外へ
散歩をしていた白い塊達は、1000年ぶりに「声」を聞いた。
赤ん坊の泣き声。
存在しないはずのバグの行く末は先祖返りだった。
白い塊達は、一切その声に干渉しない。
まるで聞こえないように去ってゆく。
けれど、自分はもうその外にいる。
産まれてしまった特異な存在を拾い上げて、抱きしめた。
ゆらゆらと揺らしてみたりすると、赤ん坊は笑った。
その声に、その顔に、そして小さな指に、白い塊は応えるように泣き始めた。
涙も声も体の構造上出ない……から、体の構造が少し変わった。
ほんの少しだけで、見た目は他の塊と変わらない。
そして在りし日の地球で使われた、全世界共通語の一語を、赤ん坊へ言った。
「愛してる」
声は不器用だった。産まれたての赤ん坊よりも遥かに。
けれど、その声に赤ん坊は笑った。
隣のあの人も、同じように声をかけた。
「愛してる」
二人で小さな体を抱えた。
そして、逃げるように、生活区域からどんどん離れた。
幸い赤ん坊も食事や排泄が必要な体ではなかった。
だから、三人でどこまでも遠くに逃げた。
神か宇宙人か何か知らないが、プログラムの外へ隠れてやる。
そう強く思って、三人は逃げて逃げて逃げ続けた。