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中枢への侵入と新たな力

昼頃、私たちは街へと続く脱出ルートに入り、慎重に進んでいった。時折休憩を取りながら兵士たちの体力を保ちつつ、歩みを進める。


そして、脱出ルートの終点が見え、出口を抜けたその先には、重厚な石造りの廊下が広がっていた。高級な装飾が施されている様子から、どうやら私たちは街の中枢にある建物の中に出たようだった。


「え? ここは……?」


廊下を見回していると、奥の扉が開き、キール軍の兵士がこちらに気づいた。


「おい、あそこに誰かいるぞ!」


「待て……見慣れない奴らだ。まさか、ガリレアの兵か?」


兵士たちの声が廊下に響き渡り、次々と仲間を呼ぶ声が広がっていく。


「侵入者だ! ガリレアの連中が入り込んでいる!」


「やばい、見つかったわ!」私は焦って逃げようとするが、その前にテオロフさんが前に出て、杖を構えた。


「ここはワシに任せてくれ」


そう言うと、テオロフさんはなにやら呪文を詠唱し始めた。


「雷神の爪よ、地を砕き、空を裂け。その嵐の力、我が杖に宿れ! 敵を消し去り、道を切り開け!」


すると、杖からまばゆい光が放たれ、激しい雷鳴と共に廊下全体に爆風が広がった。その威力は凄まじく、味方の兵士たちにまで届きかねないほどだった。


「こ、これはいかん……威力が大きすぎたか……!」とテオロフさんが慌てて振り返ると、エマさんが叫ぶ。


「みんな、伏せて!」


エマさんが素早く結界を張り、爆風から私たちを守ろうとするものの、その衝撃で結界が一部割れ、数人の兵士が巻き込まれてしまった。


「す、すまん……力を抑えたつもりだったが……」テオロフさんが申し訳なさそうに頭をかくと、私は少し睨むようにして見た。


「もう、テオロフさん! みんな死ぬところだったじゃない! もうちょっと加減してよね!」


「わ、悪かった……」


エマさんはすぐに負傷した兵士たちに駆け寄り、応急処置を始める。「ここは私に任せて、みんなは先に進んで!」


「ありがとう、エマさん!」


そう言って爆風で倒れた兵士たちを横目に奥の扉へ進むと、そこにはかつてガリレア王国を襲撃してきたキール軍の指揮官が立ちはだかっていた。新調したらしい巨大な斧を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている。


「なんか外が騒がしいと思ったら、お前だったか、小娘。覚えておるか? 自らここまで来るとは好都合だ。あの時の借り、たっぷり返してやるぞ!」


「や、やばい! こんなの、私じゃ無理よ!」私は冷や汗をかきつつ、ふと自分のスキル「武器投影魔法」を確認した。すると、スキルレベルが「30」にまで上がっており、剣だけでなく斧や他の武器も作成可能になっていることに気づいた。さらに、作成した武器を使うときには体が強化される補正までかかるらしい。私は内心でガッツポーズを決める。


