閑話—キミは無理しなくても…
照明が付いたリビングには、テレビから流れるバラエティー番組に出演するタレントの笑い声だけが響いている。
リビングには、妹や蜜牧先輩、母の姿はなく俺一人がいる。
数ヶ月前までなら、現在の時間帯は俺を含めた四人の笑い声がリビングを満たしていた。
現在はもう、その痕跡すら拭い去られたように、重々しい空気がリビングに漂うだけだ。
父と母が再婚する以前までは、俺と妹の二人で寛ぐか俺一人だけの寂しい空間だったリビングが彩りを失くし、モノクロだった以前まで過ごしていた空間に戻っただけに過ぎない。
ただ、それだけに過ぎない……
過ぎないはずなのに、胸にぽっかり空いた穴を虚しさが占拠するだけだ。
俺をからかって人懐っこい笑顔で緊張をほぐしてくれた咲苗さんの顔——を含めた姿をここ一ヶ月の間、見ていない。
現在では咲苗さんがこなしていた家事は、俺か蜜牧先輩のどちらかがこなすことになっていた。
自身を責めたところで失ったモノは戻らない。
だというのに、咲苗さんは……
俺と妹よりも、咲苗さんの方が激しく傷心していた。
咲苗さんが父と過ごした二年六ヶ月という年月は、それほどに貴重で手離したくなかったモノだったのだ。
蜜牧先輩から聞いたところによると、咲苗さんはカーテンを閉め切った寝室でベッドにうずくまりながら、「浩平さん……浩平、さん……」と垂頭喪気の様子でぼそぼそと呟き続けていたらしい。
そんな咲苗さんの様子に蜜牧先輩も傷心しきっている。
「まだ居たんだ、拓海……」
唐突に掛けられた声で我に返り、ゆっくりと振り向いた俺。
「ねぇさ……もう寝たのかと——」
「寝れないよ。拓海は……エラいよね、泣かないなんて。私は……堪えらんない、よぅ。すごい、よ……たく、ぅうっみは、さ……」
蜜牧先輩の見下ろした虚な瞳から視線を逸らし、ぽつりと発した俺。
「……んじゃな、いよ」
以前の——好きだった蜜牧先輩の面影は、どこかへ消え去っている。
「……」
「姉さん、と一緒だって……」
「……うかも、ね……」
瞬きもせずに佇む彼女は、その一言を呟いて、キッチンで喉を潤してから無言で自室に戻っていった。
——ねぇ、父さん……俺は、俺たちは……どうしたらいいのかな?
——今は見られないあの人懐っこい笑顔で、アドバイスしてよ……父さん。
どうするのが、正しいんだろう……俺は。
俺も、俺は……父さんみたいな最期を迎えるのかな?一人は、独りで逝くのだけは嫌だな。
せめて、せめて……莉奈に、ありがとう、って伝えてから逝くのが良いな……
父さんの、父さんの……最期に残した遺言は何だったんだろう?
——教えてよ、父さん……最期、なんて言ったの?俺のこと?妹のこと?蜜牧先輩のこと?咲苗さんのこと?
拓海が高二の秋頃の話。
浩平と咲苗さんが再婚して、一年数ヶ月が経った頃のです。
閑話でする内容かとは思いましたけど、書きたくなったのでこうなりました。
重くて、すみません……




