表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣王の婚活  作者: 東方博
58/77

ひさしぶり仇⑦

 マズい状況だ。

 セザもニニも菖蒲もルビセルから目が離せない。先代獣王の死に関して、疑問を抱いているからだ。不自然な点が多いにもかかわらず追及しなかったのは、先代獣王ゼノの遺志を汲んでのこと。本心では誰もが真相を知りたいと思っている。

「猫くんの読みは正しい。先代獣王は病で死んだんじゃない。殺されたんだ」

 ルビセルは得意げに解説した。

「となると、問題は誰が殺したのか、だよね? 獣人族を統べる森の王を、親衛隊と千花にも気づかれずに一体誰が、どうやって殺したのか」

 やめろ。

 叫ぶよりも先に身体が動いた。アスラはルビセルに飛びかかった。

「……あがっ!」

 背後から突かれ、アスラは床に突っ伏した。一瞬、息が詰まる。すぐさま起き上がろうとしたが、動けない。背中の一点を押さえつけられて少し身を捩っただけで激痛が走る。

「邪魔をしたな」

 頭上でセザの声がした。アスラを取り押さえたセザが、ルビセルに向かってぞんざいに言い放つ。

「続けろ」

「セザぁ……っ!」

「何故止める? 聞かれては困ることでもあるのか」

 あるから止めようとしているんじゃないか。アスラは抜け出そうともがいたが、関節を決められては動きようがなかった。

「その様子だと、誰にも話していないようだね」

 ルビセルは肩をすくめた。無駄な足掻きをするアスラを小馬鹿にするように。

「まあ、仕方ないよね。それが先代獣王の最期の願いだから」

 ルビセルにこれ以上語らせてはならない。わかっていながら、アスラにはどうすることもできなかった。

「先代の、願いだと?」

「そこに転がっているアスラちゃんを責めないでおくれよ。彼女はただ、先代の願い通り『獣王ゼノが何者かに殺された』事実を伏せ、そして行方がわからなくなったその『何者か』を探していただけなんだ。表向きには、自分のつがいを探すという名目でね」

 菖蒲が息を呑む。獣人族達の動揺をルビセルは愉しみながら語った。

「曲がりなりにも獣王を討ったのだから、王位を継ぐ権利がそいつにはある。もしかしたら、探し出してあわよくば獣王の座に据えるつもりだったのかな?」

 アスラは歯噛みした。

「ろくな手がかりもないまま、千尋の森を飛び出し、足跡を辿り、およそ二月かけてようやく、アスラちゃんは黒い森の奥深くで縮こまっていた『そいつ』を見つけた」

「まさか……」

 菖蒲が呆然と呟いた。気づいたのだ。突然アスラが帰国した理由を。ルビセルが誰のことを言っているのかを。耳聡いセザが菖蒲に訊ねる。

「知っているのか?」

「でも、そんなはずは」菖蒲はかぶりを振った「人間に獣王陛下が遅れを取るはずがございません」

 そう、たかが野獣の姿になれるだけの人間に、先代獣王ゼノが殺されるはずがない。人魚の呪いによって姿を変えられているだけだとしたら、絶対に不可能だ。

 セザは苛立ちを露わに詰問した。

「何が言いたい、水妖」

「彼だよ」

 ルビセルはおもむろに指差した。畏れ多くもウィンヴィリア王国の第一王子ラント=ディル=カリオスを。

「彼が、先代獣王ゼノを殺したんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