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マゼンコバトル  作者: 梶原 拓斗
7/7

マゼンコバトル 7話

 当日、俺は体操服で大会の会場に来た。

 スポーツ用具なんかを入れる長方形のショルダーバッグを持って、会場の中に入るとすぐにトイレへと直行した。

 

 あぁ〜、よく出た。

 すっごく臭い茶色の液体が。


 いやぁ、大会当日に汚いモノを見てしまった。

 まぁ、実はこれは昔からよくある事なんだけど、

 大会に行く前に、お母さんはよくカツ丼を作ってくれるんだ。

 めちゃくちゃ大盛りで。

 それが本当に、朝から食べるにしては致死量とも言えるくらい多くてね。

 いつも俺は、「朝はそんな食べないから」って言ってるのに、お母さんはそんなこと関係なく、「試合に勝つためなら、それくらい食べなきゃ強くなれないよ?」とか言ってくるのだ。


 どう考えても無理な量なのに、それでも食べさせようとしてくる。

 まぁ結局食べたけど……。

 それが、この結果だ。

 どうしよう……これが試合までに治まるか……。

 心配だ……。


---


 とりあえず、しばらく腹の調子は治まったみたいだし、会場に入ってすぐに道着に着替えた。

 会場には、市内から選ばれた五校の選手が集まっている。

 馬用(ばよう)高校、四川(しせん)高校、九彩(きゅうさい)高校、陌津(ばくつ)高校、そして、俺たち万理(ばんり)高校である。


 試合は、馬用高校の体育館でやる。

 ここの体育館は他の学校と比べて大きいからな。

 例えるなら、館内で野球をしてホームランを出しても、窓を割る心配が無いくらい広い。

 うまく例えられてるか不安だけど、例えるなら多分、これが正解だと思う……。

 それで、緑の防球ネットを上から下に垂らして、リングを囲って区切ってる感じだな。

 試合のリングは五つある。

 

 そして入口の近くには、風道さんと白灰君がいたので話しかけた。

 

「おはよう白灰君! 風道さん!」


「おっ! おはよう!」


「おはよう」


「噂には聞いていたけど、馬用高校の体育館って凄い広いね」


「だよね〜、私も最初そう思ったわ。馬用高校は室内スポーツが強いからね」


「うん、まぁこれぐらい広いとスポーツ強豪校と言われてるのも頷ける」


 馬用高校の成績は、ご覧の通り。

 

 ・男女バスケ部 インターハイ優勝

 ・男女バレー部 インターハイ優勝

 ・体操部 インターハイ優勝

 ・卓球部 インターハイ優勝

 ・ソフトテニス部 インターハイ準優勝

 ・陸上部 インターハイ準優勝

 ・ハンドボール部 インターハイ優勝

 ・バドミントン部 インターハイ準優勝

 ・剣道部 インターハイ優勝

 ・弓道部 インターハイ優勝




 聞くところ、二人はいつも大会当日は遅れて来るらしい。あの二人は仲が良いものの、部活に関しては不真面目なため、少し問題がある。


 時計を見ると、集合時間の八時を十分も越していた。試合が始まるのは八時半だから、後二十分で焦りを感じていた。そんな中、誰かがこちらに向かって歩いて来た。あの二人では無い。俺と同じ白髪で、男かと思えるほどの短髪で、女の子らしい顔立ちをした人が、風道に話しかける。


「やぁ、風道君、久しぶり...! 元気だった...?」


「まぁね...それで、何? 下藤...喧嘩しに来たの...?」


「別にぃ...? 意味なんて無いよ〜。ただ挨拶しに来ただけ」


「そう、でも私にとっては宣戦布告と捉えるわよ...?」


「う〜ん敵意が凄い...!」と下藤は、風道の自分自身に対しての敵意の凄さに感心しつつ、下藤は風道の後ろにいる武蔵に目が移った。


「おっ、もしかして新部員...!? 私とおんなじ白髪だ〜! よろしく〜!」とまるで体育会系女子のように、こっちに近付いて来て、手を取り、握手される様な形になる。


「あっはい...! よろしくお願いします!」


その光景を見た風道は、苛立った様子で、下藤の肩を掴む。


「ちょっと、勝手にうちの部員に話し掛けないでもらえる?」


「おや〜何々? 嫉妬? 焼き餅焼いてんの?」


「そんなんじゃねぇわ...! 殺すぞ...!」といつもの印象と違う恐々とした態度で、下藤を脅迫するような暴言を吐く風道と下藤の会話を聞いて、武蔵は(なんか凄い関係だな......)と心の中で呟いていた。


そして、下藤は去り際に「それじゃあ、決勝で待ってるから、絶対来いよ」と言って去って行った。それに対して、風道は、「言われなくても、あんたに勝つ為に私は来たんだから」と返答した。


それから10分程経って、ようやくあの二人が遅れて来た。そして示顕先生も、同時にやって来た。


「は〜...おはようございま〜す...」


今にも眠りそうな大欠伸をして、二人は元気のない挨拶をした。


「も〜遅いわよ二人共。先生、おはようございます」


「おはよう、よく寝れたか?」


「はい! バッチリです!」


「ふむ、よろしい! では、大事の無いよう、武運を祈るぞ」


「はい!」


そんなやり取りを先生とした後、風道は準備体操をしている武蔵に話しかける。


「そういえば、武蔵君、前に言ったと思うけど、この試合のルールって覚えてる?」


「うん、覚えてるよ」


「なら良かった」


前日、異能格闘技のルールについて、ざっくり風道さんから説明された。この試合は、トーナメント形式になっているが、それぞれ4つのチームに分かれて勝者を決めるようだ。例えば、1番手は1番手同士で試合をして、2番手は2番手同士で...と言う風に、分別して試合を行う仕組みとなっている。そして、得点のルールは、ヒットとセーフの二つを覚えておけば良い。


ヒットは、全身が倒れるか、尻餅を付いたりしたら、一ヒットで加点となる。時間内に三ヒット取れたら勝ち。


セーフは、倒れそうになるのを耐えるか、床に手を突いて耐えた場合に一セーフが付く。二セーフ取ると、一ヒットとなる。


とまぁ、これが主なルールとなっている。他にもルールはあるが、これは後程...


