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廃鉱山の謎と漆黒の魔物ガルダヴォール

兵士たちの足音が冷えた朝の空気を揺らし、浅い眠りを引き裂いた。簡易ベッドから体を起こし、肩を軽く回す。昨日の戦いの疲れが、まだ全身に絡みつくように残っている。


簡易休憩所では兵士たちがそれぞれ準備を進めている。そっと近づいてくる気配に顔を上げると、エマさんの優しい眼差しが目に入った。


「大丈夫? 無理しちゃダメよ。体調が思わしくないなら、少し休んでてもいいのよ」


「少し眠れたので、大丈夫です。それに、まだ頑張れますから」


落ち着いた声を心がけたつもりだったが、ぎこちなさが残ったかもしれない。エマさんはじっと見つめたあと、そっと肩に手を置く。


「無理しちゃダメよ。アンナちゃんが頑張ってくれてるの、みんなちゃんとわかってるんだから。でも、倒れたら元も子もないでしょ?」


その言葉に、不思議と肩の力が抜ける。気にかけてもらえる安心感が、心を解きほぐしてくれるようだった。


「ありがとうございます。無理しないように気をつけますね!」


返した言葉にエマさんはそっと頷き、肩の力を抜いたように小さく息をついた。歩き出す前に、一瞬だけ立ち止まり、こちらを振り返る。その仕草にどこか温かさが滲んでいた。


エマさんとともに廊下を進むと、テオロフさんの落ち着いた声が響いた。


「アンナ、準備はできたかの? 一緒に会議に向かおうぞ」


「はい、もちろんです」自然と答えが口をつく。エマさんが柔らかく微笑むのを感じながら、少し足を速めて歩き出した。


会議室に入ると、兵士たちがテーブルの周囲に集まっていた。簡素な地図が中央に広げられ、その上に目を向けて作戦を練っている様子が伝わってくる。テオロフさんが先に歩を進め、空いている席を示しながら促した。


「さっそくだが、アンナ。これから次の作戦を話し合うんじゃが、もし何か気になることやいい案があれば教えてほしい。もちろん、なければそれでも構わん。ただ、アンナのひらめきがときどき驚くほど鋭いからのう、つい期待してしまうんじゃよ」


地図に目を落とす。キール王国までの道のりは長く、村や砦が点在している。その全てがすでに占拠されていると聞いており、奪還しながら進むべきか、それともリスクを承知で一気に王国へ向かうべきか――迷いが胸を過ぎる。村や街を解放したいという思いは強いが、王国を早く奪還しなければならないという焦りもある。


指で地図をなぞりながら、ふと目に留まった場所に考えが止まる。


「ここ見てください。この森の北側にある山道……ここを通れば、防衛線を大きく迂回できるんじゃないですか?」顔を上げ、エマさんとテオロフさんに目を向けた。


「その山道か……」テオロフさんが顎に手を当て、地図に視線を戻す。「確かに短縮ルートとしては優秀じゃが、問題がある。この先にある廃鉱山が、すでに崩れて行き止まりになっておる。通るのは無理じゃよ」


「廃鉱山か……」声が漏れ、周囲を見渡す。兵士たちも眉をひそめ、思案している様子だ。


その時、後ろの方から声が上がった。「あの、そういえば昨晩、王宮でこんなものを見つけたんですが……」一人の兵士がポケットから取り出したのはスコップのような道具だった。


「スコップ……?」エマさんが首を傾げる。


「これで掘るとか言うんじゃないだろうな?」別の兵士が半ば冗談のように笑ったが、持ち主の兵士は真剣な表情を崩さない。


「いえ、普通のスコップじゃないみたいなんです。昨日地面を掘ってみたんです。そしたら、固い岩も普通の土と同じくらい軽く掘れてしまったんです」


ざわめきが広がる。テオロフさんがスコップを手に取り、じっと眺める。「ふむ……確かに、普通のものではなさそうじゃな。試してみる価値はあるかもしれん」


エマさんがふとこちらに顔を向ける。「アンナちゃんのスキルで、こういうのも作れたりしないかな?」


「え? スコップは武器じゃないので……多分無理だと思いますけど……」首を振りながらも、一応試してみることにした。スコップをじっと見つめ、念じるようにスキルを発動する。


目の前に光が集まり、スコップの形をとって現れた。


「えっ、本当にできたの?」エマさんは目を見開き驚いている。


「武器じゃないものも作れるようになってたなんて……アンナちゃん、すごい!」


「いや、ちょっと待って」スコップを見つめ直したエマさんの表情が険しくなる。「このスコップ、普通じゃないわ。特別な魔力を感じる……これ、もしかして武器としても使えるんじゃない?」


