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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第4話  王子の想い

 第4話 王子の想い


 その日の夜遅く報告を終えたシャアルは、

王子であるニコラに部屋に呼ばれていた。

シャアルは騎士副隊長であったが、ニコラの護衛にあたった事はない。

辺境伯でもある彼は忙しく、時に隠密部隊のような仕事もある為、

なるべく目立つ事は避けていた。

フクロウの血を引く彼が、隠密で力を発揮するのは当然の事だった。


銀色の髪に琥珀(こはく)色の瞳。

軽い身のこなしは当然のように女性達の心を躍らせたが、

彼が(つがい)だと感じた者は居なかった。

もう28歳になる。

それなりに周囲がうるさいが、(つがい)以外と結婚するなどまっぴらだと思っていた。


ニコラの部屋の前で取り次ぎを頼む。

返事を待つまでもなく中からニコラの声が聞こえた。

「どうぞ、デヴォン辺境伯」

シャアルは当番の騎士に軽くうなずき、扉を開けるように促した。

「失礼します、ニコラ殿下」

「夜遅くにごめんよ、どうしても君と話したかったんだ。

君は忙しいから昼の時間は空いていなかったんだよ」

「私と……話しですか……?」

ニコラは整った眉の片方を少しだけ上げた。

「父上には内容も話してあるから大丈夫だよ。君にしか出来ない事なんだ。」

「さようですか。」

「ゆっくり座って話したいな。そこへどうぞ」

ニコラが座ったのを見て、シャアルも腰掛けた。


騎士が紅茶を運んできた。

「余計なウワサ話はウンザリなんだ。

1日交代でメイドと騎士に紅茶を運んでもらうことにしているんだよ。

その方が皆も(つがい)と出会えるかもしれないし、良いアイディアだろう?」


『……そうだ、この方は気配りも戦略も緻密(ちみつ)で、人の心を掴むのもうまい……』

シャアルは王子の評判に問題がない事を実感した。

『そんな王子が私に……?』

思い当たる任務はない。では隠密部隊の任務だろうか。

そう思いを巡らせたシャアルにニコラは切り出した。


「デヴォン辺境伯、僕の友人の女の子を守ってほしいんだ。」

「 ……?? 」

ニコラの真意を図りかねたシャアルは、珍しく少し返答につまった。


『ニコラ様の(つがい)か……?』


シャアルの疑問を見透かしたかのようにニコラは続けた。

「彼女は僕の大切な友人なんだ」

獣族が友人と言い切った場合、そこに恋はない。ただただ大切な友人だ。


『守らなければならない種族……?』

シャアルは、ますます混乱した。獣族は女性といえども身体能力は高い。

よっぽど計られて だまし討ちのような状況にでもならない限り、

そんな心配はないのだ。

今の所、王宮内であやしげな者の報告は聞いた事がなかった。


「彼女はね、人族なんだよ」


さすがにシャアルも目を見張った。人族とは一人しか会った事がない。

古文書研究室にいるコナーという同い年の男だ。

彼は穏やかで、とても良いやつだ。

シャアルはフクロウの血を引く者にはよくあるように、聴力も視力も鋭敏だ。

仕事以外で大きな物音や話し声などは聴きたくなかった。

だから学者気質で穏やかなコナーとは気が合った。

他に人族がいるかなど、気にした事がなかった。


「彼女は、僕と同い年でね、働くことを望んでいるんだ。

古文書の解読が得意なんだよ。

だから部署は古文書の部署がいいと思っているんだ。

ただ、父親と兄達が心配しすぎて表に出したがらない」

「それは、そうなるのが必然かと…。

もし家族に人族の女性がいたら、あらゆる危険から守りたくなるでしょう」

シャアルはニコラの話しに率直に感想を述べた。

「彼らの心配もわかるけど、僕は彼女の望みも叶えてあげたいし、

彼女に幸せになってほしいんだよ」

「危険が多くてもですか?」

「そうだね、確かに危険なこともある。彼らのケガは大ケガになりやすいし、

自分の血の力を勘違いした少数の奴らの悪意も心配だ。

でも、もし自分だったら?

ほんのちょっとの心配事と種族を理由に、やりたい事ができないとしたら?

辺境伯はどう思う?」

「それは……、偏見になりますし、差別になりますね」

ポツリとシャアルは話す。

「確かに辺境伯のいう通り、心配がない訳じゃない。

だから手放しに彼女の望みを叶えるのは良い方法じゃない。

それで君に護衛を頼めないかなと思ったんだ」


シャアルは考え込んだ。今の所、重要で差し迫った任務はない。

ただ辺境伯である自分は、移動も領内の滞在も多い。何だか変だ。


「彼女には地上の森の資料庫にも行ってほしいんだ。ね、君が適任でしょう?」


その言葉でシャアルはやっと腑に落ちた。

確かにナラタナ王国の森に関して、

辺境伯の任務があるシャアルの右に出る者はいない。

王子のいう通りだ。


「皆が人族と話す機会が多い程、

彼らは窮屈(きゅうくつ)な思いをする事が減るかもしれない。

その方面でも良い効果が出ないかなと思っているんだよ。

多くの目があった方が嫌がらせも減るしね。」

ニコラはゆっくりと微笑んだ。

「承知しました。やってみましょう」

「ありがとう。僕とは密に連絡をとってね。対応が必要かも知れないから。

辺境伯のいつもの任務に緊急性の高いものが出てきたら、その時は相談しよう。

それから明日のお昼少し前の時間に、彼女達を呼んであるから同席してね」


『私の任務時間は把握済みか……』


「かしこまりました 殿下」

シャアルは苦笑いしながら椅子を降り、若く有能な王子に騎士の礼をとった。



シャアルが下がった後、ニコラのもとに近侍があらわれた。

王に使えたこともある、ニコラが信頼している者の内の一人だ。

「ニコラ様、本日はもうお休みを」

「うん。さて、どう動くかな。楽しみでもあるよ。」

「デヴォン辺境伯がですか? それともアリシア様?」

「辺境伯だよ。森の賢者と呼ばれる彼なら……。まあ、楽しみにしよう」

「ニコラ様の勘は冴え渡っておりますからな」

近侍がフッと笑みをこぼした。

「でしょう?やっぱり楽しみだ」

ニコラもまた ゆっくりとした微笑みを返すのだった。

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