朝の一騒動
目の前で膝に手をついて、屈む青髪の女子──宮郷綾がいた。
「イメチェン......なの?宮郷さん」
「相変わらず......ですね。そういうとこが四條原先輩の美点ですよね。違います、イメチェンではなくねぇーちに強制させられたんです」
「ごめんね。きつく言い聞かせとくから、染めてないよね......髪を」
「ウィッグです、そんな髪を傷めるようなことはしません。四條原先輩に......褒め、られ......ました、から」
青髪のウィッグを外しながら、否定し小声で呟いて、静かに視線を逸らす彼女。
「へぇー......って、何て、宮郷さん?」
「なっ、何でもっ......ありませんっ!気にしないでください、四條原先輩っ!」
「うっ、うん。わかったよ......あっ、あぁっとぉ、せいふ、くが......」
「......せい、ふく?ぁぁああっわわわぁっっ!これはぁっちがぁっ!」
姿勢を正しながら、胸の前で両手を大きく振りながら、慌てて否定した彼女。
「わわっ!わかってるよっうぅ!別にああいう意味じゃっ、ないからね!決してっ!」
「は、はぁはっはぁいぃっ!わかってますぅぅっ!」
動揺する俺と彼女。
30分後、宮郷とリビングで朝食を摂ることに。
気まずい空気がリビングに漂う。
「どうしたの?二人して黙り込むなんてさ。珍しいね、目も合わせないなんて」
隣に座り、向かい合って無言の俺と彼女に視線を向けながらそんな疑問を投げ掛ける妹。
「「何でも、ない......よ」」
返事がハモってしまった。
「ふぅ~ん、綾ちゃんてばぁ~ウィッグつけてないしぃ~!何でなの、もうぅ~おぉっ!」
ウィッグに関して声を荒らげるか、普通?
「嫌っていうか......正直、あれは──」
「綾ちゃんに似合うと思ったからだよぅっっ!いつもなら素直に聞き入れるのにウィッグだけはっっ──」
妹のこだわりが分からないんだけど。
宮郷には青髪は似合わない。金髪にでもしたら俺は──俺は、俺はっ、宮郷のことを──
「うっ、う......うん......」
宮郷は、妹に困惑した表情を見せるが意に介した様子もみせず、捲し立て続ける彼女を諦め、味噌汁を啜る。
俺も宮郷に倣い、朝食を口に運ぶことにした。