さよなら獣王陛下⑤
予想通りというか案の定というべきか、意識を取り戻したセザはすこぶる機嫌が悪かった。当然だ。決闘を邪魔された挙句、水妖ごときにしてやられたのだから。寝台の上でぬくぬくと眠っていた自身への不甲斐なさも怒りに拍車をかけた。
普通なら永遠の国に旅立っている重傷だよ、とニニが指摘しても聞く耳持たず。鯨を殺すほどの猛毒を喰らったにもかかわらず、目覚めた翌日には寝台から起き上がって動き回った。獅子族であることを差し引いても驚異的な回復力だ。身体に多少痺れは残るものの、いずれは消えるようなささやかなものだという。
ともすればウィンヴィリアに殴り込みかねないセザを、族長代理のサラを始めとする獅子族の古参が引き止めた。
「新たな獣王の誕生を宣言しなくては」
「失われた威信を取り戻すことが先決です」
口々に王位継承を勧める連中を見つめるセザの眼差しは冷え切っていた。呆れてものが言えない。端的に表すとそういうことだ。
側で様子を眺めていたニニも、正直どうかと思う。問題が解決してもいないのに獅子族だけで勝手に盛り上がって王位を簒奪するなんて、それこそ威信が傷つくというものだ。
「水門の鍵もない状態で獣王を名乗れるか。経緯はどうであれ先代が指名したのはあいつだ」
口実だ。セザが水門の鍵を託されていることをニニは知っている。命が惜しいのであえて言わなかったが。
「所詮は半獣です。名ばかりの王が水門の鍵を持つことがそもそも間違っているのです」
「名ばかり?」
押しのけようとしたセザが動きを止めた。
「では訊くが、今まで貴様らは何をしていた。俺の不在中に獅子族を統括するのが、族長代理と長老の役目なんじゃないのか」
「サラ様も我々もつつがなく、」
「新獣王に祝いの貢物どころか挨拶すらしないのが獅子族の礼儀か。いつから獅子族は同胞が行方不明となっても探そうともしない薄情な一族になった」
「半獣を王とは認められません!」
嫌悪を露わにいきり立つサラを、セザは冷笑した。
「王とは名ばかりの半獣が、この森を出てまで行方知れずの獣人を探している間、当の獅子族は俺の帰りをただ待っていたということか」
親を待つだけなら生まれたばかりの赤子にだってできる。暗にお留守番すらできない無能と罵られる古参の獣人達。長老の一人がおずおずと進言した。
「それは、主だった戦士達が動ける状態ではなかったため、やむなく……」
「何故動けない」
長老は返答に詰まった。サラも口を閉ざしたまま答えようとしない




