さよなら獣王陛下⑦
ニニはひとまず獅子族の分だけ貢物を先に届けることにした。ついでに獣王城にいるであろうファルサーミや千花の様子も伺うつもりだった。
水妖が何人いるかもわからないのに、セザ一人で殴り込みに行くなんて無茶だ。どうせファルサーミも千花も獣王アスラの救出に向かうのだから一緒に行けばいい、とニニは軽く考えていたのだった。
が、訪れた獣王の城では、お取り込みの真っ最中だった。真っ先に救出に向かうであろうファルサーミが、ことの一部始終を聞いて険しい顔で否と答えたからだ。
「水妖に遅れを取る者なぞ王ではない」
「しかし、セザ様との決闘の最中に乱入されたと」
「理由にならん」
菖蒲の取りなしも突っぱねて、ファルサーミは空の玉座を睨んだ。
「王である以上、水門の鍵を守り、獣人族最強であるべきだ。務めを果たせないのならば、即刻玉座から降りねばならん」
いやだから、降りようにも千尋の国に帰れないんだって。
思わずツッコミそうになるのをニニは堪えた。ファルサーミとてわかっている。承知の上で道理を押し通さなければならないのだ。
曲がりなりにもアスラが獣王の座に就いていたのは、千尋の森で一番強い獣人で、水門の鍵を守るのに相応しいと示していたからだ。水妖に敗北し、ファルサーミや千花によって救出されたことが公になれば、誰もアスラを獣王としては認めなくなる。
王位簒奪だけならばまだいい、短期間とはいえ相応しからざる者の身で獣王の座に居座った罪は重い。よくて千尋の森から追放、悪ければ処刑だ。ましてやアスラは半獣で、忌み嫌う獣人は多かった。口実を与えたら最後、ここぞとばかりに責め立てるだろう。
「あの、こっそり助けに行くとか……」
自分で言っててニニはその現実味のなさに気づいた。
「やっぱり無理かな」
「ただでさえ人不足なのよ。親衛隊は実質ファルサーミ一人。本来は水門と世界樹を守る千花から獣人を割いてなんとか獣王城の体裁を整えているのに、どうやって誤魔化すのよ」
辛辣に言い放ったのは、蛇族の少女だった。ニニと同い年。千花の一人である杏は、不遜にも空の玉座の手すりに腰掛けた。咎める者がいないので、やりたい放題である。
「……まあ、一人か二人くらいなら、居なくてもバレないんじゃないの?」
「千花は、森から出てはならん」
すかさず釘を刺すファルサーミを、杏は鼻で笑った。
「そんなお堅いこと言ってる場合? ずいぶんと余裕なのね」
「そう意地悪を言いなさんな」
獅子族の千花、山吹が嗜める。
「森の掟は絶対だ。アスラ様だって旅に出る際に千花の座を降りたんだから」
杏は山吹の方を向いた。その目は如実に『は? 何そのめんどくさい建前』と言っている。無礼さはさておき、考え自体にはニニも同感だった。
獣人族の中でも若いせいかもしれない。掟を重視するあまり肝心の王と水門の鍵を失っては本末転倒だと思うのだ。




