逃げたくて、聴き続けた曲
「なぁー椎菜、泊まってて良い〜?」
「いいよ、べつに〜。明日の講義は遅いの?」
「うんー、朝イチじゃないから余裕あって〜。今夜、気分じゃない?」
「最初っからそのつもりで泊まろーってしたんでしょ?そんなヤらないと死ぬの、男性って。まあ、べつにシようがシまいが私はどうでもいいけど」
「ごめん、椎菜。椎菜を傷付けるようなことして……食べようか、夕飯」
「私こそごめん、和樹くん。そうしよ」
キッチンからリビングに二人分の夕飯を載せたトレーを運んできた西野に対し、謝ってから首を縦に振って同意した私。
ダイニングテーブルへと歩いていき、ダイニングチェアに腰を下ろし着席した。
西野がダイニングテーブルに二人の夕飯を並べていき、ダイニングチェアに腰を下ろした。
私と西野は食事を始めた。
四十分程で、夕飯を摂り終え二人で食器を洗う。
二人掛けのソファーで身体を沈めながら、テレビでバラエティ番組を流しながらたわいない会話を繰り広げる二人。
交際相手の彼は、自然に笑っていた。普段から自然な笑みを浮かべて会話を弾ませる。
私は、いつの日からか自然に笑えなくなっていた。
笑えたとしても、ぎこちないのだ。
私は高校生の頃から、周囲に笑えると取り繕っていた。
親友には、そのことが真っ先に気付かれた。
その親友とは、高校を卒業してから会っていない。
彼女は地元の大学に進み、私は地元を出て東京に住み始め、東京の大学に進学した。
西野和樹は、進学先の大学の一年先輩の交際相手だ。
私が西野と親しくなったのは、カラオケでサザンオールスターズの楽曲を歌っているのをみたことがきっかけだった。
中学生の頃は、サザンオールスターズの楽曲を聴く方ではなかった。
けれど、家族全員で外食に行ったときに車中で両親が頑なにかけていたのがサザンオールスターズの楽曲で、父親が亡くなって四條原咲苗が憔悴して辛い時期に逃げ出したくて毎日サザンオールスターズの楽曲を聴くようになった。
帰る実家が息の詰まる空間になり始め、笑うことすら許されないような空気感を感じて、家族の団欒が減っていき、寂しい空間へと変わっていった。
私が感じ抱えた閉塞感に、衝撃を与えたのは西野和樹が歌うサザンオールスターズの『TSUNAMI』だった。
壁に掛かった時計が21時40分を示していて、私は立ち上がりながら、彼に声を掛けた。
「シャワーを浴びてくる。和樹くん、シよう。嫌なこと忘れたい」
「うん……」
誘ってきた割に、乗り気ではない返事が返ってきた。
私はリビングを出て、狭い浴室へと歩き出した。
彼と夜の営みを行ったが、消化不良のような感覚が残り、就寝しても悪夢にうなされた。
出したかった曲が出せなかった……




