じゃなかった、アヤコちゃん助けてぇぇ」

「死人が動いたぐらいで超常現象専門の捜査官を呼ぶんじゃないの。ってか、先生死んでないし。あたしも死んでないし」

「っていうか、なんで”ブラ”なの!?おかしいでしょ?なんというかこの状況で……。えっとその……『ぶら』って、あれだよね? わたしたちの”胸”を覆うあの”下着”であって、野球の選手だとか、なんとかボールのトランクスの妹とかじゃなくて、その」


「それであってます。あってるから皆まで言うな。そりゃあ普通じゃありえないけど、この先生よ? むしろ普通のことじゃない。それにほら、あんたの近くに落ちてるそれ、よく見てごらんなさいな」


 アヤコちゃんに言われてもう一度床を見た。拳銃が落ちている。けれど、落ちているのはそれだけではなかった。

 よく見るとその斜め上あたりに、薄いベージュ色で花柄のブラジャーが落ちているのに気づいた。

拳銃のインパクトと、火事が鎮火しつつあったこともあって、暗くてよく見えなかったみたい。


「でも、それにしたって」

「ブラの話はとりあえず置いといて。それよりもっと重要なこと、あるでしょ?」

「あ、あぁ。そういえばアヤコちゃん。なんで生きてるの?」

「何を今更……あんたが見つけたその拳銃、それ、偽物よ。色を塗り直してあって本物っぽく見えるけど、中身はその辺で売ってるエアガンと一緒。

まぁ、エアガンだし、頭に打ち込まれればその衝撃を気を失っちゃうけどね。中に入ってる弾だって銃弾じゃない。蛍光塗料に水とか何かをぐちゃぐちゃにして詰めたもの」

「なんでアヤコちゃんにそんなことがわかるの?」


「あたしが生きてることがその証拠。あと、本物か偽物かどうかわかるぐらいの知識はあるし。ガンマニアだもん」

「さいですか」

「遠くから私の頭をこれで撃って、あたしが気絶して、あんたが錯乱している隙に近づいて、あんたから見えない角度であたしの制服をめくって……」


「いくらなんでもそんな……めちゃくちゃな」

「こうしてあたしのを持ってるわけだし、信じるしかないでしょ」


 でも、そういえばあの時。先生がアヤコちゃんの体を抱き上げた時。わたしからは先生が何をしているのか、よくわからなかったのはたしか、だった。


「実際にそこにあたしのがあるんだから、そうとしか言いようがないでしょ。言ってて恥ずかしくなってきたけど。ってか、あんたもあんたよ。気づきなさいよそれぐらい」

「ごめんなさい」


「で、あたしは少ししてから気がついて。気が付いたら近くの病院に運ばれてて、警察や親や看護師さんたちが驚いている中、ブラがなくなってることに気づいて、ずっとあんたたちを探してたわけ。ほかに質問は?」

「ってことはアヤコちゃん。まさか今、ノーブラ?」


 黙して語らず。けれども、わたしを見るアヤコちゃんの目が鋭くなった。

 図星みたいだけど、人に触れられたくないことのよう。


 そんなやり取りの最中、突き飛ばされた先生が、ゆっくりと体を起こして立ち上がる。アヤコちゃんは怒りと軽蔑に満ちた鋭い眼光で先生を威嚇しながら言う。


「先生。逃げようとしたって無駄ですよ。病院から強引に抜け出してきたんだもの。

 警察や親があたしのことを探してる。小さい街だし、このボヤさわぎ。そろそろ警察もこっちにやってきます。何か、言うことは?」


 アヤコちゃんは乙女の純情や貞操を弄ばれて怒り心頭みたい。

 その気持ちはわたしにも分かる。


「カンナ! この先生、ここまでヒドい変態だったんだ。いや、それ以上にあんたも悲しい目にあってる。殴るなり蹴るなり、好きにしなよ。それぐらいしたって罰は当たらないし、あたしも見て見ぬふりしてあげるから」


 アヤコちゃんはわたしにそうするよう促す。わたしは少し考えたあと、先生のもとに駆け寄って、

「先生。あの、なんて言っていいかわからない。けど……、わたし……。

 好きです! 大好きです! 先生のことが前から、ずっと! 答えを……聞かせていただけないでしょうか」


「は……ぁ!? あんた、それ、今する話なの!?」

「アヤコちゃんは黙ってて! ……先生、教えてください。正直な、気持ちを」


 先生は躊躇うことなく口を開いて言ってくれた。


「大好き、だったよ。でなきゃ君やアヤコ君の”下着”に手を出そうなんて、考えるはずがない」


「ん?それって、どういうこと?この人はあたしもカンナのことも好きで、日常的に女の子のリコーダーの先っぽとかハンカチとかブルマとか盗んでいたわけで……つまり、女の子なら誰でも」


 アヤコちゃんが何かぶつぶつと話していたが、そんなことどうでもよかった。

 先生。わたしはその一言がずっとずっと、聞きたかったんです。


「そっか、そう、なんだ。よかった。なら、話は簡単ですね。

 わたしと一緒に逃げましょう、先生!」


「はい?」

「何いいいい!? カ、カカ、カンナ……! あんた、あんた、自分が何を言っているの分かってるの!?

