表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣王の婚活  作者: 東方博
19/77

ようこそ、人間の国①

 大陸の最南端にあるウィンヴィリア王国は、海路の開拓と共に発展した商業国として名高い。

 海の入口でもある港町ポタルとなれば、往来も盛んで多種多様の人種が町中を行き交う。さすがに耳ビレのある水妖やケモミミと尻尾を剥き出しにした獣人は闊歩していないが、それら異種族の特徴さえなければ、異国の人間だと勝手に解釈してくれる。そのため、獣人であるアスラもファルサーミも、人目を気にすることなく町中を歩き回れるーーはずだった。

「『黒い長髪、ややつり気味の目、歳は十五、六ほどの少女……名はアスラ』」

 人相描きと共に記載された特徴をファルサーミが淡々と読み上げる。

「探されているぞ」

「ラントの奴……っ!」

 すっぽりと被ったフードの中でアスラは歯噛みした。

 犯罪者よろしく手配書がポタルの至る所に貼られていたのだ。アスラは外套を羽織い、人目を忍ばねばならなくなった。

「結婚できないって言ったじゃないか」

「納得していなかったようだな。それにしても、触れ回りたいのなら、遠吠えか小動物に伝令をさせればよいものを。何故こんなまわりくどい方法を取るのだ」

「人間は遠吠えもできないし、動物が何言ってんのかもわからないからだよ」

「馬鹿な。動物の言葉も解さずにどうやって生活する?」

 顔をしかめるファルサーミに、アスラはため息ついた。

「人間は、人間としか会話しないんだよ」

 二百年近く生きているファルサーミに、十数年しか生きていない自分が、何故ものを教えているのだろう。いくら森での暮らしが長いとはいえ、寝床のことといい無知にも程がある。

「ねえファルサーミって、森の外に出たことある?」

「今まさに不本意ながら出ている」

「いや、前にもってこと」

 ファルサーミは深刻な顔で考え込んだ。

「……はじめて?」

「初めてではないが、覚えておらん」

 ないも同然ということだ。アスラの視線を感じてか、ファルサーミは「興味がない」と言い捨てた。

「森に生まれ、森で死ねば十分だ。それに人間と関わると碌なことがない」

「嫌な思い出でもあるの?」

「先代のつがいが人間だったからな。サラを筆頭に獅子族の純血主義共がやかましくてかなわなかった」

 アスラは目を見開いた。初耳だ。

「先代のつがいは人間だったのか?」

「お前が生まれる前に死んだ。詳しいことは俺も知らん」

 先代の部屋に寝台が置いてあったりとやたらと人間趣味だったのは、そういうわけか。『混じりもの』であるアスラを寛容に受け入れたのも、きっと異種族に対する抵抗がなかったからだろう。

「でも、先代の子は全員純血だよ、ね……?」

「つがいとの間に子は成さなかった」

 ファルサーミは断言した。一切の疑問を挟まない強い口調だった。

「こっそりいたりして」

「ない」

「可能性として」

「絶対にない」

 ファルサーミは観念したように深いため息を吐いた。

「あのサラが、先代王の血をひく半獣を生かしておくと思うか」

 とてもそうは思えない。アスラはしっかりとファルサーミの言いたいことを理解した。たしかにそれは、碌なことではない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