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獣王の婚活  作者: 東方博
61/77

幕間

 馬鹿な奴らだと、紅蓮の人魚もといガレナはせせら笑った。

 いかに獣人族の身体能力が優れていたとしても多勢に無勢。獣はこんな簡単な算術すらできないらしい。現実を見ていないのか、それとも敵に背を向けることは矜持が許さないのか。いずれにせよ、愚かだということに変わりはない。

 完全勝利を目前にして戦線離脱したルビセルも愚かだが、元々何を考えているのかわからない男なので捨て置く。

 今回、ガレナが偉大なる海の女王から賜った命令は、人間の国への潜入と干渉だ。人間族と獣人族とを敵対させ、少しでも獣人族の力を削ぐことを目的としている。不老長寿の水妖ならではの長期的な策だった。

 かたやルビセルは特に命を受けていなかった。強いて言えば『水門の鍵』を奪う策を考え実行すること。しかしルビセルは畏れ多くも海の女王陛下の主命よりも、自分が愉しむことを優先させているように見えた。

 半獣のラントを使って先代獣王ゼノを殺した時は『水門の鍵』を奪う絶好の好機だった。にもかかわらずルビセルは、アスラが帰国した途端にあっさりと退いた。五年前の狼族殲滅の時もそうだ。ルビセルは、明らかに半獣のアスラを特別視している。本人にその理由を訊ねたことがある。ルビセルは笑って

「健気でかわいいからね。ああいう子を見てると、めちゃくちゃにしてやりたくなる」

 と言った。つまりは個人的な趣味だ。獣人なんぞどれも同じと考えるガレナには全く理解できない嗜好だった。

 ガレナにとって獣王も獅子族も狼族も同じ『獣』だった。滅ぼすべき害獣で、調べるべき被験体で、狩るべき獲物で、それ以上の意味を持たない。

 狼族を壊滅させた五年前の襲撃も、ガレナに言わせれば『水門の鍵』を奪うための前哨戦。ただの実験だった。効率的に獣を始末する方法を思いついた。だから試してみた。ただ、それだけのことだった。

 獣人どもは思い違いをしている。狼族が滅びたのは氷によってではない。そもそも水や氷の妖術はさして高度な術ではなかった。ルビセルなんぞは手癖のように氷柱を飛ばして攻撃するし、ガレナも水を極限にまで圧して放つ水鉄砲を多用する。そんなもので一度に大量の獣は狩れない。

 ガレナの固有妖術ーー絶歌『禍つ花園クリングゾル』は、氷や水を操るような単純なものではない。ありていにいえば多種多様の『毒』を生み出す妖術だ。

 獣王の片翼を担う狼族が何匹いようと、ガレナの絶歌の前では無力。獣王の強靭な肉体でも、侵されたら最後、死を逃れることはできない。先代獣王ゼノも、その息子のセザも毒に打ち勝つことはできなかった。

 無理矢理覚醒させたラントが正気に返り、獣化も解けたのは誤算ではあったが、他の獣人族を攫って実験を繰り返し、ガレナはより強力な術を編み出した。

 今のラントはまともな思考はおろか痛みすらも感じない。頭を殴っても昏倒せず、完全に息の根を止めない限り破壊を続ける。理性がないので海から連れてきた魔獣や鬼も多少犠牲にはなるが、数は十分に揃えている。負ける要素は何一つとしてない。

 仮に、ありえないが万が一、獣人どもがラントや魔獣達を倒せたとしても、絶歌『禍つ花園クリングゾル』を発動させれば終わりだ。

 既に毒の精製は終えている。身体の自由を奪い、やがて心臓を止めて死に至らしめる強力な神経毒だ。ガレナが発動すれば一瞬にしてこの部屋は猛毒が充満する。

 懸念はひとつだけ。

 獣人どもがあっさりとやられたら、改良に改良を重ねた猛毒を披露する機会が訪れなさそうなこと。それだけだ。

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