第2話【顕現】
ここより新たな神話が始まる!
畜生界に落とされたその人間は走っていた。
いや、正確には人間の形をした霊体ーー人間霊とでも呼ぶべきだろうかーーは今、巨大な獣に終われていた。
かつては人間を守る偶像神がいたが、ある日を境にぱったりと姿を消してしまった。
その偶像神に魂を委ねても、動物霊に教われるか、偶像神の為に献身せねばならないかの違いかと嘆いた事もあったが、所詮、人間では獣には勝てない。
これならまだ、魂となった現在でも献身的に働かされた方がマシである。
しかも動物霊はここ数ヵ月で勢いを取り戻したのか、より凶暴になり、姿形も以前より大きくなっている。
その姿は人間霊の数十倍の大きさとなる程である。
人間霊は再び畜生界の中で救いを祈り出すのに然したる時間は掛からなかった。
そして、そんな人間霊はとうとう畜生界の一角に追い詰められる。
生前、猟師だった自分が何故、動物に教われなければならないのか?
人間霊はそう考えた。
生前、狩る事を趣味のように動物達を殺めてきたが、それでも畜生界に落ち、武器もなく、ただ搾取される側になるのは嫌であった。
搾取される身とは云え、このような現状が戻る事までは望んでいない。
ーー神様。
その人間霊は今はなき偶像神に祈りを捧げた。だが、その思いが届く事は最早ない。
まさに絶体絶命のピンチである。
獰猛な動物霊が獲物を前に舌なめずりをして襲い掛かる。
人間霊は最期の瞬間を覚悟した。
畜生界での魂の死は即ち、無である。
それが今まさに訪れようとしていた。
しかし、そうはならなかった。
巨大な影が突如として現れ、襲い掛かろうとした動物霊が動きを止めたからである。
その影の存在に人間も振り返ると巨大な存在が悠然と佇んでいた。
その姿はまさに人間最後の平和の砦である。
その存在に人間霊は再び、神を見る。
それこそが人間の新たなる偶像神となる存在ーー核熱造神ヒソウテンソクの最初の目撃例であった。
ヒソウテンソクは巨大な拳を繰り出し、動物霊の顔面に叩き込む。
まだ産まれたばかりの神の力程度では動物霊が消滅する事はしないが、新たなる神の存在はこの動物霊を怯ませるには十分な一撃であった。
実体のある存在こそ、動物霊の天敵である。それが再び、人間を守護するとなれば、嫌でも警戒せねばならなかった。
やがて、動物霊が不利と見て撤退するとヒソウテンソクに救われた人間霊の魂に澄んだ少女の声が響く。
ーー新たな神を祈りなさい。
ーーそうすれば、貴方は救われるでしょう。このヒソウテンソクによって。
その言葉と共にヒソウテンソクは霊長園へと飛翔していく。
人間霊にとって、それはまさに奇跡のような出来事であった。
神が再び、自分達の前に現れた。
しかも今度は鉄の城を思わせる平和の砦として・・・。
ーーヒソウテンソク。
人間霊はその言葉を深く刻み、ヒソウテンソクを追うように霊長園へと向かうのだった。
そこに新たなる魂の救済があると信じて・・・。
こうして、新たな神の伝説が幕を開ける。
【核熱造神ヒソウテンソク】
核エネルギーと守矢の信仰心の結晶である人類最後の砦とも云うべき鋼鉄神。
実際には非想天則計画の噂を聞いた守矢神社の風祝である東風谷早苗の妄想である。
しかし、その妄想は現実となり、顕現するのであった。