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トラウマ?

文化祭を無事に——と言い切れない幾つものトラブルに見舞われながらも、どうにか文化祭が終了した。

11月の中旬、平日の放課後を仲谷嘉代の自宅に上がり込み、何本もまとめて借りてきた洋画の映画の一本を観賞していた。

「…………」

「……ふぁあー。ふぅー」

テレビの画面には、二つの組織が港の付近に建つ倉庫内で激しい銃撃戦を繰り広げている。

俺はグラスに注がれたオレンジジュースで喉を潤し、眠気と格闘していた。

エアコンの暖房が効いている仲谷の自室だが、隣で膝を抱え体育座りで洋画を観賞している彼女は着替えもせずにブレザーを羽織ったままだ。

俺は洋楽や洋画に対して、さほど興味を抱かないで生きているから、仲谷ほど熱中出来ずにいた。


洋画を一本消化した頃には、太陽が沈みきりそうな暗さだった。

「ふぅ〜!面白かった〜拓海は……って観てなかったの、あの大迫力のバトルをさっ!?」

「ふぇえ……観てたよ、嘉代ぅ。面白かったなぁ〜」

「舌が回ってないよ、拓海ぃ!もう〜台無しだよーぅ!ってか、暗っ!拓海、もう帰る?」

「あぁ〜うぅん。そうするわ」

意識が覚醒していない俺は酔っ払いのような返事を彼女に返し、立ち上がり、ふらついた脚で扉を目指す。

「あぁあーっ!ちょちょ、ちょい拓海ぃだいじょ——」

身体の何箇所を壁や何処かの角にぶつける俺の背後で、彼女が慌てた声を上げたのはどうにか届いた。

俺が身体の何箇所に鈍い痛みを感じながらも扉のドアノブに触れることなく、フローリングにドスっと倒れて、意識が徐々に遠のいた。


俺は意識を取り戻し、上瞼を上げてみると、視界には辺りが白一色の空間が広がっており、正面には向かい合う女性が俺を抱擁しており、頬を擦り合わせていた。

俺を抱きしめる女性は俺を産んだ母親でも咲苗さんでも、蜜牧先輩ですらない見知らぬ女性だった。

女性の顔の造りを記憶に留めようとすればするほどに、朧げになっていく。顔に墨汁を塗られたような顔の造りを認識するような感覚ではなく、ピントがいつまでも合わない見え方だ。

女性は膝立ちで俺の背中に両腕を回し、押し当てられた豊満な胸の柔らかさもはっきりと感じれた。

女性の前髪は睫毛に掛かる肌に伸びていないのに、顔の造りが一向に分からない。

女性は俺を抱きしめながら、何やら言葉を発していた。囁いているのか、呟いているのか、それとも——


俺は抱きしめながら頬を擦り合わせている女性が発している言葉を、理解してはならないと直感的に感じた。

俺は女性に頬ずりをされていた筈なのに、いつのまにか舌で舐められたように唾液が頬にねっとり残るのを感じ、女性を引き剥がそうと腋の下辺りを触れる。

骨が有るはずの身体の位置に触れた筈なのに、液体で満たされたゴムのような感触で、思わず悲鳴を上げた俺だった。

「ひぃっ……!」

俺の悲鳴で女性は頬ずりらしきことをやめ、顔を見据える位置まで顔を動かし、ニタァーと笑った。

俺には身体中に悪寒が広がるような、女性の笑顔に感じた。


「……みっ……ょうぶ。……くみ……っい……じょうぶ?」

身体を揺さぶられていることに気付いた俺は、恐る恐る上瞼を上げた。

「はぁはぁ……嘉代、か?」

「え、仲谷嘉代だよ……私。良かった〜拓海が意識を取り戻して」

「そう……」

「今晩は泊まっていきなよ、拓海。あんなん見たら、心配しちゃうって」

「昔のトラウマの類かなんかか……?」

「何ぃ〜思い詰めたような顔して?」

「なんでもない……」


仲谷はそれ以上の追及をしてはこなかった。




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