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読んでも読まなくてもどっちでもいい

はじめて小説を書こうとしているきみへ

作者: 阿部千代

 耳の穴かっぽじってよく聞きな。おれのことよく覚えな。おれが阿部千代だ。小説家になろう広しといえども阿部千代はただ一人、このおれだけだ。せいぜいチェックしておきな。なめんなよヨロシク。


 さて。暑くなったり寒くなったり、季節の変わり目は体調維持も大変だと存じますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 おれはちょっと頭がおかしいのです。謙遜でも冗談でもなく、気分が高揚してどうにかなりそうなのです。

 お見苦しい言い訳となりますが、おれは本来インターネット上でこのような主張の激しい文章を発表するような人間ではありません。じめっとした日陰の石の下で、ひっそりと伸び縮むコウガイビルのような人間なのです。

 ですが、ここ最近のインターネットおよび人間社会の荒廃は目に余るところがあり、おれのこの爆発しそうな気分に任せて筆を執った次第です。お目汚しではございますが、是非ともご覧頂きたく存じます。


 なあ……おまえらどうなのよ? 本当のところ、どうなのよ? こっそり教えてよ……誰にも言わないからさ。秘密にしておくからさ。

 おれは今日、初めてこのサイトのランキングってのを覗いてみたんだがよ。想像以上だったよ。あれはマジなのか? マジでやってるのか? おれ、すごく怖かったよ。戦慄を覚えたよ。本当に鼓動が早まったもん。ぐにゃあっ……って久しぶりになったよ。おそらく寿命も縮んだんじゃないかなあ。

 かつてグレート東郷の流血試合をテレビで観て、老人が何人かショック死したって話があるけどさ、まじであれ、それくらいのインパクトあるよ。そのうち死人出たっておかしくないよ。いくらなんでも、ありゃねえよ。なあ……あれはなんていうジャンルの娯楽形態なんだ? あくまでもあれを小説って言い張るのか? いや……まああれも小説なのかもしれないけどよ……でも小説か? いや……小説なんだろうなあ。


 わかった。得心した。あれは小説だ。そうだよ、おれはなにを言っているんだ。目を覚ませ、阿部ちゃん。書いたやつが小説だって言えば小説だし、自分は作家だって言い張れば作家なんだよ。そこに文句をつけようもない。つける資格なんて誰にもない。

 書いたやつには尊敬の念しかないよ。本当だ。ランキングに載るなんて生半可な才能じゃできるこっちゃない。誇っていい。おれに言われなくても誇ってるだろうがな。ホント凄いよ。掛け値なしに凄い。あれを書きながら正気を保ち続けるのはなかなかできる芸当じゃないって。よっぽどの修羅場をくぐってきたんだろうな。胆力が半端じゃない。凄すぎる。喧嘩したくねえな、やつらとは。

 と言うわけで、君たちはそのままでいいと思います。では、よきなろうライフを!





 行ったか? 行ったな?

 シィー。大声を出すな。やつらに気づかれる。大丈夫、おれはまだ感染していない。信頼してくれ。おれはクリーンだ。おまえの目にはおれがただの負け犬に見えるかもしれない。だがそうじゃない。こんなに澄んだ目をした負け犬がいると思うか? よし、もっと近くに寄れ。シィー。頼むよ、まじで静かにしてくれって。

 で、おまえ本気なのか? 小説家になるって。あんな風になっちゃうかもしれないんだぞ。……うんうん、そうだよね、やばいよねあいつら! ……シィー。すまん。次は気をつける。しかし、おまえ話がわかるやつじゃないの。いいね、気に入った、千円あげちゃう。

 小説のことだがよ、もし本気で小説家になりたいんだったら、まずは小説を読んだ方がいい。最初は乱読で構わない。なんでもいいよ。でも、できるなら、昔の小説、名の通ったやつの難しい小説がいいな。あ、でも外国文学の場合は読みやすくなった新訳とかそういうのはやめとけよ。大抵クソだから。あのな、教えてといてやるがな。すいすい読める小説なんて読まなくていい。時間の無駄だからな。ストレスなく読める小説に当たったら馬鹿にするんじゃねえって怒っていいくらいだ。実際のところ大抵馬鹿にされてるからな。

 いや最初はつまんねえよ。死ぬほどつまらねえよ。わけわからないし、どこに面白さがあるかわからないし。だがな、人間を信じろ。昔の小説全てが今に残っているわけじゃないんだ。今残っているものは厳格な審査をくぐり抜けてきたんだ。時代っていう審査を。わかるよな。精鋭ぞろいってことだ。

 途中で挫折したっていい。でも何度も挑戦するんだ。読み通せるまで。何度も。読み通せたら次はもう少し難しい小説を読んでみろ。読み解く必要なんてない。分析する必要だってな。ただ読め。読み続けるんだ。大丈夫だ。信じろ。

 なんの話だったっけ? 小説を書く。ああ、それなら心配するな。名の通った小説をしばらく読み続けてれば大抵のヤツは気づく。こんなの無理無理ってな。はっきり言って勝負にならん。考えても見ろって。殿堂入りメジャーリーガーの球をリトルリーガーがまともに打ち返せると思うか? まあその時になっても、おまえが諦めないってんなら、おまえはまじで見込みがあるのかもしれない。それかただのアホかだな。


 まあ今のは真面目くんルートだ。実を言うと不真面目くんルートもある。ただ、こっちはお勧めしない。冗談抜きで狂っちまうかもしれない。でも一応教えておいてやるよ。意識をな、拡張するんだ。目の前の現実を変えるんだよ。素面でサイケデリックをキメてるみたいな感じ。そこを目指すんだ。

 やり方は自分自身と対話をするだけ。自分探しってやつ。自分を探すためにはなにもインドに行く必要なんてないんだ。だっておまえはずっとそこにいるじゃないか。おまえの身体がゴアにいようがダブリンにいようが草津にいようが、おまえはいつだってそこにいるんだよ。いつだっておまえの無意識がおまえから逃げ回ってる。その尻尾を掴めるまで延々と追っかけまわすんだ。だがそれは必ず不愉快な体験になるだろう。バラバラに分解されたまま二度と以前のおまえは戻ってこないかもしれない。そうなったらおそらく病院行きだな。覚悟はしておいた方がいい。

 それが済んだらあとは簡単だ。おまえの好きに書くだけ。きっとそれはいい小説になる。できあがったらおれにも読ませてくれよな。愛してるぜ。

 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 阿部千代様、ご返信ありがとうございます(何度も感想欄にコメントしてすみません)。 アドバイスもありがとうございます! 私の長年の引っ掛かりにとても参考になりました。そこの文字がきらめいて見…
[一言] はじめまして、阿部千代様。 私も昔、読んだ本のお陰で今、小説らしきものを書けています。小説だけでなく普段の生活でも自分の考えを伝える語彙を得たように感じました。今は比べるまでもなく全然読書…
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