脇役
「え、」
別れたい、という彼の言葉に目を見開いた。
……いや、本当はわかっていた。
「ごめん」
「…………あの子?」
「……うん」
「そっか。しょうがないよね」
わかってたよ。
大好きだから。
誰よりいつも、あなたのことを見ていたし
いつだってあなたのことばかり考えていたから。
だから……あなたが彼女と知り合って嬉しそうにしていることも
いつの間にか、あなたの中に新しい恋が生まれていることも
あなたの中で、私は置いてきぼりになっていることも。
全部全部、知ってた。
困らせたくなくて、
せめて最後くらい彼の中で“面倒な思い出”になりたくなくて、全ての感情の時間を止める。
何も感じないように。このままの表情でいられるように。
「わかったよ。話してくれてありがとう。
………………帰ろっか」
大丈夫。後で泣けばいい。私は。
だから今は。
そう思って立ち上がった矢先、彼から放たれた言葉に心がつまづいた。
「ありがとう。本当にごめん……
でも、なんだか不思議っていうか……僕らはもう、他人に……なったんだね」
無邪気なあなたの声が、心を割る。
あぁ、あなたの人生の中で、私は脇役でしかなかったんだ。
小さくて可憐で、名前まで完璧に可愛いあの子が、輝く笑顔で脳裏に浮かんだ。
もう、彼に名前を呼ばれるのは、あの綺麗な手に抱きしめられるのは、はにかむような笑顔を向けられるのは、私ではない。
彼の“その場所”の、主役はあの子。
付き合ってるだとか恋人だとか。
そんなもの口約束でしかなくて、だけどそんな口約束に、たった1回の「YES」に、私の心は染まりきっていたのだ。今の今まで。
そんな当たり前の事実に頭を殴られる。
「ごめん、やっぱり先帰る」
背を向けた瞬間、自分の心に一気に時間が戻っていくのがわかった。
擦っても擦っても大粒で増えていく涙が私の袖口まで濡らして、それでも足りずに手首を伝っていく。
ねぇ、もう1回いってよ、もう1回、あいして、