準備運動を軽く済ませた後、試合が始まる丁度良い時間となった。少し高揚感を高めながら、試合用の部屋のドアを開けて、その部屋に入った。すると、床と壁は一面コンクリートで出来た灰色で色彩の無い部屋が僕を包み込む。広さは、教室一部屋分位で、障害物は何も無し。まさに戦いをする為に出来た部屋と言っても過言じゃなかった。


(ここが、試合用の部屋か...思ったよりも色彩が無いな...こんなに色の無い所が、不安を煽るとは......)


この部屋に対して色々と思う事があり、感想を心の中で呟いていたところ、自分が入ってきた所の反対側からドアの開扉音が響いて聞こえた。恐らく、対戦者だろう。足音が鳴り響いて、俺に近づいて来る。


陌津高校と書かれたユニフォームを着ている金髪で陽気さの漂う男が話しかけて来る。


「おっ、体操服って事は今年の新部員か。仲良くしようぜ!」


「うん、よろしく!」


(初心者と対戦とかラッキー...! 気の消費も少なくしながら戦っていけるし、このまま勝ち取っていけば、優勝間違いなしだ!)と相手が体操服で今年の新部員だと知り、金髪の男は勝ち確定と言える程の自信に満ち溢れていた。


『_____では、準備が整ったので、試合を始めていきます』


そして、金髪の男とは無関係な所から、声が聞こえた。その声は、学校のチャイムが鳴るようなスピーカーから聞こえた。審判の声だ。


異能格闘技では、異能の攻撃を受けたら審判が危ないので、モニター越しで審判をする事となっている。その為、観客もモニターで観る仕組みである。


『試合開始5秒前、4、3、2、1...』と審判が五秒数えた後、試合が始まる合図のブザーが鳴り、設置されてあったタイマーは、五分から秒針が進む。


そのブザーが鳴った後、武蔵はすぐさまに先制し、手から煙を放出させて、煙幕を作った。試合開始から僅か数秒で、部屋の中に煙が充満した。


(くそっ...! 煙幕か...! 始めからしてやられたな...! でも、相手は初心者、能力をまだ使い熟せないでいる段階...という事を考えれば、奇襲は単純...! 後ろからだ...!)と予測して、後ろへの攻撃に警戒を高めて、後ろに気を流す......が、その予測は外れ、武蔵は前から攻撃して来た。その不意を突かれて、顔面にパンチを喰らう。体が後ろに吹っ飛んで、壁に激突して、倒れ込んだ。


『赤! 一ヒット...! ファーストセーフ...!』


(くそ...! ファーストセーフと同時にヒットも取られたか...! いや、でも大丈夫...! たまたまだ...! たまたま当たっただけだから...まだ巻き返せる...!)


一方、観客席で風道達は、武蔵の試合を観ていた。そんな中、木村がある質問をした。


「なぁ、そういえば、煙幕で普通は見えねぇ筈なのに、なんでこのモニターだと見えるんだ?」


「あーそれはこのモニターを映している試合用のカメラに、魔術が仕組まれてるのよ」とその質問に対して風道は答えた。


「魔術...?」


「そう、どんな魔術かは知らないけど、映したい対象が、煙幕で隠れていても、透明人間だったとしても、必ず姿が見える様になってるの。だから、審判も何が映っているのかがはっきり分かるのよ」


「なるほど...!」と木村は納得した様子で、相槌を打つ。


それに次いで、潮田も質問する。


「そういえば、ファーストセーフって何だっけ...?」


「何でそれを覚えてないのよ...基本ルールよ...? しっかり覚えておきなさい...? ファーストセーフって言うのは、先制攻撃が入れば、絶対に倒れなさそうな力の強い人でも関係無く、攻撃した側に一セーフが付く事になるの。分かった...?」


「へ〜なるほど。ありがとう...!」


「絶対に嫌でも覚える基本ルールの筈なんだけどね...まぁいいわ」と少し溜息を吐きながら、試合のモニターへと目を移した。


(へっ、こんな煙幕の中、意地でも探してやる...! どこだ...!)と金髪の男は、武蔵を探していると、突然、暴風が吹き荒れて、部屋の中の籠った煙が、一瞬にして晴れた。そして、それと同時に、再び体は壁側に飛び、押し付けられた。


『赤! ツーヒット...!』


「痛っっ...! え...? わわっ...! 火.....!?」


頭が壁にぶつかって、そのまま尻餅を付いている事に気づいた。そして、火の燃える熱さを感じて、顔を正面に向けた直後、赤く燃える炎が、自分に真っ直ぐに向かって来ている事が分かり、咄嗟に体を起こして、熱さから逃げようと立ち上がった所、体勢を崩してしまい、転んでしまった。その結果、三回のヒットを許してしまった。


『赤! スリーヒット! そこまで...!』


審判がそう言った瞬間、ブザーが鳴り、タイマーは二分を切ったところで、試合が終了した。












 


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