こぶしで挨拶③
「なるほど」
セザは喉を鳴らして笑った。
「相当な修練を積んだようだな、棕櫚。道理で並の獣人では敵わなかったわけだぜ」
口調が荒々しくなっている。比例して気配もより凶暴に、残忍に、本性へと近づく。
「褒めてやろう。半獣にしてはよくやった」
アスラは口の中の、セザか自分かどちらかもわからない血を吐き出した。
上位種からの褒め言葉は侮蔑だった。三年間、アスラは死に物狂いで鍛錬を重ねた。身体能力、反応速度を極限まで高め、それでも足りない部分は技で補った。格闘技と呼ぶには邪道で、ただ相手を殺すためだけの技能だ。隙を突き、呼吸を読み、死角を見出す。骨の髄まで技が染み込むよう、毎日毎日修行に明け暮れた。師に殺されかけなかった日など、一日たりともない。そうしてアスラは常軌を逸しなければ辿り着けない境地に到達した。
全ては狼族を、紫苑を襲った水妖を倒す——狩るために得た力だ。安寧を甘受する獣人とは圧倒的な差がついた。並の水妖なら容易く捻り潰せる。
しかし今、セザとは互角だった。今の状態のセザと互角では負けも同然だとアスラは知っていた。何故ならば、半獣と純血の獣人とでは先天的な差があるからだ。
「さっさと変化したらどうだ」
アスラは挑発的に言い放った。体力は向こうの方がある。時間を引き伸ばしても不利になるだけだ。
「まあそう急くな。せっかく上位種が遊んでやろうというんだ。半獣の貴様には、またとない機会だろう」
「そりゃどうも!」
心にもない感謝の言葉と共に、そばに落ちていた瓦礫をぶん投げた。片手で払いのけるセザの膝目掛けて横に払う蹴りを放つ。
避けられない蹴りだ——通常ならば。しかしセザは想像を絶する身軽さで宙に跳ね上がった。間髪入れず頭上から落とされる踵。鋭く、重い一撃で頭に喰らわないようにするのが精一杯だった。左肩に激しい衝撃が炸裂した。肩ごと腕が削ぎ落とされたような痛みだった。
アスラは後ろに跳んで、距離を取った。警戒していた追撃は来なかった。余裕の表れだ。
「ひ、あ……っ!」
喉を潰されたような声を皮切りに、悲鳴が響き渡る。遠巻きに見ていた人間達によるものだ。化け物、怪物といった馴染みの単語が叫喚の中で聞こえた。
「やかましい連中だ」
眉を顰めるセザの姿は一変していた。
骨格は人間のままの半獣態。獅子の耳に尻尾。輝く金髪には黒が混じる。腕や顔まわりを覆うたてがみ。目は鋭さを増し、縁取る紋様によって異形さが際立つ。
獣化と呼ばれる獣人特有の能力だ。外見内面共に獣に近くなることで、筋力、視力、反射神経といった身体能力が数倍に強化される。怪物と呼ばれるに相応しい、理不尽な業だ。
「だから場所を変えようと言ったじゃないか」
「人間のためにか? 冗談じゃない」
「そこまでです!」
かん高い声が割って入った。