先生は……いや、そいつは変質者よ!? 変態よ!? 女の敵なのよ!? なんで、なんでそこまで」


「アヤコちゃん。今日、教室で話したじゃない。”恋に理由なんてないのだよ。好きだから好き。好きだから告白したいと思ったの”って。

 っていうか、わたしだってこの家に火をつけて火事を起こしちゃったし。無事じゃすまないし」

「そんな……アホな。カンナ、あんた……、あんたの男を見る目、絶対間違ってるから!」

「アヤコちゃん。アヤコちゃんはわたしの親友。大切な親友だよ。それは今までも、そしてこれからもきっと変わらない。でも、でも……。恋に”もし”も、”たら”も、”れば”も、犯罪者かどうかもないんだよ!」


 わたしは手元にあった銃を取り、シリンダーを閉じて撃鉄を起こし、引き金を引いてアヤコちゃんの眉間に打ち込んだ。

 蛍光塗料が混ぜ込んであるという何か特殊な炸薬がアヤコちゃんの眉間に直撃して破裂して、仰向けに倒れて気を失いました。


「さ、行こっ、先生! この銃声を聞いて、アヤコちゃんを探してた警察の人たちがこっちに来ちゃいます。わたし、車と家のカギぐらいなら針金一本で開けられるし動かせるから、逃走用資金とアシの確保なら大丈夫だよ! 昔そういう映画をたくさん見てて練習したもん」


「あぁ……うん。そうか、そうだな! 何度も何度も捕まる生活にはもう飽き飽きだ!これからは日本全国を股に掛け、いや、もっともっと、ワールドワイルドにいこうじゃないか! よし、行こう! いや、お供させてくれカンナくん」

「んもー、先生。そんなにかしこまらなくっても大丈夫ですよ。もう、教師、生徒の間柄じゃないんだから。ね? ”牧村さん”」


「あぁ。行こう、”カンナ”。いつまでも。どこまでも」

「うんっ、先生となら、どこまでだって、ついていっちゃうんだから――」


――アヤコちゃん。あなたは元気でいますか? わたしは元気です。

 またいつか、いつか、どこかで会えるといいな。………でも刑務所の檻の中だけは勘弁してね。


◆◆◆


 放送は終わった。

 参加した三人の声優は、皆一様に顔をひきつらせて茫然としている。それが笑いによるものなのか、呆れによるものなのか。収録現場の外から伺い知ることはできない。

 そしてそれは、デスクにて固唾を飲んで見守っていたスタッフも同じであった。


「終わり、ましたね」

「あぁ……やったな」

「やり……ましたね」

「むしろそれ以外の言葉が見つかりません」


「夢野さん。スタジオの前に何人か集まってきてます」

「だろう、な。じゃ、ちょっと行ってくるわ。声優さんたちのフォロー、よろしくな」


「さようなら、夢野さん」

「縁起の悪いこと言うなって言ったろ。…帰ってくるよ、すぐに、な」

 彼は、夢野三杉は振り返ることなく、ひとりスタジオを去って行った。


 それから数か月後。

 あらゆる意味で破天荒で、放送事故なのでは、とまでささやかれたこの番組は、その公共の放送局らしからぬ破天荒さが様々な層に大ウケし、口コミやインターネット等を中心に話題沸騰。


 試しに行ったストリーミング配信は、回線が混雑してNGKのサーバーが一日停止するほどのアクセスがあり、「輝け!持ち込みラジオドラマ大賞」は月一で特番が組まれるほどの人気番組となった。

