横やり失礼②
「あれ? 変身解いちゃったの?」
ルビセルが再び現れる。今度は破壊された民家の前に。
「可愛かったのに、猫の姿」
お言葉だが、獣化したセザは可愛いとは対極に位置する。獲物を狩る獰猛な獣だ。嘲りを多分に含んだルビセルの挑発に、セザは真っ向から受けてたった。
「猫ではない。獅子だ」
セザは適当な瓦礫を拾い、ルビセルに投げつけた。瓦礫が触れる寸前にルビセルの姿は消え、そして今度は橋の上に現れる。攻撃が当たらない。
「セザ、」
「黙っていろ」
無駄だ、と言いかけたアスラを制し、セザは執拗にガラクタを拾っては投げた。砕けたオブジェの一部。煉瓦の塊。折れた街灯の柱。さしものルビセルも避けるのが面倒になったのか、眉を寄せた。
「無駄だよ」
ルビセルが煉瓦を無造作に払いのけた。その瞬間にセザは動いた。自身の背丈ほどはある瓦礫を片手で投げると同時に、地を蹴った。またしてもルビセルの姿が消える。標的を失った瓦礫は盛大な音を立てて、橋の上に落ちた。
次に現れたのは噴水内。ルビセルは肩をすくめた。
「無駄だと言ってーー」
いるだろ、と言い切る間も与えなかった。セザの蹴りがルビセルの腹を直撃。辛うじて腕で防御したものの、骨が折れる嫌な音がした。
ルビセルは舌打ちした。妖術で水を凍らせて氷柱を飛ばすが、セザはやすやすと避ける。すかさずルビセルとの距離を詰めて、掌底を打った。今度は胸を直撃。たまらずルビセルはよろめいた。
「ぐっ……っ!」
「同じ手が通用すると、本気で思っているのか」
ルビセルは後ろに大きく飛び退いた。先ほどまで連発していた瞬間移動は使わずに。
「貴様が瞬時に移動できるのは水と水の間だけだ。出入り口が限られているのなら、予測もたやすい」
だから噴水を塞いだのか。ルビセルが移動する場所を制限するために。
アスラはセザの様子を伺った。多少息が上がっているものの、不敵な笑みを浮かべている。対するルビセルは、セザを憎々しげに睨んでいた。先ほどまでの余裕が消えている。
「結構、利口なんだね。力で押すだけの猫だと思っていたんだけど」
「獅子だ」
セザは足元に転がっている屋根瓦を踏み砕いた。
「貴様のような化け物を何体狩ったと思っている」
『山堕とし』の名は伊達ではない。数多の外敵ーー魔獣や怪物との戦いが、セザを獣人族最強へと鍛え上げた。獅子は我が子を千尋の谷に落とすというが、セザはまさにそれだ。