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4:リサ

「どうやらキツネ狩の罠にかかったようです」




「罠?この森での狩猟は一切禁止のはずですよね」





ここは神に近しい力を持つ動物たちの森だ。好奇心旺盛なキツネは時々人に化けて町に出てくるが、その他の動物たちは森にひっそりと住んでいる。




キツネが人間の町にやってくるのは自由だが、人が森に入ることは許されていない。





なぜなら、この森の動物たちは他のどの地域の動物たちとも違い特別な力を宿しているからだ。





それはこの世界ではかつて全ての動物、生き物が人と同じように言葉を話し、動物が人と同様に力を持っていた時代の名残だ。





「森の動物たちの領域が侵されないよう、その境界を監視し、守るのが僕たち『森の管理者』の仕事です。それがこんなことに」





カインは唇を強く噛んだ。





「管理小屋はここから近いですか?」





「近くないけれど、歩ける距離ではあります」





「ではエルをそこに運びましょう」





そう言うと私はカバンの中から古いシーツを取り出した。その辺に落ちている大きめの木の枝にくくりつけ、簡易ベッドを作る。




エルをその上にそっと乗せると、私とカインは二人で簡易ベッドを持ちあげエルを運ぶことにした。











管理小屋の暖炉にカインが薪をくべる。その前にエルを寝かせる。





「お湯を沸かしてもらえますか?それと洗面器、タオルを」





「わかった」





私はお湯を洗面器に入れた。水で割ってぬるま湯を作るとカバンの中から持参した塩を取り出す。





「その塩は一体何に使うんですか?」





「薄い塩水を作ります。薄い塩水であれば傷口を洗ってもしみません」





これは近所の子供達が転んで、傷の手当てをする際に傷口を真水で洗うと痛がって泣くから私が考えたやり方だ。





真水で洗うと確かに痛い。でも薄い塩水なら、痛くないのだ。塩であれば体に特別な害もない。





私は塩を入れたぬるま湯で、エルの前足の傷をそっと洗った。キツネ狩の罠の歯が深く食い込み、肉がえぐれていた。





「かわいそうに」





私はぽつりと呟いた。





痛み止めと、化膿止めの薬草をブレンドした軟膏をガーゼに塗りつける。それで傷口を覆い、包帯を巻く。





残ったお湯で、私とカインは手分けしてエルの体をきれいに拭いた。あんなにつやつやだった銀色の毛が輝きを失い、灰色に見えるのが悲しかった。





「あなたは優秀な薬屋さんですね」





ぽつりとカインが言った。





「良い薬屋でいられるよう、努力しています。あと、私の名前はリサです。今更ですが」





そうだ、本当に今更だ。私は今まで「薬屋」としてカインに接し来ていたので自分の名前を名乗ってすらいなかったのだ。





「ありがとう、リサ。エルは僕にとって大事な犬です。一緒に来てくれて、手当てしてくれて感謝しています」





「それが薬屋の仕事ですから。ああ、でもどういたしまして!」





私はそう言って笑った。

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