終活後の就活を求める
大神官ゾナって言う婆さん、なんか癖になる。と言う不純な心で第二話こさえてみました。
クソバ・・・・・・じゃない。
元美人僧侶ゾナ様改め大神官ゾナ様の供養デートを受けることができる供養マンスリーサポートプログラムにはお金がかかる。
浄財を亡者からもむしり取るシステムがあるなんて、田舎育ちの白骨オイラは知らなかった。
それも月々銀貨20枚もの大金。
オイラは怒りに天衝く髪もないドクロをカタカタ言わせクソバ・・・・・・もといゾナ様に抗議と罵声を思いつくかぎり浴びせた。
亡者の屍たるオイラの白骨拳にクソババアの胸元を掴まれたゾナ様。しわが深い唇が「きゃー!亡者さんのエッチィー!」と悲鳴上げ、枯れ枝のような諸手で突き飛ばしてきたもんだから、筋肉は野犬の餌に消えた我が白骨ボディの肋骨がポキポキポキと頼りない感じに崩れた。
「オイコラクソババ・・・・・・じゃなかった、ゾナ様よお。神に仕える大神官様だからって亡者に何しても赦されるなんて思うなよ?」
「誰がクソババアじゃ!賽銭が払えない貧乏死者なんぞは、この金貨18000枚で買った錫杖で地獄おくりもできるんじゃからな?金目の物がないなら、この村の南の街道で旅人でも襲ってコツコツ銀貨20枚か銅貨2000枚を用意して、東に行ったところの寺院で終活準備するが良い」
「やいクソババア!初恋を返せとはもう言うだけ無駄だから言わないが、オイラはアンデッドモンスターに身をやつす気はないぞ!」
「じゃあ、お前さんはずっとそこで骨になってころがっとれ。終活と就活の窓口は神殿か寺院で受け付けておるから、気が変わったら職業『田舎スケルトン』になるのがあるべき流れじゃ。それと、ワシを呼ぶ時は『偉大なる大神官ゾナ様』と地面に額をこすりつけて平伏して呼べ。次クソババアと呼んだら魔王すら恐れる神聖浄化砲で散骨してやるわい」
クソババアの目が殺意を帯びているので、魔王が恐れるなんとかはかなり亡者に優しくない仕様らしい。
「わかったよクソゾナ様。伊達に勇者一行の一翼を担ってたワケじゃないようだね。善良な元村人に悪事をそそのかすのは神の教えに背かないのかい?」
「む。むぐぐ。クソゾナ様も禁止!元村人の分際で、口の達者な亡者じゃな」
「そっちだけ名前があるなんてずるいぞ!俺にもなんか神に祝福されてそうな名前を寄越せー!」
「戒名は別料金じゃ。しかし、お前の言うことにも一理ある。亡者じゃつまらんから『タロウ』と今日から名乗るが良い。フルネームは『タロウ・スケルトン』じゃ」
「やだー!都会人に馬鹿されそうな名前ー!やだー!タロウやだー!」
手足をカラカラ言わせ駄々こねる亡者改めタロウ・スケルトン。
「良い大人が白骨死体で器用に暴れるな!もう冒険の書に記録しちゃったから、お主はタロウ・スケルトン決定!」
「やだー!タロウやだー!」
「そうか。今すぐ骨ごと粉砕を希望か?」
「それも嫌だー!」
「じゃあ、そこで拾った錆びた剣を与えてやるから、旅人でも襲って銀貨か銅貨を集めてこい」
やっぱこの老神官はクソババア決定だ。不肖、村人Aだったオイラにだって良心がある。
魔王の脅威から解放された平和な旅路を行く人を襲うなんてオイラの辞書には無い。
「わかったよ。じゃあ、ちょっくら金集めの旅に出かけてやるよ」
若干ふてくされた口調で錆びた剣を受け取ったオイラ。
村の奥へと進む為に背を向けたクソババ・・・・・・改めクソゾナ様の後頭部を剣の欠けた刀身で思いっきり殴りつけてやった。
するとどうでしょう!
タロウ・スケルトンのパラメータのレベル欄がどえらい勢いで1から55まで上がり続けた。
その間いちいちファンファーレがどこからか鳴り響くので、村の奥の亡者の眠りを妨げたっぽい。
『タロウ・スケルトンは、タロウ・スケルトンマスターにレベルアップした』
どうやら、オイラは大神官を倒したことでものすごい勢いで成長したようだ。
「うう、私はどうしたのかしら?」
クソババ・・・・・・もとい、打ち所が悪かった大神官ゾナ様の魂は、美少女神官ゾナの姿で幽霊にレベルダウンしたらしい。男女でこの視覚的差別はずるいと神を呪う。
しかし、短期間に亡者が増えたりレベルアップしたりするこの村には魔王の怨嗟の呪いが残っているかもしれない。
「亡霊の後輩なお嬢さん。私と浄財集めの旅に出かけませんか?天に召され損なったのも多生の縁」
オイラは亡霊美人神官ゾナ様を少し長めのデートに誘ってみたのだった。
「親切な白骨さん。どうも亡霊になった前後の記憶がない私に手を差し伸べてくださり感謝します」
「なら決まりだね」
白骨達人になったオイラが差し伸べた骨の手を取ったレベル1亡霊のゾナ様は、まだ実体が無かったので、握り返せない寂しさを覚えたらしい。
旅立ちの亡者タロウ・スケルトンのパラメータがレベルアップする瞬間のBGMは某竜退治系RPGのメタルなモンスターを退治した直後を連想してます。