第9話◆戦争とその裏に◇
時間が経つのは早いもので、1週間が経った。
その間に2回ルニー達と話す機会があった。
報告によると俺達を監視していたのはやはり複数いたらしく、エンタニィ公爵家、バード侯爵家の2つの他にも貴族の家や商会等が監視していた。……捕まえて吐かせたと言っていたけどあえて何をしたのかは怖くて聞いていない。
エンタニィはただ単に俺達がどんな者達なのかを調べていただけらしい。バードに関しては未だ調べ中との事だった。
……バード侯爵家。公爵と名のつく家は十数家あるが、その中の貴族の1つ。その席数は決まっていないにしてもバード家が無くなるとしたらその穴に入り込もうとする貴族達で国内が騒がしくなりそうだなぁ。
……まぁ、この事はエリーゼ辺りが情報を掴んでいる事だろうし、家を取り壊すにしても王と宰相が決める事だし俺が考えるだけ無駄かな。
それからアレイ達講師組からの報告だが、俺が目をつけていた生徒の中の1人が妙な行動を取っているらしい。
ある日サラやリーズが夜に調査を行っている時に、洗脳魔法のあった場所へ行く不審な人物を見かけ、後を追うとその人物は歩きながらで分かりづらいけど舌打ちをしながら通り過ぎた……と。
そして、その人物なのかをサラが調べるとバード侯爵に推薦されて入学していることがわかった。
俺以外はバードについて知らないはず。バード家が裏切っているのはまず間違いないだろう。
原作とは全く違う。……ここまでの裏切りは書いていない。誰かが唆した……? ……それは考え過ぎ……か。
1週間前に会議をした部屋に着き、中に入る。
アウグステ王は居ないが、他の出席者は座っていた。
……早めに来たんだけど、それでも最後か……。急いで座ろう。
「アカネさん。少しお話をいいでしょうか?」
自分の席に向かう途中で急にエリーゼに呼び止められる。
「なんでしょう?」
「お話するのは始めてですね。改めまして私はエリーゼ・シークレイと申します。貴方のお噂はよく聞きますわ」
「あはは……。いい噂だといいんですけど……。俺も改めまして英雄騎士団の事務等を担当しています。アカネです。……それでお話とは?」
「……少しこちらに」
そう言いながら手招きしているので少し近づく。
ある程度近づいた所でエリーゼの方から耳元に近づいて来る。ふわっと髪から香る爽やかな匂いに気を取られる。すっごい美人だなぁ……。
「違う方を使って色々なお家を探っているようですが、調べたいことがあれば私もお手伝いしますわ」
それを聞いた瞬間に腕に鳥肌が立つ。なるべく俺は目立たない様にし、行動しているのは主にルニー達2人。それなのに俺に辿り着くまで1週間あれば十分だったと……。監視カメラがある現代じゃあるまいしこの情報屋は怖いな……。
これはただの善意で言っているんじゃないと思う。うちの騎士団に借りを作って置きたいんだろう……。
「……では、今度伺わせて貰いますね」
「ふふっ。お待ちしています」
最後の手段として行き詰まったら聞くとしよう……。
数分程、騎士団長達と話をして待っていると、アウグステ王とベルグが入室し、会議が始まった。
「では会議を始める。先週話した通り各々が調べた事を教えてもらおう」
「……では儂から話そうかの。先週から儂の傘下の商会を通じてハルバンを探ってみたのじゃがやはりハルバンの貴族達が高給で傭兵を雇っておった。その金払いの良さから傭兵だけでなく冒険者も多く集まっているようじゃ」
「……数はどれ程だ?」
「数千から1万程だと聞いてはおるが……。この先増えるやも知れないのぅ……」
この国。ルートビリア国内の騎士団所属では無い兵士の数は約100万。そしてそれとは別に青宝騎士団は5万。大魔法、金剛は2万。王立工房はさらに少なく、五千以下となっている。
その数字を見ると俺達、英雄騎士団がどれだけ人数が少なく、イレギュラーな存在かが分かる。
この100万という数の兵士は貴族の私兵も含まれていて、国が好きに扱える兵士はその半分程度だ。
一方ハルバンの純兵士は約20万以下。村人などの平民を徴兵したと仮定して、かなり無理をすれば60万……位かな。
その差がありながら傭兵や冒険者が数千から1万以上も集まるのは少しおかしい。その事をこの場の全員が気付き、考える。
「全く……何を考えているのかわからんな……。我等も調べたが飢饉も内乱も起きていない様だ。ハルバン周辺諸国の動きも平穏そのもの。……エリーゼ嬢。何か気になる噂はあったか?」
「いえ……。我ら貴族の中にハルバンと直接繋がった者を見つけることは出来ませんでした。……ですが、バード侯爵家がハルバン出身の者を学園へ推薦したと言う噂を耳にしました」
一体その情報をどうやって入手したのか……。という程の機密情報だが、悔しそうな表情をしてアウグステ王に伝える。
「学園……か。皆が知っての通り、英雄騎士団には学園の講師をさせているがその実は別の調査だ。その調査内容には我も目を通しているがそこでは何者かによって洗脳が行われているようなのだ」
「なるほど。洗脳魔法ですか! ……ですが禁忌とされる魔法で、そもそもそんなに大規模なものは……」
真っ先に食いつくローズマリア。
彼女の言うとおり、俺もそんなに大規模な洗脳魔法は知らない。
「そういう効果を持った魔道具という事はありますか?」
ベルグがクリルメタにそう聞く。
