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3:キツネの頼みごと

年が明けた。




年末と新年の最初の日は休むと決めていた。





その日私は久々に実家に戻り、二階にある自分の部屋でオレンジの皮をつけこんだ甘めのリキュールをショットグラスで少しずつ飲んでいた。


ふわりと喉の奥にオレンジの香りが広がり、体がぽかぽかと暖かくなる。





うん、良い新年だ。そう思った時のことだ。






コツン、という音が窓から聞こえた。






「なんだろう」





私は腰掛けていたベッドから立ち上がり、窓の前に立った。






コツン。





確かに窓に何かが当たっている。小石ではなく、もっと柔かいもの。


私は窓を開けた。家の前には大きなミズナラの木が立っている。





「どんぐりかな」





私がいうと





「どんぐりだよ」





と返事が返ってきた。





「え?」





「下を見て」





私が窓から下を見ると、そこには小さな女の子が立っていた。6歳くらいだろうか。赤いダッフルコートにニット手袋、帽子、マフラー。





見た所ちょっと裕福な家のお嬢さん、といいう感じだが、違う。





なぜなら、彼女には尻尾が生えていたからだ。





茶色い尻尾。キツネだ。





「おねえちゃん、薬屋さんでしょう?」





「え?ええ、そうだけど」





「助けて欲しいの」





キツネの女の子は琥珀色の瞳に縦長になった瞳孔をまっすぐに向けてそう言った。





「私のお友達を助けて、怪我をしているの」










ミズナラの森を抜けて私は走った。女の子は最初、人間と同じようにかけていたがやがて「ぽん!」という音ともにキツネの姿になると四つ足で駆け出した。





「ま、待って」





四つ足で駆け出すと、子ギツネとはいえものすごく早かった。





そうして半時ほど走った頃だった。





気がつくと私は森のかなり奥まで来ていた。





しまった、と私は思った。本来であれば、一般市民は森の奥へ立ち入ることが許されていない。


森は動物たちの領域だ。キツネをはじめとする、神と呼ばれる動物たちの住処だからだ。






気がつくとあたりは薄ぼんやりと暗く、森の奥へ続くまっすぐな道の両端にはほんのりと明るく輝く光が並んでいた。





ランプでも、ロウソクでもない、ただ丸い小さな光が並び足元を照らしていた。





ひょっとしたらこれもキツネの、いや森に住む神がかった動物たちの力かと思うと私は背中がぞくりとするのを感じた。





目の前を駆けていた子ギツネが不意に足を止めて振り返る。琥珀色の瞳の瞳孔をさらに糸のように細めて私を見ていた。





『早く』





そう言われた気がして、私はハッとして再び走り出す。やがて大きな洞窟の前に着いた。






洞窟の奥へ続く道の足元もぼんやりと光の玉で照らされている。導かれるように進むと、そこにはキツネがいた。


私をここに連れてきた子ぎつねを含めると小さなキツネが3匹。大人の、つがいと思しきキツネが2匹。





「え?カインさん?」





「薬屋さん?」





意外なことに、そこにはカインがいた。





キツネたちが取り囲む中心に、銀色の毛が見えた。





「エル!」





冷たい岩の上に横たわるエルは右前足にひどい怪我を負っていた。

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