①今宵
十月三十一日。
今日は年に一度のハロウィンで、近所の子供達は盛り上がっている。
私、松木茜も姉にやってもらったゾンビメイクでかなりクオリティの高い仮装となっていた。
でも、薄いワンピースに腕の包帯だけだから、ちょっと寒い…。
震える体を両腕で温めながら、友達との待ち合わせ場所である公園へ向かう。
「あっ、茜来た!」
公園の近くまで来た時、人の輪の中から友達の小夏が手を振ってきて、慌てて駆け寄った。
「ごめん、遅くなって」
「大丈夫だよ。よし、これで五人揃ったね」
魔女の仮装をした小夏は、みんなを見回す。
「さてと、どこからお菓子もらいに行こうか?」
「なんかさぁ、ただお菓子もらって回るだけじゃ、面白くないよな」
フランケンシュタインの健太がそう言って、キョンシーの舞が小首を傾げる。
「本当にイタズラとか仕掛けるってこと?」
「何言ってるの、そんなの怒られるに決まってるでしょ」
一喝する小夏に、健太が「違うって」と笑う。
「みんなで一軒一軒回っても時間がかかるだけだし、誰が一番多くお菓子を集められるか、競争しようぜ」
「あー、それならまあ良いかな。二人は?」
小夏が私と大雅の方を見て、確認してくる。
「楽しそうじゃん」
「うん、そうだね」
肯定の相槌を打ったが、私は内心では焦っていた。
一人で何軒も回るのか…。
人見知りだった私には、少しハードルが高く感じた。
けれど、自分以外の人は賛成の様子だったため、どうしても流されてしまう。
「じゃあ、決まり!これからそれぞれ家を回って、三十分後に一番お菓子を持ってきた人が勝ちね!負けた人たちは一人一つずつお菓子を勝者に渡す」
「よし、よーいドン!」
健太の合図でみんなが一斉に走り出す。
私もそれに続いたが、近くの家から攻めていくみんなを見て、まずは少し離れたところから戻ってくるように集めていこうと思った。
普通なら家に帰っているような、外も暗い時刻。
それでも他にお菓子をもらいに回っている子どもたちや見回りの大人が居たため、賑やかではあった。
いつもとは違う雰囲気に心を躍らせながら、見慣れた道を歩いていく。
そろそろどこかの家を訪ねてみようかな?
そう思った時、ふと二人の子どもが目に留まった。
タキシードのような服に上等そうなマントを羽織っている。
しかも、顔には少しだけ柄の違うお揃いの仮面。
うわぁ、気合入ってる!
他の子はペラペラのいかにも仮装という衣装なので、余計に二人が目立って見えた。
けれども、その二人は人の少ない道の方へと歩いていく。
その方向は私が通っている学校の方だった。
何となくその二人が気になって、後をつけてみる。
知っている道ということもあって、そこまで恐怖は無かった。
予想通り二人は学校の前まで来ると、普通に正門を少し開けて、中に入って行ってしまった。
校舎を見上げてみると、一部の教室は明かりも点いている。
もしかして、先生たちもお菓子を配っているのかな?
あの二人はそれを知っていて、お菓子をもらいに来たとか。
そう考えた私は、二人の後に続くことにした。
昇降口から校舎内に入り、進んでいく。
その間、何となく私は前の二人に気づかれないように距離をとっていた。
そのせいで途中で二人の姿を見失ってしまう。
どうしよう、これだとお菓子をもらえる場所が分からない…。
「あの」
悩んでいる時に声を掛けられ驚いて振り向くと、そこにはカジュアルめのスーツを着た一人の男性が立っていた。
一見すると普通の教師に見える格好だが、私は恐怖で声が出なくなった。
私の視線は頭のついていない首に釘付けになっていた。
「あの、大丈夫?」
彼が存在しない口で話しかけてくる。
逃げなきゃ…!
けれど足がすくんで逃げ出すことすらできない。
そんな私を見かねたのか、彼は少しだけしゃがんで存在しない目線を合わせてきた。
「君も同窓会に参加しに来たの?」
同窓会?
思いもしなかった言葉に、頭の中の恐怖が疑問に変わる。
「今日、同窓会だよね?ほら、ここらへんで死んじゃった人の」
「そ、そうですね…」
震える声で何とか答える。
すると、彼はホッとしたような声になった。
「良かった、ここで合ってるか不安だったんだ。君はまだ小学生っぽいね。そんなに早くに亡くなって、可哀そうに」
彼が「会場は職員室でしたっけ」と言いながら、廊下を進んでいこうとする。
けれど、私は彼の後についていく決心も、逃げ出す決心もつかなかった。
「どうしたの?」
振り返って尋ねてくる。
「行かないの?」
「えっと…」
言い淀んでいると、急に男性の声が下がった、
「もしかして、生きてる?」
周りの空気が凍り付いたように冷たくなる。
本能的に危険だと判断したのか、私は今までのが嘘みたいに綺麗な作り笑いをした。
「え、何のことですか?」
「ん?いや、何でもないよ。違うなら良いんだ」
男性は元のトーンに戻ると、先に進んでいこうとする。
私は覚悟を決めると、その後に続いて歩き出した。