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獣王の婚活  作者: 東方博
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はじめまして、次代の獣王陛下③

「……なに、魚?」

 突如、後ろの襟首を掴まれ持ち上げられた。「ひゃわ」と奇声を発するニニを、セザは川岸に片手で放り投げる。次いでに自らも跳躍。岸辺の大岩の上に降り立った。

 間髪入れず、川の一部が、先ほどまでニニがいた場所が迫り上がった。噴水よろしく空高く、勢いよく。もしもセザが放り投げなかったら、ニニは吹き飛ばされていただろう。

「な、な、ななななな」

「やあ坊や、こんにちは。作業中に失礼」

 水柱を背に現れたのは、美しい顔立ちの青年だった。毒花を彷彿とさせる紫色の髪。病的なまでに白い肌。生気がなく、まるで精巧に作られた人形のようだった。

「はじめまして、山堕とし殿。お目にかかれて光栄だよ」

 青年は恭しく礼をした。『山堕とし』はセザの二つ名だ。近辺一帯の主を倒してまわることからつけられた。

「水妖が何の用だ」

 セザが嫌悪を露わに吐き捨てた。

 普段は人間と変わらない姿。しかしその本性は地上の全てのものを母なる海に還そうと企む邪悪な怪物。

 かつて千尋の森にある世界樹を涸らすため、水源に門を作ったのも水妖だ。これにより水は途絶え、獣人族はおろか森の生きとし生けるものが飢え渇いた。窮地に追い込まれたその時、『金色の王』と呼ばれる獣人が水妖達に戦いを挑んだ。『金色の王』が水妖から『水門の鍵』を奪い、門を開けたことにより、水源は再び解放されて世界樹と千尋の森を潤した。

 その『金色の王』こそが初代の獣王であり、以来『水門の鍵』は代々の獣王が受け継いで守ってきた。対する水妖も『水門の鍵』を奪還し、再び門を閉ざすべく機会を伺っているという。

 獣人と水妖は決して相いれない種族なのだ。

「次代の獣王陛下にご挨拶をと思ったんだけど」

 水妖の青年は酷薄な笑みを浮かべた。

「獣王就任の名乗りをあげるどころか国にも帰ってこないんだもの。今、ゾアンがどうなっているのか知らないわけじゃないだろう? ちょっとのんびり過ぎやしないかな」

「大きなお世話だよ」

 口を挟んだニニはすぐさま後悔した。全身の毛、そして鱗が逆立つような戦慄。悪意と残虐さを内混ぜにした眼差しに射すくめられた。

「あいにく君の意見は聞いてないんだよ、ミミズくん」

 おぞましい化け物がこちらを獲物と定めている。自身に向かって手をかざされても、ニニは動くことができなかった。

「そいつはミミズじゃない。蛇だ」

 一触即発の状況にセザが無造作に割って入った。

「用件は何だ」

「今、申し上げた通りだよ。挨拶と僭越ながらご忠告を。早く帰国しないと、新獣王のアスラがとんでもないことをやらかすよ」

「……アスラ?」セザは眉を顰めた「誰だそいつは。獅子族の者か」

 新獣王を知らない。さすがにこれは予想外だったらしく水妖は口をぽかーんと開けた。

 無理からぬことだ。セザは成人してすぐに千尋の森を飛び出した。帰国するのは年に一度あるかないか程度。獅子族のことならいざ知らず、他の部族のことまでは把握していない。

 ニニも何者かが新獣王に就いたことは知っているが、名前までは知らなかった。興味もない。セザが帰国した時点で『先代獣王』になる者の名なんて。


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