さよなら獣王陛下④
セザは先代獣王ゼノの第四子として生まれた。
異母兄弟姉妹は二十人を超える。獣人で獅子族なら珍しくもないことだ。妻の質と数が夫のステータスと考えられている。
親戚が多過ぎて全員は把握していない。そもそも興味もなかった。兄弟姉妹が何人いようが結局、獣王になれるのは、ただ一人なのだから。
セザは、容姿はともかく、気質はゼノとまるで正反対だった。
ゼノはもっぱら城内や千尋の森内でのんびりすることを好んだが、セザは森の外で暴れることを好んだ。自分の力を高め、周囲に示したくてたまらなかった。
父親は全体主義で、息子は個人主義だった。同族意識はあるが、だからといって誰も彼もの面倒は見切れない。妻を複数持つ意味が理解できない。心に決めた一人のつがいで十分だ。兄弟姉妹は王の座を争うライバル。頼れるのは自分の力だけだ。
先代獣王は寛大で寛容で、次期獣王候補は厳格で狭量だった。弱いものが許せなかった。弱さに甘んじるようなものは獣人ではないとさえ思っている。他人に対しても、自分に対してもセザは厳しかった。
生まれた時から王になるべくセザは定められていた。獣王は強さが全てだ。先代獣王の子の中でもっともセザは小さかった。背丈に恵まれなかった分も鍛錬を重ねた。同じ定めを持つ兄弟姉妹の誰よりもセザは努力した。
そう、セザはひたむきで、一途だった。何事においても。
突然の訃報を耳にしても帰国しなかったのは、それが先代獣王からの最後の主命だったからだ。敵を前にしてすごすごと引き下がるようなものは獣王ではない。仮に不在の間に誰かが勝手に次期獣王の座についても、後で奪還すればいいと考えた。
想定外だったのは先代獣王が自分ではなく、半獣の、セザよりも明らかに劣る元寵姫を後継に指名したことだ。意図があるのは明白。しかし先代獣王の側近も寵姫も口を閉ざす。本人を問い詰めて吐かせようとしても頑として話そうとしない——許しがたいことだ。挙句、セザを前にしても、悪びれる様子もなくやれ他の獅子族の獣人だの人間だのに気を取られる。まともに向き合おうとしない。そのくせ肝心要なことは断固として明かそうとしない。
セザの怒りは爆発した。
自分は獣人族最強を誇る獅子だ。誰もが認める獣王の後継者で、それは棕櫚も同じではなかったのか。信用されず隠されたこと、隠しおおせると侮られたこと、その事実が怒りに拍車をかけた。
つまるところ、セザの怒りは弱っちい棕櫚が一人で何かを抱え込んでいること、その一点に終始した。