「なにをぼんやりしている! この特製の斧で真っ二つにしてやる、覚悟しろ、小娘!」と指揮官が嘲笑を浮かべる。


「あれ? その斧、ずいぶんと立派じゃない……いただくわね」私は自分用の斧をスキルで作り出した。


「ほぉ、そんな技が使えるとはな……。あぁなるほど、あの時兵士たちが武器を持っていたのも、お前のその力のおかげだったわけか」


「バレちゃあしょうがないわね。でもいまさらでしょ?」


指揮官はふんっと鼻で笑い、さらに嘲るように言葉を続けた。


「……まあいい。で、その斧をお前に使いこなせるのか?」


「私を甘く見ないでよね! 見てなさい!」


その瞬間、指揮官が大斧を振り下ろしてくる。すると、体が自然と反応し、私はスキルの力で斧を受け止めた。補正がかかっているのか、強力な一撃にも耐えられそうだ。


「な、なにー!? どこにそんな力があるんだ、貴様!」指揮官は再び斧を振り上げて襲いかかってきた。


斧と斧がぶつかり合い、火花が散る。私は必死に耐えながらも、次第に押され始め、焦りを感じたその瞬間、テオロフさんの声が聞こえた。


「アンナ、今からワシが氷縛魔法を放つ! その場で伏せるんじゃ!」


テオロフさんの声が響いた瞬間、私は素早く床に伏せる。直後に放たれた魔法で、指揮官の斧を握る腕が瞬く間に凍りついた。


「いけ、アンナ! 今がチャンスじゃ!」


私は宙で体勢を整え、指揮官の肩めがけて全力で斧を振り下ろした。斧は彼の鎧を砕き、肩へ深く食い込んだ。指揮官は叫び声を上げ、右肩から大量の血が流れ出している。


「く、くそっ……こんな小娘に、この俺様が……! 絶対に許さん!」


「アンナちゃん、避けて!」


後ろからエマさんの声が響き、振り返ると、エマさんの杖が光を放ち、勢いよく木のツタが伸び出すのが見えた。私はとっさに指揮官の背後へと飛び込む。


ツタは指揮官の体に絡みつき、必死に抵抗するも、右肩の深い傷のせいでツタを断ち切ることができない。もがき続けるうちに次第に動きが鈍り、その場に崩れ落ちた。


指揮官が倒れるのを見届け、私は深呼吸し、気持ちを整えた。この強化された『武器投影魔法』の力があれば、これからは自分も十分に戦力になれる――そんな自信が湧いてきた。


それからしばらく手分けして建物内を調べたが、他に敵兵の姿は見当たらなかった。


「よし、中はもういないようね! じゃあ、負傷していない兵士たちは私についてきて。次は建物の外を確認しましょう。テオロフさんも一緒にお願いします」


「いや、ちょっと待てくれ……うぅ、腰が……」とテオロフさんが苦笑いしながら腰に手を当てるのが見えた。先ほどの戦闘で無理をしたのか、今すぐに動けそうにない様子だ。


「分かりました、ここで休んでてくださいね」私は軽くうなずき、テオロフさんを残して兵士たちを連れて外へ向かった。


外に出ると、あたりには戦闘の気配はないように見えたが、遠くで何かが動いているのが視界に入った。目を凝らして見ると、一人の青年が複数の敵兵と交戦している。周囲の兵士と異なる服装で、ガリレア王国の兵士ではない。


「……誰だろう? 味方? それとも……」


しばらく様子を見守っていると、青年が敵兵の猛攻をなんとか耐えしのいでいるものの、少しずつ追い詰められていくのが分かった。そして彼が握っていた剣にヒビが入り、ついには完全に折れてしまった。


「う、うそっ! 危ない! これ使って!」


私は走って近づき、咄嗟に手に持っていた斧を投げ渡した。斧は空中を舞い、青年の手元へと届いた。彼は驚いた様子で斧を掴むと、素早く構え直し、見事な動きで敵兵たちを次々と薙ぎ倒していく。その動きは、これまで見たどの兵士とも異なり、しなやかで、力強い。


しばらくすると、遠くからさらに大勢の敵兵が迫ってくるのが見えた。その時、青年が「湯脈探知」とつぶやくのが聞こえた。すると、彼が指し示した先の地面に大きな穴が開き、迫っていた敵兵たちが次々とその中に落ちていった。


青年が「ふぅ」と息をつき、「解除」ともう一度声に出すと、さっき開いていた大きな穴がゆっくり塞がり、地面は元通りに戻った。


私は急いで青年に駆け寄り、「大丈夫でしたか?」と声をかけると、彼がこちらを振り返り、にこやかに微笑んだ。


「君がくれたこの斧のおかげで助かったよ、ありがとう」と青年が言った瞬間、その表情に見覚えがあることに気づき、私ははっと立ち尽くした。信じられない思いで、思わず尋ねる。


「……ケンタ?」


青年も驚いたように私を見つめ返し、二人はその場でしばらく、時が止まったかのように言葉を失ったまま見つめ合った。

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