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むかしの話である。
島国の端に位置する町。その片隅に、小さな神殿が建っていた。まつられているのは女神だった。
石造りの神殿には、一日に三人訪れれば多いほうで、下手をすると一人も来ない日さえあった。それでもここの女神は気にしなかった。
しかし、最近は毎日のように祈りを捧げにくる老女がおり、零の数字は避けられていた。
今日も老女は神像へ向け、ひざまずき、両目を閉じて祈る。外は晴れているためか、あたりはあたたかな雰囲気に満ちていた。
(熱心ね……)
そう考えながら、女神は老女を見守る。ただし、正面からではなく──ななめ後ろから。
神殿内の右と左、それぞれに椅子が並べられ、入って左側の椅子の一脚に女神は座っていた。
すべての椅子は木製で、座面は布張り。湾曲した背もたれと、ゆるやかな曲線を描く脚が付いたものだ。横並びに四脚ずつ、右側と左側で全部合わせて八脚ある。空いた中央には人間二人分くらいの幅の道があり、そこから奥へ進むと神像が安置されていた。
衣擦れの音が聞こえる。老女が立ち上がり、振り向いていた。どうやら帰るらしい。
女神の座る横を、老女は通りすぎていく。たいていの人間には、女神の姿は見えない。ごくまれに見える者も居ると聞くが、女神は一度も出会ったことがなかった。
やや遅れて、女神も立ち上がる。頭にかけたベールが、ふわっと、一瞬浮かぶ。老女の後ろをついていく。
女神の歩みは、出入り口で止まる。丸まった背中が小さくなっていく様子を、じっと眺めた。
(今日も来てくれてありがとう)
老女の姿が視界からなくなるまで、女神はその場から離れなかった。