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獣王の婚活  作者: 東方博
42/77

幕間

「棕櫚」

 久しく聞かない名だった。

 仇討ちの旅に出て以来『アスラ』と名乗った。紫苑が寵姫になる前の名だった。

 アスラには親がいなかった。兄弟も名前もなく、同胞もいない。何もないからこそ、紫苑と先代獣王のゼノは惜しみなく与えてくれた。名前も親も、食べるものも着るものも家族も友も帰る場所も――何もかも。

 溢れかえるくらいたくさんのものをもらったのに、アスラは何一つ返せていない。返す間もないまま先代は永遠の国に旅立った。

「お前に託す」

 先代から手渡されたのは『水門の鍵』だった。偉大なる世界樹を潤す水源を繋ぐもの。獣王の証を手にしても、アスラの心は動かなかった。

 獣王の位が欲しいと思ったことは一度もなかった。アスラは必要以上に満たされていた。ただ、守れるだけの強さが欲しかった。

「他に適任がいます」

 育ての親すら守れなかった半獣の自分よりは、ふさわしい獣王はいるはずだ。草食系で最強を誇るファルサーミ。先代の血を受け継いだ王子達。挙げればキリがない。しかし先代は引き下がらなかった。

「奪い、壊すのは容易い。地を這う獣だろうが人魚だろうが人間でさえもできること。だが一度失ったものを取り戻すことは難しい」

 握る先代の手に力が入れられる。

「守り、慈しみ、育め。お前にしかできないことだ」

 承知の上でアスラに託すと決めた。

 アスラが鍵を握りしめたのを確認すると、先代は力を緩めた。

「ああ、でも」

 先代は力なく笑った。

「お前には『つがい』がいなかったな」


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