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第6話【祈念】

 人間霊達がいないのは至って簡単であった。

 救済を求める彼等の祈りがーー魂がヒソウテンソクの動力。

 つまり、その人間霊達が一丸となって集結し、ヒソウテンソクを動かしているのだ。


 ヒソウテンソクは埴輪の魔神を明後日の方に投げると胸に熱を集中する。


 そして、胸から灼熱の炎が放たれ、埴輪の魔神を襲う。

 土より出でた埴輪の魔神に炎などは通用しなかったが、その中の動物霊はただでは済まない。


 吉弔八千慧はそのヒソウテンソクの火力に戦慄した。

 いや、その火力にではない。


 問題視したのはその火力の源にである。


「撤退するわ!」

「は?しかし、まだーー」

「解らないの!?あれは動物霊のみを浄化する力よ!!

 誰だか知らないけれど、あれは私達には手が出せない!!」


 吉弔八千慧はそう叫ぶとがらんどうになった埴輪の魔神を粉砕するヒソウテンソクを睨む。

 古来より人間は動物に対して徒党を組んで狩りを行っていた。そして、それは武器を手にする事で力を増し、現在の外の世界の人間環境を産み出した。


 このまま行けば、畜生界は人間の天下となるだろう。

 それだけならば良いが、それはつまり、動物霊が居場所を失い、畜生界その物の在り方が危機に瀕している事になる。


「どこの誰かは解らないけれど、厄介なモノを送って来てくれたわね・・・どう、落とし前をつけてくれようかしら」


 吉弔八千慧は悔しげに親指の爪を噛むと自身もその場から撤退する。


ーーー


ーー



「やるじゃないか、あの巨人」

「組長、これ、ヤバいんじゃないですか?」


 驪駒早鬼が感心したように呟くとその配下の狼霊が尋ねる。


「ん?ああ。そうだね?ーーこっちも撤退するよ!」


 驪駒早鬼はそう叫ぶと周囲の動物霊達に撤退を促す。

 驪駒早鬼もまた、ヒソウテンソクの本質を見抜いていた。


 ヒソウテンソクはただの巨人ではない。

 人間霊の祈りとその魂を媒介に半永久的に動くーーまさに鋼鉄の城なのだ。


 そんな物にいまの畜生界の動物霊が勝てる訳がないーーそう。"いまは"である。

 戦闘に特化した勁牙組の組長であるが故に驪駒早鬼は後々を考えれば、此方に有利になると実感があった。

 動物霊への畏れを失った畜生界が人間の天下となれば、必然的に人間と云うのは無防備になったりするし、信仰も失って行く。


 そうなれば、ヒソウテンソクはただの鉄の塊となる。

 勝機はまさにそこにあるだろう。人間とはすぐに増長する。

 ヒソウテンソクへの祈りが失われる時こそが動物霊達の復讐の時なのである。

 それまで力を溜めなくてはならない。


 吉弔八千慧とは違い、驪駒早鬼は至って冷静にそう分析出来た。


 そして、その勘は数十年後に当たるのであった。

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