第3話【救済】
霊長園に到着したヒソウテンソクは周囲を見渡す。
そこはかつて、造神・埴安神桂姫が治めていた人工物の森であったのだろうが、今は畜生界の動物霊達によって破壊され、見る影もなくなっていた。
ヒソウテンソクはそんな周囲の光景を見渡すと光輝き出す。
それは破滅の光ではなく、心の底から温かくなる慈悲の光であった。
ヒソウテンソクは本来なら東風谷早苗、八坂神奈子、洩矢諏訪子の三人が搭乗する事ではじめて起動する巨大ロボットなのだが、このヒソウテンソクーーもとい、対畜生界救済専用ヒソウテンソクVR63式にはある仕掛けがしてあった。
埴安神桂姫は埴輪と云う物体を構築する事で実体をもたない動物霊達に対抗していた。
即ち、奇跡と科学の結晶であるヒソウテンソクもまた動物霊達に有効な手段となり得ると云う訳である。
加えて、このヒソウテンソクには東風谷早苗と呼ばれる風祝であり、現人神の力が込められている。
即ち、ヒソウテンソクにも奇跡を扱う程度が微力ながらあるのだ。
そして、その奇跡は罪を犯して畜生界に落ちた人間達の魂に直接、響く。
動物霊の奴隷となった魂も同様にその声を聞く。
ーー畜生界に落ちた皆さん。私は現人神・東風谷早苗です。
ーーいま、貴方達の心に直接語り掛けています。
ーー再び、動物霊に支配されて苦しいでしょう。
ーーその苦しみから私は貴方達を救う為にこのヒソウテンソクを送りました。
ーー救済を求めるのなら祈りなさい。ヒソウテンソクは貴方達を裏切りません。
ーー埴安神のように見返りも求めません。
ーーただ、祈るだけで良いのです。すべては救済の為に。
ーーいずれは私達、守矢の神が貴方達に救済の手を差し伸べる時が来るでしょう。
ーーそれまで祈り、祀りなさい。
ーーこのヒソウテンソクを。
人間霊達はその声に反応すると新たな救済を求め、霊長園へと赴く。
すべては救済されたいが為に・・・。
畜生界と云う四界の1つにあっても救済されたいと願うのは人の業なのだろう。
そして、そんな彼らに平和の砦たるヒソウテンソクが答える。
こうして、埴安神桂姫に代わり、新たな神・核熱造神ヒソウテンソクが君臨するのであった。
すべては守矢の祭神である八坂神奈子の思惑通りである。
動物霊達の侵略時、守矢は静観を決め込んだ。
今回の異変と呼ばれる事件には裏があると判断した神奈子のその判断は半分当たり、半分外れていた。
それは神奈子同様に畜生界で崇拝される埴安神桂姫が倒された事で危惧へと変わる。
今回は動物霊による造神の撃退であった。
ーーでは、もしも、これが人間による守矢神社の乗っ取りだったのならば?
当然、そのような事は起こらないであろう。
しかし、考えれば、考える程、その危惧は大きくなり、神奈子は密かにこの計画を実行したのである。
即ち、守矢の信仰を新たに畜生界に根付かせる計画である。
その為に神奈子は行動を起こした。
しかし、当の八坂神奈子には地霊温泉計画での前科がある。
かつてのように密かに行動しては必ず、博麗の巫女などの異変を解決して来た人間達が出て来るだろう。
最悪、溺愛している早苗と一戦交える事になるかも知れない。
それだけはなんとしても避ける必要があった。
その為に今回、畜生界に落ちる人間を擁護し、四季映姫を頷かせる必要があったのである。
そして、対畜生界救済型ヒソウテンソクVR63式が誕生する。
しかし、それは当然、埴安神桂姫を葬り、己が欲を満たさんとする畜生界を牛耳る動物霊達の組織から危険視されると云う事であった。
こうして、自身を産み出した八坂神奈子の計画や救済されたいと願う人間霊達の願いを胸にヒソウテンソクは畜生界のヒーローとして終わりの見えない戦いに身を委ねる事となるのである。
【異変】
幻想郷で起きる事件。主に幻想郷全体に被害を及ぼすものを差す事が多い。
大抵の異変は幻想郷の代表である博麗霊夢や霧雨魔理沙などによって解決されるのがお決まり。
【埴安神桂姫】
畜生界で動物霊から人間霊を護る造神。聴こえは良いが、動物霊に奴隷にされるか、この造神の為に身を粉にして働かされるかの違い位である。
元が畜生界と呼ばれる地獄の親戚のような場所なので結局、罪を犯して畜生界に落ちた人間霊は救われないのだろう。
【東風谷早苗】
八坂神奈子と洩矢諏訪子を崇める守矢神社の風祝と呼ばれる巫女。現人神とも言い、一応は末端の神である。
能力は奇跡を起こす程度の能力である。
現代からやって来た少女なだけあって、当初は幻想郷の常識に囚われないと云うルールに頭を悩ませていたが、現在は適応し、幻想郷に馴染んでいる。
【洩矢諏訪子】
守矢神社の本来の神。目のついた漫画のような帽子に金髪のショートカットが特徴。
土着神と呼ばれる神であり、ミシャグジ様と呼ばれる他の土着神から崇拝され、かつては洩矢の王国を築いたが、八坂神奈子の信者に侵略される。
しかし、ミシャグジ様達が神奈子を受け入れなかった事から信仰が集まらず、神奈子は諏訪子と信仰を共有する形で現在に至る。
現在の神奈子と諏訪子は些細な事で喧嘩し合い、早苗に止められると云う毎日を送り、関係は良くもなく、悪くもない。