転移早々、国の命運を託されるとか……でも、やるしかないよね!
私の小説を読んでいただきありがとうございます!この物語の短編を多くの方に読んでいただけて、とても嬉しいです。今回、新たに連載として書き始めましたので、ぜひ楽しんでいただければ幸いです!少しゆっくりめの投稿ペースになりますが、よろしくお願いいたします!
「はいはい、じゃあ本当にいいんですね? 国が滅んでも知りませんから。さようなら」
「ほざけ、愚か者め! おい、そこの兵士! この野蛮な異世界人を国の外まで連行しろ!」
♢ ♢ ♢
――その追放宣言を受ける約3週間前、私はこの世界に転移してきた。
私は、新野アンナ、26歳。ブラック企業で働き詰めのOLで、帰宅したのは今日も深夜。クタクタになりながら自宅の玄関を開けたその瞬間、突然まばゆい光に包まれ、気づくと見知らぬ場所にいた。
周りを見回すと、そこは重厚な石造りの教会。天井まで伸びる荘厳な柱が立ち並び、鮮やかなステンドグラスから柔らかな光が差し込んでいる。
ここって教会? どうして私がこんなところに……?
黒髪のミディアムヘアが少し乱れたスカートスーツ姿の私。なんだかこの厳かな場所に場違いに見える気がする。
ふと周囲を見渡せば、視線が一斉に私に注がれていた。緊張の静寂が流れ、誰かが息を呑むように声を上げる。
「おおっ! 召喚成功だ!」
周りの人々が歓声を上げ、目を輝かせて私を見つめてくる。
その後、状況を説明してもらった。幸いネット小説で異世界転移モノには慣れ親しんでいたので、意外とすんなりと状況を飲み込むことができた。前の世界に未練もなく、新しい生活に少しワクワクしている自分がいる。
説明が一段落すると、そばにいた修道女が異世界風の衣装をそっと差し出してきた。
「よろしければ、こちらにお召し替えくださいませ。お細身でいらっしゃいますから、きっとよくお似合いでしょう」
案内された部屋で、渡された服を手に取ってみる。膝丈のチュニックは柔らかい生地で、袖口と裾にはさりげなく刺繍が施されている。腰にベルトを締め、肩には軽いケープ、足元には革のブーツ――動きやすそうで、異世界らしい装いだ。
「えっと……これがこの世界での普通の服装ってことよね?」
スーツを脱ぐのは少し躊躇したけれど、着替えてみると意外としっくりきた。布の軽さや刺繍の美しさに、しばし見とれてしまう。
「意外と似合うじゃない」とつぶやきながら、鏡に映る自分をもう一度確認した。
新しい衣装を身にまとい、再び召喚の場へと戻ると、女神像に祈りを捧げれば、異世界人特有のスキルが授けられるという。私は促されるまま壇上に上がり、片膝をつき、祈りの姿勢を取った。
その時、ローブを纏った老人が一歩前に出てきた。フードを深く被り、鋭い眼光が年老いた姿にもかかわらず威厳を感じさせる。杖の先端がわずかに光を放っている。
「スキルは自分にしか分からぬ。女神像に意識を集中させれば、頭の中に文字が浮かんでくるはずじゃ」
彼の言葉に、周囲に緊張が走る。私は女神像を見据え、心の中で祈りを捧げた。すると、不思議な感覚が頭に広がり、スキル名がゆっくりと浮かび上がってくる。
【スキル名:武器投影魔法 Lv.1】
えっ? 武器投影魔法? スキルの名前を見ても、正直ピンと来ない。イメージもあまり浮かばないし、なんとなく微妙な気がする。私の中ではもっと分かりやすい、例えば『剣聖』や『大魔導師』みたいなチート能力を想像していたんだけど……
これって早々に追放されるフラグなんじゃ……? やばい、どうしよう
「さあ、何のスキルじゃった?」
ご老人が尋ねてきた。正直に答えるべきか、それとも少し誤魔化すべきか……。嘘がバレたら大変なことになるかもしれないし、ここで極刑なんて勘弁してほしい。
「え、えーっと。魔法で武器を作れるスキル、かな?」
