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初めての魔法訓練、エマさんの厳しい指導

次の日の朝、私はベッドの中でぼんやりと目を開け、隣を見ると驚いたことに、エマさんが私の隣で眠っていた。しかも、服は少しはだけていて、朝日に照らされた姿がなんだか妙に色っぽい。私は、驚きと戸惑いで頭が真っ白になってしまった。


え、えっ……なんでエマさんがここに!? いつの間に!?


そう思っていると、エマさんがゆっくりと目を開け、私に気づき、柔らかな表情を浮かべた。


「おはよう、アンナちゃん。驚かせちゃったかしら?」


あっけにとられつつも、私はなんとか平静を装って返す。


「あ、あの、エマさん……どうして私の部屋に?」


エマさんは少しばつが悪そうにしながらも、さらっと言う。


「ごめんなさいね。どうしてもアンナちゃんが心配で眠れなくて……つい、一緒に寝ちゃったの」


私は目を丸くしながら思わず言ってしまう。


「いやいや、だからって私のベッドで一緒に寝る理由にはならないですよ! せめて、自分の部屋で休んでくださいってば!」


エマさんは困ったように微笑みつつ、気にした様子もなくベッドを出ると、私を見つめてにっこり笑った。


二人で朝食を済ませて服を整えた後、気を取り直し、エマさんと一緒に訓練場へと向かうことにした。


訓練場に向かう途中、すれ違う兵士たちが、なぜか私を見ては小声で「ご愁傷さまです」とつぶやいたり、「覚悟しとくんだぞ」と肩を叩いてきたりする。私は訝しむが、すぐに訓練場にたどり着くと、ふと理由がわかってしまった。


「じゃあ、早速聖魔法の基本を覚えましょうか。集中力が大事よ?」


エマさんが微笑みながらそう言った次の瞬間、急に表情が引き締まり、目が鋭く光る。いつもの優しい雰囲気はどこへやら、強い圧力と威厳が放たれていて、思わず一歩後ずさってしまう。


「ほら、アンナちゃん、そこ気を抜いちゃだめ。聖魔法はそんな簡単なものじゃないわよ!」


いつもの穏やかなエマさんが、まるで別人みたいに厳しい口調で私を叱る。容赦ない指導が続く中、次第に私は冷や汗をかき始め、必死でついていこうとするが、どうにもうまくいかない。


「は、はい……えっと、こう……ですか?」


「違う! そんなやり方じゃ魔法が暴発するわ! しっかり集中して、もっとこう、全身に魔力を通すように!」


鋭い声に縮み上がりながら、なんとか努力するものの、魔法はうまく発動せず、思うようにはいかない。厳しさのあまり、私は内心もう無理だと諦めかけた時――ふっとエマさんがいつもの柔らかい表情に戻った。


「ごめんね、少し熱くなりすぎたかしら」


その言葉に私は肩の力が抜ける。


聖魔法は無理かも……


内心でそうつぶやきながらも、今度テオロフさんに基礎から教えてもらおうと密かに決意する。


その時、ふと訓練場の隅にある洞窟のような通路が目に入った。不思議に思い、エマさんに尋ねてみる。


「あの……エマさん、あれって何ですか?」


「ああ、あれね。これは緊急時の脱出ルートなの。王国が危機に瀕した時、国民が安全に逃げられるよう、周辺の村や街に続く地下通路をいくつも設けているのよ」


「なるほど……それを作ったのも、異世界の人だったり?」


「ええ。あなたの前に召喚された異世界の方がね、【湯脈探知】のスキルを応用して、地下の道を探しながら作ってくれたの」


「へぇー……ちゃんと国のことを考えてたんだ。たぶん、自分が戦いのスキルには向いてないから、その分一生懸命に国のために何かできる方法を探してたんだろうな」


異世界から来た召喚者が必死にこの国の力になろうとした姿を想像しながら、私はふっと感心したように呟いた。


すると、少し離れた木陰からじっとこちらを見ている影があることに気づく。顔を上げると、それはテオロフさんだった。エマさんの厳しい指導が終わるのを待っていたらしい。私たちに気づかれると、テオロフさんは微笑みながらこちらへ歩いてきた。


「アンナよ、ちと心配で様子を見に来たが、元気そうで何よりじゃ」


「テオロフさん! わざわざありがとうございます。でも、少し魔法の指導を受けたら、エマさんが別人みたいで……」


エマさんは照れくさそうに笑い、肩をすくめた。


「ふふ、ごめんなさいね。でも、テオロフさんが来てくれたなら安心だわ。私はそろそろ戻るわね。頑張って、アンナちゃん」


エマさんが優しく手を振って訓練場を出て行くのを見送ると、テオロフさんが私に向き直り、真剣な眼差しで言った。


「さあ、ではわしも一肌脱いでみるかの。アンナよ、まずは基本の集中の方法から始めてみよう」


テオロフさんの指導は優しくも的確で、確かにわかりやすい。けれど、やはり魔法はうまくいかず、頭がぼんやりするばかりだ。何度試しても反応がない自分に少し焦りつつも、私は何とか笑ってみせた。


「うーん、やっぱり無理かも。でもいいや。私はスキルでみんなの役に立てれば十分だし、魔法もいずれそのうち使えるようになるでしょ」


テオロフさんは微笑みながら私の肩に手を置き、「そうじゃな、きっとそのうちにな」と優しく励ましてくれる。訓練場での時間も一通り終え、私は明日の領土奪還に備え、テオロフさんに挨拶をして部屋へ戻ることにした。


明日はいよいよ本格的な戦いが始まるんだから、今日は早く寝ようっと。


部屋に戻り、備え付けのシャワーを浴びて疲れを流した。湯気の中、今日の訓練やエマさんとテオロフさんの顔を思い浮かべると、なんだか少し安心して、明日も頑張れそうな気がしてきた。


シャワーを終え、ベッドに横になると、身体がどっと沈み込むように疲れが出てくる。心地よさに包まれて、思わず瞼が重たくなり、すぐに意識が薄れていった。


こうして、異世界での新しい一日が静かに終わり、私は深い眠りに落ちていった。

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