嫌な名前、カレを偲ぶ
「あの娘……元気かなぁ」
「あのこって、誰のことよ。茉由ちゃん?」
「ウチが親しくしてた娘じゃなくて……弟がよく遊んでたあの——」
中学校に上がる前に亡くなった弟のカツキの仏壇が置かれた仏間を一瞥した。
正面のダイニングチェアに腰を下ろし、面白くもないバラエティー番組が流れるテレビに視線を向けたままに訊いてきた母の勘違いに首を振り、返答する私。
「あぁ……かっちゃんがよく話題に出して彼女ね。歌うとピアノを弾いてくれたっていう……なによ、急にそんなこと言い出して」
「カツキがあの娘のこと、気にしてたのをふと思い出して……それで、ね」
母も彼女のことを覚えているようで、驚いた。
「そうだったかしら……?病を患ってたの、彼女?」
「そんな風には見えなかったけど、あの娘。カツキ……あの娘と、付き合いたかったんだろうな。あの娘もきっと……」
「そう……。彼女が、かっちゃんを好きになったのなら……かっちゃんは……」
母は泣いていた。ダイニングテーブルに載せていた両手に視線を移し、堪えようとしているが涙がぽろぽろと溢れている。
「そう……だね。リナちゃんが元気でいるなら……カツキは——」
カツキを偲び泣き続ける母の手を包み込みながら、頷いて答える私だった。
今頃、リナちゃんは高校二年生だろう……彼女があの頃のように悄然としていないことを祈ることしか、私には出来ない。
私は、リナちゃんの一家が何処へ引っ越してしまったのか知らない。
リナちゃんは、リナちゃんだけは……生きててほしい、と身勝手に願いながら、カツキを、カツキとリナちゃんを偲ぶ。
あの季節を迎えるのを怯える私だった。
私は、名前に反して……臆病、だ。
ヒナタ……日向、なんて名付けて欲しくなかった。




