ひさしぶり、幼なじみ③
「とりあえず鎮静剤を飲ませるか」
「どうやって」
渡して素直に飲んでくれるような状態ではない。言葉が通じるかも怪しい。かといって放っておくこともできなかった。
はてさてどうしたものかとファルサーミと二人で屋根の上で考え込んでいたら、背後から声が掛かった。
「何があった」
アスラは振り返り、目をしばたいた。
精悍な青年だった。小柄だが引き締まった痩躯には一分の隙もない。美しい金髪を無造作にかき上げ、前を見据える眼差しは鋭く、獲物を狩る肉食獣を彷彿とさせた。姿形こそ人間と変わりないが、気配は獣人のそれだ。
「セザか」
「どういうことだ。説明しろ」
こちらの問いを真っ向から無視。挙句尊大に命令。アスラが同じことをやれば間違いなく説教が始まる無礼な態度だったが、ファルサーミは咎めなかった。咎めても無駄だとわかっているからだろう。
先代の獣王ゼノの息子、セザだ。大鷲カルサヴィナを討伐するため、ふた山越えた遠方の地に赴いたと聞いていたが、ようやく戻ってきたのだ。
「お前のところの若い奴が、間抜けにも人間に捕らえられて売り飛ばされた。俺たちが駆けつけた時、既にあの通り暴走していた」
「発情期で興奮しているのか?」
「それにしては元気過ぎないかなー」
この場にそぐわない明るい声が乱入。セザの背後から顔を出したのは、銀髪の子どもだった。少年か少女か判別がつかない、中性的で可愛らしい顔立ちをしている。
「血の気の多い獅子族とはいえ、理性を失って暴れるほどではないはず。それに発情期による暴走なら、メスを襲わないのも妙だ」
「メスとして認識されていないだけかもしれんぞ」
ファルサーミとセザ、二人の視線を浴びたアスラはこめかみをひくつかせた。
「悪かったな、メスとして機能していなくて」
よほど自分にメスとしての魅力がないのか、それとも発情していても半獣はお断りなのか、いずれにせよ面白くはなかった。
「アスラ、拗ねるのは後にしろ」
「拗ねてない。無礼な発言に腹を立てているだけだ」
「それを拗ねていると言うんだ」
「……アスラ?」
怪訝そうに呟いたセザが、不意に目を見張った。アスラのつま先から顔まで一通り眺める。
「お前、棕櫚か」
懐かしい名に思わずアスラの耳が動いた。育ての親と先代の獣王が亡くなって以来、誰にも呼ばれていない。
銀髪の子どもが首をかしげた。
「シュロ?」
「先代王の寵姫が一人、紫苑が拾い、娘として育てた半獣。便宜上、他の寵姫と同様に二つ名を与えて城に住まわせていた」
セザは淡々と語る。数年ぶりに再会した感慨もなく。
「狼族を襲った水妖を探すため、寵姫の座を返上して出奔したはずだが……その様子だと、まだ本懐は果たせていないようだな」
「ふーん、先代が認めたってことはそこそこ強いんだ」
「それはどうかな。所詮『流し子』だ」
セザは薄く笑った。嘲りを多分に含んだ笑みだった。