脱出ルートで進め!夜を駆ける奪還作戦
翌朝、目を覚ますと、私はみんなとの集合場所の教会へと足を向けた。会議用に用意された別室は、簡易な長机と椅子が並び、ちょっとした会議室のような雰囲気だ。
部屋にはテオロフさんやエマさん、そして熟練の兵士たちがすでに集まっており、戦況や救出方法について真剣な表情で話し合っている。
まずは、王様の救出を最優先すべきだ、という意見で一致する。すると、その時、伝令の兵士が息を切らしながら部屋に駆け込んできた。
「お伝えします! 国王陛下が捕らわれている場所が判明いたしました! キール王国の牢獄に囚われている、との確かな情報です」
伝令の報告に部屋がざわつく。すぐに救出に向かいたいところだが、すぐにテオロフさんが落ち着いた声で言った。
「しかし、本陣へいきなり乗り込むのは危険が大きい。まずは道中の街や村を奪還しながら進むのが賢明じゃろうな」
私はその案に同意し、大きく頷く。
「確かに、その方が兵士たちの士気も高まるし、味方も増えるはず。ではまず、王国の町や村を取り戻しつつ、牢獄への道を確保していく作戦にしましょう!」
エマさんが少し眉を寄せて、不安そうに口を開いた。
「でも、街や村を奪還しながら進むのはいいけれど、肝心の兵士の数が足りないと思うわ。このままだと、何度も敵に押し返されてしまうかもしれない」
アンナがふと考えたように尋ねた。
「脱出用ルートって、村から街とかにも繋がってるの? もしかして、そういう経路もあるの?」
「ええ、あるわよ。この王国の脱出用ルートを作ってもらったとき、ついでに各所を繋ぐようお願いしたの。だから、村と村を繋ぐルートや街と街を結ぶルートも整備されているわ」
「なるほど……でも、敵にそのルートが見つかってたりしないかな?」
アンナが心配そうに問い返すと、エマさんは安心させるように肩に手を置いた。
「大丈夫よ。王国にある脱出ルートは、昨日アンナちゃんが見つけたみたいに隠してはいないけど、各ルートは魔法で覆ってあるから、他の人には見つからないようになっているわ。私が破られない結界を施しておいたから、敵が村や街を結ぶ道も含めて見つけることはできないわ」
アンナは頷いて「なるほどね、それなら……」と話を切り出した。
「それなら、村をひとつずつ奪還して、その村の脱出ルートを使って次の村や街へ行けばいいわね。どうせなら奇襲って形で、夜に密かに入り込んで、短時間で奪還しちゃえば、余計な戦いを避けながら進めると思うの」
集まったみんなが、真剣な表情でアンナの話に耳を傾ける。
「それに、私が作った名剣があれば、少人数でもしっかりした戦力で奪還していけそうだし。だから、無理な戦いをしないで着実に進めるんじゃないかって思うの」
その案に、テオロフさんも含めて皆が賛成の意を示し、口々に「いい作戦だ」「それでいこう」と声が上がった。
するとテオロフさんがふと立ち上がり、「少し待っておれ」と言いながら自室へ向かった。数分後、彼は真新しい紙に記された地図を手に戻ってきて、それを皆の前に広げた。
「これが王国各地、そして各村から街へと繋がる脱出ルートを記した地図じゃ。以前に召喚した『ケンタ』が、丁寧に作って書いてくれたものだ」
「えっ? その、私の前に召喚された異世界人の名前って、ケンタって言うの?」とアンナは思わず聞き返した。
エマさんが穏やかに頷く。
「そうよ。この王国のためにできることを一生懸命探して尽力してくれたわ」
「ケンタ……ねぇ」
アンナは不思議そうに目を細め、少し考え込むように呟いた。
「うーん、ってか、あっちの世界で私が昔付き合ってた人と同じ名前だわ。……でも、そんな偶然あるわけないか。ケンタって名前、いくらでもいるもんね。あの人も急に行方をくらましたけど……まさか、そんなことあるはずないし」
ぼんやりと思いを口にすると、周りからは少し笑いが漏れ、場の空気が柔らかくなった。
「ならば、まずはこのルートで向かうのがよいじゃろう。ここから一番近い村の位置を確認して、移動時間を逆算し、夜のうちに奇襲をかけられるように出発すれば……」
皆で地図を囲み、各地に通じる脱出ルートと村の位置を見比べながら、到着時間を計算していく。アンナの作戦に基づき、村々を夜間に一気に奪還しながら進んでいくことが決定されていく。テオロフが各ルートの詳細と到達時間を調整し、エマさんが魔法で必要な護衛対策を考えながら、次々と奇襲の手筈が整っていく。
こうして奇襲の作戦がまとまり、皆が気合いを入れ直したところで、アンナはテーブルを軽く叩き、意気揚々と告げた。
「よし、じゃあ準備は万端ね! いよいよ私たちの奪還作戦、始めるわよ!」
夜の村々へと続く奪還作戦に向け、全員がそれぞれの準備を整えるべく散っていった。