第5話【対決】
霊長園に集う狼霊達とそれを先導する漆黒のペガサスこと勁牙組組長・驪駒早鬼。
それに対し、ヒソウテンソクはその巨体でゆっくりと動き、彼女達を二つのモノアイで見据える。
「なんだ。どんな奴かと思ったら如何にも鈍臭そうな奴じゃないか。
こんな図体だけがデカいだけの奴を鬼傑組の奴等はビビってんのか?」
驪駒早鬼はそう言って馬鹿にしたように笑うと手を掲げ、狼霊達へ突撃の合図を放つ。
そんな突撃して来る狼霊達にヒソウテンソクは拳を突きだし、ロケットパンチことキューカンバーパンチを放つ。
虚を突かれた狼霊達の何匹かは吹き飛ばされるが、驪駒早鬼はニヤリと笑う。
「鈍い!鈍い!鈍い!」
驪駒早鬼は飛翔しながら腕を失ったヒソウテンソクの顎を蹴る。
鈍い痛みが驪駒早鬼の脚に伝わったのは次の瞬間であった。
(こいつ、埴安神袿姫とは違う意味で手強い!)
驪駒早鬼は冷たい汗を掻きながら逆境に燃えていた。
これは鬼傑組の輩と違い、堂々とした戦いだ。
弾幕もへったくれもない解りやすい肉弾戦である。
そう云った戦いは驪駒早鬼の得意分野であった。
「お前達は手を出すな。こいつは私のえもーー」
そこまで言い掛けた所で霊長園の一角が崩れ、巨大な埴輪の魔神がゆっくりと上体を起こす。
「なんだ、あいつは?」
それは立ち上がるとヒソウテンソクに顔を向け、ズシンズシンと音を響かせて近付くとその拳をヒソウテンソクに叩き込む。
ヒソウテンソクは派手に倒れ込み、霊長園の無事な建物を倒壊させる。
ヒソウテンソクもプログラムにない相手にシステムエラーを起こし、埴輪の魔神を敵と捉えられず、為すがままにされる。
そこで驪駒早鬼はこれが鬼傑組の仕業だと察する。
こんな奇抜な策は鬼傑組組長・吉弔八千慧の仕業以外に考えられなかった。
案の定、ヒソウテンソクは攻撃の気配がない。
ーーー
ーー
ー
「ふふっ。やっぱり、動物霊にのみ反応するようね」
吉弔八千慧はその様子を見て、うっすらと微笑む。
「吉弔様」
「人間霊達は見付かったかしら?
念の為に奴等を人質にする作戦も考えるとは我ながら中々の知恵だと思わない?」
「その事なのですが・・・」
自画自賛する吉弔八千慧にカワウソ霊は口ごもるともう一匹が返答する。
「この霊長園に人間霊の存在が影も形も見えません」
「はっ!?それはどう言うーー」
その続きを口にする前にヒソウテンソクに変化が起こる。
その二つのモノアイが輝きを宿し、拳を繰り出して来る埴輪の魔神の腕を掴んだのだ。
埴輪の魔神は埴安神袿姫が作ったセラミックの巨大な埴輪だが、それを動かすには膨大な人間霊の信仰心が必要となる。
吉弔八千慧はその埴安神袿姫の置き土産に自身の組の動物霊を型に無理矢理嵌め込む事で稼働させているのだ。
いずれは鬼傑組の戦力として埴輪の魔神を隷属化した人間霊達に使わせるつもりだったが、その人間霊達が救いを求めた霊長園にいないのはおかしな事であった。
そして、何よりもーー
「何故、あいつから圧倒的な信仰の力を感じるの?」