「な、なんじゃとー!!」
ご老人は驚きのあまり杖を落とし、周囲の人々もざわめき始めた。やってしまった。これ、ハズレスキルだよね……ああ、死刑だけは勘弁してください。
「おお! 大当たりじゃ! でかしたアンナ!」
「え?」
聞けば、この国は武器を作るための素材のほぼすべてを、戦争中の敵国・キール王国から輸入していたらしい。しかしその供給が途絶えたことで武器が不足し、多くの兵士が戦場に出られず国内に留まっているという。
鍛冶師たちは仕事を失い、国を出て行く始末。周辺の自国領も9割が敵に占拠され、残るはここ王国と、近隣の集落や町だけだという。
「え? それって絶体絶命のピンチってやつじゃなくて?」
「そうじゃ、だからお主を召喚したのだ」
「……」
最悪だ……召喚されたばかりで国の命運を託されるなんて。このまま何も聞かなかったことにして、立ち去りたい……。
「ま、まあ、まずは魔力量を測定してみてはどうじゃろうか? ずっと立っておるのも疲れよう、そこの椅子に腰掛けるといい。何か後で飲み物を持ってこさせよう」
私の表情を見抜いたのか、老人は急に優しい口調に変わった。頑張って表情を隠しているつもりなのに、バレているのかしら……。
ご老人が壇上から降りると、代わるようにして、ふんわりした金髪の美しい女性が私の前に立ち、一礼した。透き通った青い瞳に穏やかな光があって、浮かんだ笑みが安心感を与えてくれる。彼女がゆっくりと杖を掲げ、私の頭上にそっとかざすと、杖の先が白く光り始めた。
彼女が驚きの声を上げる。
「な、なんということです! こんなに膨大な魔力を感じたのは初めてです!」
「そんなにあるの? 私は何も感じないけど」
「これから数値化してお見せしますね!」
周囲の人々がその言葉を聞き、救世主だと騒ぎ立て始める。これで逃げられなくなってしまった……。
私の力でこの国を救えるのかはわからないけれど、期待されている以上、見捨てるのもなんだか気が引けるわね。
そう思いながら出されたハーブティーを一気に飲み干すと、教会の扉が勢いよく開き、伝令の兵士が慌てた様子で駆け込んできた。
「で、で、伝令いたします! 我らが国王陛下が敵地偵察中に捕らえられました……! また、我が国の残りの領土もキール王国に占拠され、敵の大軍が門前に迫っております! い、いかがなさいますか?」
その知らせを受け、場の空気は凍りついた。
ちょ、ちょっと待って! え、王様が捕まって、残りの領土も全部敵に取られた? で、今その敵が門前まで迫ってるって?! いやいや、やばいでしょ……。
って、いかがなさいますか? じゃないわよ! 誰がここを明け渡すっていうの? 敵に捕まって牢獄暮らしなんて、絶対に嫌だからね!
ふと疑問が湧き上がる。
そもそも、こんな重要な場に王様がいないってどうなの? ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないわね。
私は息を整え、みんなに向かって強い口調で言い放った。
「ねえ、みんな確認なんだけど、この戦いの勝敗は、私が握ってるってことになるのよね?」
「そうじゃ。他に手立ては残っておらん。すまぬな、こんな絶望的な状況でお主を召喚してしまって……もう降伏するしか道は……」
「だめよ、降伏なんて絶対しないわ! このまま負ける気でいるなら、この私が指揮を取る! それでもいい?」
集まった者たちは互いに顔を見合わせ、頷いた。
「反対意見がないなら賛成ってことでいいわね!」
私の決意を聞いた皆が目を輝かせ、意気込みを込めてうなずき返してくれる。
そうして、この瞬間から――私と、この国の運命をかけた戦いが始まったのだった。
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