 スタッフはそのまま続投となって、変わらぬ制作体制が維持されることとなり、首を覚悟していたスタッフたちは皆胸を撫で下ろしていた。


 ただ、かつてと違うことがふたつある。

 企画の立案、進行、構成は「NGK」が一括でクレジットされるようになり、

 この企画の大本の立案者は、現在消息不明である、ということだ。


 ――夢野 三杉の行方は、誰も知らない。



◆◆◆


「かーっ。なんだいなんだい。さんざん煽って期待させておいて。この尻切れなオチはさぁ。んなどうしようもない企画を通したやつの顔が見たいぜ」

「お客さん。テレビ見て愚痴るのは構いませんが、せめて食べ終わってからしゃべったらどうです?」

「あぁ。すまないね親父さん。つい、熱くなってしまって」


 ある町の、ある定食屋。『今日のお勧め』の”トンカツ定食”を食べながらラジオに耳を傾けていた男は、真っ赤な顔でラジオのチューナーをいじり、別の番組に変える。

 この荒唐無稽で尻切れなオチに、怒りを覚えての行動であった。


 店主にはその行動が滑稽に映ったのか、楽しげに少し口元を歪ませると、真っ赤な顔で定食の付け合わせのご飯を、勢いよく口の中に掻き込んでいる男に話を振った。


「はは、お客さん。この番組は嫌いかい」

「あったりめぇだ。こんなふざけた終わり方、認めてなるものか。こちとら、汗水垂らして、精根込めて考えた企画すら通らないってぇのによ、こんな馬鹿みたいなのが俺のを差し置いてお茶の間に流れるんだ。不愉快だよ不愉快」


「ふぅん。その口ぶりからするとあんた、そういう仕事の人かい?」

「放送作家をやらせてもらってるよ。そこのでっかい放送局様でさぁ。

 あぁいや、訂正しようか。実は今、一つだけ企画が動いてるんだ。私が企画立案の、な。今回の企画、ちゃんと成功させにゃあ、こっちとしてもおまんまの食い上げになっちまう。

 こちとら後ろ盾も何もない、単に年を重ねただけの物書きだからよ。定食屋にも行けなくなっちまう昼時の楽しみというか趣味だからな。なくなるのは非常に困るのだ」

「それは弱りましたなぁ。そうならぬよう成功を祈っとりますよ。ベテラン放送作家殿」

「言うは易し。行うは難し、ってかァ。まぁ、やるだけやってみまさぁ。……っと、失礼。

 ……あぁ、もう打ち合わせの時間?うん、うん。すぐ戻る。”原稿”用意して待っててくれな」


「はぁあ……」

「ん? 何か言ったか、親父さん。おぉっと、これお代。ごっそさん!」

「い、いいえ、何も」

「そうか。じゃあな。また来るよ」

「ありがとうございました。またどうぞー」


 男は、定食屋の引き戸に手を掛け、意気揚々と店を出て行った。

 ふと、店主はレジの前に目をやる。少し黒ずんだ名刺がそこに置かれていた。お札を出したときに財布から落としてしまったのだろうか。


 古くなったインクで、黒く滲んだ名刺にはこう書かれていた。

 ――NGK 放送作家   ”夢野 三杉”

 以前自身のホームページに記載していたものを手直ししたものです。



 ちょうどこれを書いていた時期、小説やそれに準ずる作品に対する創作意欲が減反していまして、リハビリも兼ねて、ただ単に笑えるだけのものを書きたいと思い、こうして文章に起こしました。


 ”ラジオドラマ”が題材になった理由は特にありません。

「何の関連性もない三本の物語を繋げて、とてもバカバカしいものに変えてやろう」という企画ありきだったはずです。


 HP上で公開していた際はフォントの色を変えて、「ここはこの人の著作」だということを表記していたのですが、それが使えないとどこで誰が改変しているのだかさっぱりですね。


 そもそもこれ、「面白いのは作者の脳内だけちゃうか」という疑念すらあって、投稿すべきかどうなのかさんざん迷っていました。「ラヂオの時間」っぽい筋立てになってるし……。


 今でも投稿してよかったのかどうかわかりません。

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― 新着の感想 ―
[一言]  三谷幸喜氏の『ラヂオの時間』に似てると、言われれば似てますけど……うーん……。  ですけど、そう言われたら、ラノベだってどれも「学園」「生徒会」「ツンデレ」「美少女」といった、似たり寄った…
2010/11/30 16:57 退会済み
管理
[一言] うぅむ。これは「ラヂオの時間」に似すぎている。現段階だと二次創作に近い。 なんかアレンジした方がいいかなぁ。今、著作権厳しいから。 そのあたり、難しいですね。作品自体は面白かったっす。 い…
2010/10/08 11:10 退会済み
管理
[良い点] 最高に面白かったです。 相当笑わせてもらいました。 [一言] ちらっと短編と聞いて覗かせてもらいましたがこんなに面白かったとは…。 グダグダに次ぐグダグダで出来たラジオドラマがかなり笑えま…
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