第4話【対策】
「それでその新しい造形神とやらにやられたって訳か?」
勁牙組の組長である驪駒早鬼はソファーにドッカリと座りながらテンガロンハットを被り直し、鬼傑組組長の吉弔八千慧に尋ねる。
吉弔八千慧は頭痛でもしているかのように額に手を当てると驪駒早鬼に「そうよ」と返す。
「いずれ、新しい造形神が現れ、私達を霊長園から追い出すのは分かりきっている事だった。
けれど、そう上手くは行かなかった」
「だから、また手を組もうってか?
鬼傑組の組長はいつからそんなに弱腰になったんだい?」
「言わせておけば!」
挑発する驪駒早鬼に鬼傑組の部下であるカワウソ霊が身を乗り出そうとするが、そんな部下に対して吉弔八千慧は座ったまま、その腰から伸びた龍の尾を鞭のようにしならせてカワウソ霊の背中をバシンと叩く。
「組の中で無用なタマの取り合いをしてんじゃないよ。
うちに喧嘩っぱやい奴はいらない。あんた、ただの動物霊に戻るかい?」
「も、申し訳ありません、吉弔様!」
平謝りするカワウソ霊を見る事なく、吉弔八千慧は興がそがれたような顔をする驪駒早鬼を見据えた。
「そんな安い挑発する暇があるのなら、そのない頭で考えなさい」
「なんだと?喧嘩売っているのか?」
「話がこじれるから落ち着きなさい。そもそも、今回の目的は新たな造形神でしょ?」
吉弔八千慧はうんざりした様子で龍の角のついた金髪の髪を掻くと水色のスカートを揺らめかせながら足を組みかえ、ひじ掛けのついた高級そうな黒い椅子にもたれ掛かったまま説明する。
「前回の埴安神袿姫の時とは違うのよ。
人間に此方の素性がバレて間もない内から起こった造形神の誕生ですもの。
つまり、今回の一件は私達しか相手を出来ない」
「なら、打つ手なしか?」
「ただ、此方にもメリットがあるわ。
相手は巨大過ぎて、しかも一体しか存在を確認されてない。なら、そこが狙い目よ」
吉弔八千慧の言葉に驪駒早鬼は「ハハーン」と何かに気付く。
吉弔八千慧も何かを察した驪駒早鬼にうっすらと笑う事で返す。
「先陣は貴女達ーー勁牙組に任せるわ。鬼傑組は奴の背後から奇襲を仕掛けるわ」
「相変わらず、卑怯な連中だな、鬼傑組は・・・だが、久々の大捕物だ。
勁牙組は今回の事に手を貸そうじゃないか」
いの一番に驪駒早鬼が返すと吉弔八千慧も頷く。
「そうして貰えると助かるわ。
ああ。そうそう。今回は剛欲の連中は不参加だから、貴女達は思う存分、暴れなさいな」
「なんだ。あいつらは不参加か・・・面白くなって来たじゃないか!
こうしちゃいられねえ!祭りの準備だ!」
驪駒早鬼はそう叫んでソファーから立ち上がると鬼傑組の事務所から出て行く。
そんなざっくばらんな驪駒早鬼を見送ってから、吉弔八千慧は造形神ーーヒソウテンソクの事を考える。
「表立った事はあの筋肉馬鹿に任せるとして私達は私達で動くよ」
「え?勁牙組と連携するのではないですか、組長?」
先程、背中を叩かれたカワウソ霊が尋ねると今度はその頭に吉弔八千慧の鞭が飛ぶ。
「馬鹿ね。本気であのデカブツとたかが組二つで倒せる訳がないじゃないーー私達は奴の弱点を狙うのよ」
そう言うと吉弔八千慧は他のカワウソ霊に下準備をさせつつ、先程から叩くそのカワウソの頬に手を当てて呟く。
「お前はクビよ」