怯える後輩
彼が下駄箱の前に姿を現し、靴を地面に落とし脚に引っ掛け、昇降口へと歩き出した。
彼が歩き過ぎようと私の前を通った刹那に声を掛ける。
「よっ、義弟くん。先輩に挨拶せずに素通りするとはヤるねぇ。これから急ぐ用事とかある?」
「……えっと、その、すみません。あの日の……」
「警戒してんねぇ、キミぃ。覚えてくれててありがと。そう、莉奈に告白してきた日以来の顔合わせだね。嘉代ちゃんをだいぶ可愛がってもらってるようでありがたいよ。あの娘、変なとこが強情で扱いに困ったりしてないかい?」
「……え。あぁ嘉代がお世話になってるって先輩か。ボクが可愛がってるてか、可愛がられてる感じですけど……まぁ大変と言えばそうですね。えっと先輩は——」
「美代菜だよ。美代菜って気軽に呼んで、義弟くん。こんなとこで立ち話もなんだし、クレープでも食べに行かない?」
「えっと、それは……」
四條原は後頭部に片手を伸ばし掻きながら目を伏せて、戸惑った。
「莉奈とも帰んないんだし、断るようなことないじゃん。嘉代ちゃんも珍しく理性を抑えてるみたいで、横槍は入んないらしいし。付き合う?付き合わない?ヘタレな拓海くん」
私は四條原に横から顔を覗くような体勢で彼の耳許で脅すように低く囁いた。
「わ、わかりました。行きます、行きますからっ」
彼が声を振るわせ、激しく首を前後に振った。
「おいおい〜私が後輩をイビってるように見えちゃうじゃん。普段のように振る舞ってよ、拓海くぅーん。じゃないと——」
「えー嬉しいなぁ、クレープ奢ってくれるんですかぁー?何がいいかなぁー、早く行きましょうよー」
彼は震えた手で私の手を取り、声を震わせたまま昇降口を抜けて周囲の視線を払うように校門へと脚を急がせた。
校門を抜けたところで冗談のように高い声に戻し、彼に安心させる。
「マジに受け取んないでよぅ、あんなの。冗談が通じない系男子ぃ、キミって?私が可愛い後輩ちゃんを捕って喰おうなんてしないよぅ〜嫌だなぁもうぅ」
「ひぃっ……拷問されるんですか、今から?拘束されて……」
笑ってるが据わった瞳に怯えたようで、声を震わせたまま今にも失神するような勢いの彼だった。
私は彼に繋がれた手を優しく解いて、初対面の時の雰囲気を纏い直し、警戒心を取り除く。
「私がそんな酷いことをするわけ無いじゃん。そんなことしてたら、とっくに捕まってるよぅ〜そうじゃない?私って平和主義者だよ。嘉代ちゃんにイビられたなんて話は聴いてないでしょ。さぁさぁ、行こうよ。美味しい美味しいクレープを食べにさぁ!」
「……は、はい」
私は歩き出し、四條原が隣を歩くように画策したが最後まで背後をついてくるだけだった。
私は彼を脅かし過ぎたらしい。
親友の心中を察してる身で、少々やり過ぎてしまう。
仲谷はよく私の脅しに怯えずに居れるなと感心した。
最寄りの駅で電車に乗車し、市街地へ四條原を伴いクレープを食べに行く。
彼女は大切な人が傷つくと傷付けた人に容赦なくなることがある。
怖い、この人は。
この作品の中での怖いキャラの上位三人のうちに入る人。




