ひさしぶり仇⑥
剣呑な声が指摘した。
大臣達の間からするりと抜けて歩み出たのは、可憐な少女だった。つぶらな瞳、通った鼻筋、薄い唇、全てが絶妙な配置に収まっている。青みがかった銀髪も相まって妖精を彷彿とさせた。背後から覗く白い尻尾からして猫系の獣人だろう。
「菖蒲……どうしてここに」
「陛下が一向にお戻りにならないので、お迎えにあがりました」
つんとすました表情で菖蒲は言う。拗ねている様も、見惚れるほど可愛らしく美しい。
「水門は? 世界樹は?」
「存じ上げませんわ」
「千花が森を出ていいのか」
「やめました」
多勢に無勢とはいえ、仲間の獣人が三人増えた。にもかかわらず、アスラは絶望的な表情を浮かべた。
「やめたって……」
「お叱りは後でいくらでも受けましょう。ですがその前に『ファルサーミと一緒に戻ってくる』という約束をあっさり反故になさった、薄情でお騒がせな獣王陛下に、僭越ながら苦言を呈したく存じます」
氷柱のように冷たく鋭い声音だった。固まるアスラ。ルビセルが含み笑いをした。
「好かれているねえ、獣王陛下は」
獣人達の参戦にもルビセルに動じた様子はない。当然だ。彼にはもう一人の水妖、そして百体近くの海の魔獣達がいる。いかに獣人が並外れた膂力を持っているとしても、あまりにも数に差があった。
「いや、これは君を次代の王にと選んだ先代の獣王陛下に人望があった、と言うべきかな。先代が定めたのならば、たとえそれが混血だろうが王として崇める。大した忠誠心だ」
ルビセルはまるで舞台の中心に立つ主役のように両手を広げた。
「さて、少々盛り上がりには欠けるが必要な役者は揃った。最後の大詰め、種明かしといこうか」
「種明かし?」
「そうだよ、小さな蛇くん」
ニニの小さな呟きにも機嫌良く答える。
「君達が王として忠誠を誓い、慕っていた先代獣王ゼノは何故、穢らわしい半獣に水門の鍵を託したのか。誰もが認める実力を持つ優秀な息子を差し置いて、どうして半獣なんぞを王として定めたのかーー気になるだろう?」
一体この水妖は何の話をしているのか。アリーアは全く理解できなかった。この場にいる人間全員がそうだろう。
しかし獣人族の四人は黙したままだ。ルビセルが語るに任せている。それほど重要なことだというのは察せられた。
「そもそも、先代獣王のゼノはどうして死んだのかな? 不治の病とはいえすぐさま死ぬほど衰えてはいなかったはずだ。だからこそ、君は大鷲カルサヴィナの討伐に出た。あと一年は余裕でもつと判断していたからだ」
指差されたセザは眉を顰めた。が、反論はしなかった。