横やり失礼①
飛来した銃弾をセザはかわした。反射神経、身体能力が向上した半獣態では造作もないことだった。だから油断が生じた。
全身の毛が逆立つような感覚。まがまがしい妖気にアスラは目を見開いた。
「すい、よ」
アスラが言い終える前にセザは動いた。が、遅い。音もなく放たれたそれはセザの右肩を掠め、脇腹を貫いた。小さく呻いて、セザはたたらを踏んだ。
「セザ、」
「わかっている」
発砲音がしなかった。連射ができる。獣化しているセザを傷つけた。どれも人間の銃ではあり得ないことだ。
「妖術か」
水妖、それも上位種にしかできない芸当だ。
セザは周囲の気配を探った。水妖らしき姿も気配も感知できない。というより、人間が多過ぎる。逃げまどう人、立ちすくむ人、その場で泣き崩れる人、遠巻きにこちらの様子を伺う人ーー人、人、人ばかりだ。音も臭いも雑多なものが入り混じっている。
おそらくは、混乱に乗じて攻撃してきたのだろう。
「ほう……」
セザの口角が凶悪につり上がった。とんでもなく嫌な予感がした。
「一旦退こう」
「全員殺した方が早い」
「駄目だって!」
「やれやれ、獣人って本当に大雑把だね」
壊れた噴水から溢れた水溜まりから現れたのは、ルビセルだった。セザは煩わしげに吐き捨てた。
「また貴様か。今度は何の用だ」
「大したことじゃないんだ。町が騒がしいものでやってきたら、見知った犬と猫がじゃれあっていた」
「その『猫』というのは俺のことか」
「五年ぶりの感動の再会はどうだった? 積もる話もそこそこに殴り合うなんて、いかにも野蛮で短絡的な獣人族らしいね」
「俺のことだな」
全く噛み合わない言葉の応酬。ルビセルはにっこりと、無邪気とさえ見える笑顔で言った。
「楽しそうだから僕も混ぜてよ」
ルビセルが言い終わるや否や、セザは飛びかかっていた。アスラでさえ目で追うのがやっとの神速の攻撃だった。が、捉えたはずのルビセルの姿が消える。セザの爪は空を切った。
間髪入れず、弾丸がセザを掠める。先ほどとはまた違う方向からだった。水妖は二体以上いる。アスラは街灯の柱を支えに、なんとか立ち上がった。
降り立ったセザは獣化を解いたーー解けてしまったと言うべきか。爆発的に能力が向上するが故に、長時間獣化していると身体がもたない。自分との戦闘で限界を迎えたようだ。
圧倒的に不利な状況だ。満身創痍の自分に、体力を消耗しているセザ。相手の水妖は何体いるのかもわからない。せめてセザが万全だったのなら勝機はあったのに。