部屋に漂う緊張感を切り裂くように、兵士が手にしたスコップを軽く振ると、鋭い音が響いた。


「これ、まるで短剣みたいだな……!」

「本当にスコップか? 下手な武器よりずっと頼もしいぞ」


兵士たちは驚きと興奮を隠せずにスコップを見つめ、互いに感想を漏らしていた。


「アンナ、早速スキルでいくつか作ってくれんかの?」とテオロフさんが落ち着いた声で言った。


「でも、そんなにたくさん作らなくてもいいわよ」とエマさんが優しく付け加えた。「交代しながら使えば十分だから、無理しないでね」


「はい、大丈夫です! 任せてください」と答えた。その時、ふとスキルを確認する。


『武器投影魔法 Lv.31』


1だけ上がってる……! この前は30だった。それだけでなく、スキル欄に新しい情報が追加されているのに気づく。


『武器として使用可能な物品の作成を許可』


なるほど……そういうことね。私は納得するとスキルを発動し、次々とスコップを作り出した。それらを兵士たちに手渡しながら、準備を整えていく。


必要な数が揃うと、全員が頷き合い、一行は山道へと向かって歩き始めた。



山道へと向かう一行は、冷たい朝の空気の中を足早に進んでいた。木々が生い茂る険しい地形に囲まれた道は、廃鉱山への入り口へと続いている。道中、兵士たちはスコップを手に取り、それぞれ準備を整えていた。


「廃鉱山に着いたらすぐに掘り進める。スコップは交代で使い、作業を分担して効率を上げるんじゃ」とテオロフさんの声が響く。


廃鉱山の入口が視界に入ると、一行は足を止め、岩や瓦礫が行く手を阻む様子を確認する。兵士たちはそれぞれ配置に着き、スコップを手に持ち直した。


「よし、みんな、始めるぞ!」


テオロフさんの号令とともに、スコップを手にした兵士たちが一斉に作業を始めた。土と岩を掘り進める音が、廃鉱山の静寂を破って響き渡る。


私も一緒にスコップを手に取り、掘削の手伝いを始めた。スキルで作った道具の使い心地はよく、手応えを感じるたびに確かな成果が積み重なるようだった。エマさんが少し離れた場所から見守りつつ、必要があれば声をかけてくれるのが心強い。


作業が進むにつれ、硬い岩盤の壁が目の前に立ちはだかった。一瞬、進行が止まるが、兵士たちは諦めることなく掘り続ける。やがて――。


「こ、これは……!」


前方で掘っていた兵士が驚いた声を上げた。その声に、一同の動きが止まり、掘削現場に視線が集まる。


壁の一部が崩れ、その先に現れたのは、暗闇の中へと続くトンネルだった。普通の採掘ではありえないほど均整の取れたアーチ状の天井、そして不気味なほど滑らかな壁面。その先からは冷たく澄んだ空気が流れ込み、わずかに青白い光が見える。


「こんなものが隠れていたとはのう……」テオロフさんが目を細め、トンネルの奥を慎重に覗き込む。「どうやら、単なる鉱山跡ではなさそうじゃな」


その言葉を聞きながら、トンネルの奥に目を凝らす。不思議と、この先には何かが潜んでいる――そんな直感が胸をざわつかせていた。冷たい空気が肌を撫で、緊張感が一行を包む。


「グオォォォォォォォォォォ!」


耳をつんざく咆哮がトンネルの奥から響き渡る。暗闇の中から現れたのは、全身を漆黒の鎧で覆った巨大な魔物。体格は人間の三倍以上で、獣のような頭部には鋭い牙と深紅の目が輝いている。ねじれた黒い刃の異形の槍を爪の生えた腕に握り、一歩踏み出すたびに重々しい金属音が響いた。


「こやつは、まさか……ガルダヴォール……!」テオロフさんがその名を呟く。


「お、おい、なんでこんな場所にあんな魔物がいるんだよ!」


「でかすぎだろ……普通、こんなの洞窟に入るか?」


兵士たちの動揺が広がり、ざわざわとした声が止まらない。


私はその威圧感に息を飲みながら、思わず声を漏らしていた。


「うそ……うそでしょ? こんな魔物がいるなんて、そんなの聞いてないんだけど!!」


焦りで胸が騒ぐけれど、ここで怯んでいる場合じゃない。キール王国に着く前に全滅なんて、シャレになんないわ……!


兵士たちは名剣を抜き、「魔物だ!」「戦闘準備を急げ!」と互いに声を掛け合う。緊張感が一気に高まり、場が引き締まった。テオロフさんは魔力を練り上げ、エマさんは素早く結界を張り巡らせて守りを固めた。


その時、はっと自分が武器を持っていないことに気づいた。


「……あっ、やばい。うそ。忘れてきちゃったーー!!」


ケンタに斧を渡したまま、他の武器を準備していなかった焦りが胸を駆け巡る。そんな中、視線の先に魔物が握る槍が目に留まる。


「とりあえず、武器がないよりかはマシよね……あれだったら、スキルで作れるはず……! よしっ!」


素早くスキルを発動させると、光が集まり、槍の形を取って現れる。その冷たい金属の感触を確かめるように握りしめ、一つ深呼吸をして気持ちを整えた。

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