表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣王の婚活  作者: 東方博
28/77

ひさしぶり、幼なじみ③

「とりあえず鎮静剤を飲ませるか」

「どうやって」

 渡して素直に飲んでくれるような状態ではない。言葉が通じるかも怪しい。かといって放っておくこともできなかった。

 はてさてどうしたものかとファルサーミと二人で屋根の上で考え込んでいたら、背後から声が掛かった。

「何があった」

 アスラは振り返り、目をしばたいた。

 精悍な青年だった。小柄だが引き締まった痩躯には一分の隙もない。美しい金髪を無造作にかき上げ、前を見据える眼差しは鋭く、獲物を狩る肉食獣を彷彿とさせた。姿形こそ人間と変わりないが、気配は獣人のそれだ。

「セザか」

「どういうことだ。説明しろ」

 こちらの問いを真っ向から無視。挙句尊大に命令。アスラが同じことをやれば間違いなく説教が始まる無礼な態度だったが、ファルサーミは咎めなかった。咎めても無駄だとわかっているからだろう。

 先代の獣王ゼノの息子、セザだ。大鷲カルサヴィナを討伐するため、ふた山越えた遠方の地に赴いたと聞いていたが、ようやく戻ってきたのだ。

「お前のところの若い奴が、間抜けにも人間に捕らえられて売り飛ばされた。俺たちが駆けつけた時、既にあの通り暴走していた」

「発情期で興奮しているのか?」

「それにしては元気過ぎないかなー」

 この場にそぐわない明るい声が乱入。セザの背後から顔を出したのは、銀髪の子どもだった。少年か少女か判別がつかない、中性的で可愛らしい顔立ちをしている。

「血の気の多い獅子族とはいえ、理性を失って暴れるほどではないはず。それに発情期による暴走なら、メスを襲わないのも妙だ」

「メスとして認識されていないだけかもしれんぞ」

 ファルサーミとセザ、二人の視線を浴びたアスラはこめかみをひくつかせた。

「悪かったな、メスとして機能していなくて」

 よほど自分にメスとしての魅力がないのか、それとも発情していても半獣はお断りなのか、いずれにせよ面白くはなかった。

「アスラ、拗ねるのは後にしろ」

「拗ねてない。無礼な発言に腹を立てているだけだ」

「それを拗ねていると言うんだ」

「……アスラ?」

 怪訝そうに呟いたセザが、不意に目を見張った。アスラのつま先から顔まで一通り眺める。

「お前、棕櫚(しゅろ)か」

 懐かしい名に思わずアスラの耳が動いた。育ての親と先代の獣王が亡くなって以来、誰にも呼ばれていない。

 銀髪の子どもが首をかしげた。

「シュロ?」

「先代王の寵姫が一人、紫苑が拾い、娘として育てた半獣。便宜上、他の寵姫と同様に二つ名を与えて城に住まわせていた」

 セザは淡々と語る。数年ぶりに再会した感慨もなく。

「狼族を襲った水妖を探すため、寵姫の座を返上して出奔したはずだが……その様子だと、まだ本懐は果たせていないようだな」

「ふーん、先代が認めたってことはそこそこ強いんだ」

「それはどうかな。所詮『流し子』だ」

 セザは薄く笑った。嘲りを多分に含んだ笑みだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