「んー……。作れなくはないと思うけど……。巨大な魔石が必要だったり、実験を重ねようにも人間相手に失敗する可能性が残ってる道具を使うにはリスクが大きすぎると思いますよ〜。それだったら洗脳魔法が使える人間を使った方が何倍も楽ですよ〜」
無邪気に笑いながらそう言う。クリルメタが人体実験推奨派の人間じゃなくて良かった……。
「うむ……。バード家の領地はハルバンとの国境に接している。裏切りの線は濃いか……宣戦布告が行われないこともバード家が書状を止めているからかもしれん。ヴァイスよ。急ぎバード家領地の周りの警備人数を増やすように。後から金剛、大魔法の混合兵団を応援に向かわせる」
「はっ! お任せ下さい。……では私はこれで失礼します!」
ヴァイスが出ていき、その流れでローズマリアとアルバレスタも人員を選抜する為に部屋を出ていった。
こんな大事を起こす様な国とは思えないけど……。
俺は飢饉も内乱も起きていないと言うのがどうにも気になる。
そう考えているとアウグステ王から話しかけられる。
「そう考え込むでない。お主らは人数が少なく、戦争には向かない騎士団だ。心配せずとも都内の警護をしてもらう事になるだろう」
仕事が無いことを心配していたように見えたのか……。ここはひとまず適当に返事をしないと……。
「お任せ下さい」
「うむ。では会議を進めよう」
「……陛下。騎士団長の3人が不在ですがよろしいので?」
「心配することは無い。重要なことが分かれば早急に伝える。魔法で分からぬことがあったとしてもアカネが居れば心配ない」
それを聞いて強面と商人独特の品定めをする鋭い目がこちらに向く。
怖いので俺は冷や汗を垂らしながら逃げるように話を先に進める。
「か、買い被りすぎですよ。……それで次の議題は何なのでしょうか……」
「いいだろう。次に聞きたいのは医療関係等のーー」
その後に話したのは戦争の規模や事後処理など難しい話が夜まで続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
会議から2日が経った。その間に最前線に向かう騎士団や医療チーム等が編成された。俺達英雄騎士団も開戦と同時に全員で学園周りの警備を任される事となった。
その警備の書類やその他の書類を作成する為に王城へ行くのだが、何故かベルグに呼び止められ、ほぼ強制的に手伝わされることになる。
俺としてはバード家の裏切りの証拠を探していて、そっちに力を入れたいんだけど……。謎の圧があって断れない……。
そうして今日も夜まで手伝い、家へ帰ると食事が既に用意されていて、全員が集まっていた。……丁度いい。警備の話をしてしまおう。俺が忙し過ぎたり誰かが学園へ偵察に行っていたりで全員揃って無かったから話せなかったんだ。
「さて、英雄騎士団諸君少し聞いて欲しいんだけど。……仕事が回ってきました」
「「おおお! 仕事!」」
アレイとルミネスが仕事と聞いて喜ぶ。
「……今度は一体どんな仕事なのよ」
「えぇっと。簡単に言うと戦争が始まるから王都内の警備をするんだ」
「事務官!? せっ、戦争が起きるんですか!?」
「恐らくね。お隣のハルバンとだよ」
それを聞いてリーズとサラは頭を抱えながら遠くを見ている。……現実逃避かな。
「ふむ……。ハルバンとは仲は悪くないはずなのだが……」
「クレイバルさんの言う通り、仲が悪かった訳じゃないけど、今回の学園の件とかから推察すると戦争の予兆があるんだ」
「た、大変じゃないか! 警備って……学園の仕事だってあるんだぞ!?」
「そう焦ることは無いよ。学園の洗脳魔法はほとんど解除されてるし、国境付近には既に騎士団数千名が向かってるからまず安心だよ」
「私達はその前線で戦わないだけ幸せと思っていいのかしら……」
流石に勇者になって数ヶ月の2人を最前線になんて送れないもんなぁ……。そもそも試運転という形で王都内の仕事をしている訳だし。
「リーズの気持ちもわからなくは無いけど、村の皆とか心配だよ。最前線でも何人の死人が出るか……」
「アレイ達の村は今回の戦地となる場所からは離れているし、戦地にはヴァイスさんも向かうから心配しなくても大丈夫だよ」
「そっか……。ヴァイスさんが行くならまず安心だな! ……あ。そう言えばアカネに聞こうと思ってたことがあったんだけど」
「ん? なんかあった?」
珍しい……。アレイが俺に質問なんていつ以来だろう……。
「『薬物耐性』って知ってるか?」
「……まぁ。知ってるけど。……それが?」
「よくわかんないけどスキルの欄にあったからさ。リーズは変なもの食ったんじゃないかって言うけどそんなの食べてないと思うんだけどなぁ……」
「じゃあ、リーズ達とは別で屋台で何か食べたりとかは?」
「帰る時は馬車だしなぁ……」
確かにそうだ。送り迎えは学園の馬車だし買い食いなんてできないか。
「私達と別と言えば昼食は私達とは別ね。生徒達と仲良くなって学園の食堂で食べてるじゃない」
「……それは本当に?」
「そういえばそうだな。でも食堂で変なもんなんてでないだろ?」
「アレイ! そのスキルはいつから出たんだ!?」
「え? 確か気づいたのは昨日か一昨日くらいだった気がするよ」
それを聞いて全身の筋肉が強張り、頭からは血の気が引いていく。
「全員、早く戦闘準備を! 恐らくアレイが食べた学食に薬物が混入していたんだ! 俺は王に伝えに行くから!」
「ちょっと待ってアカネ! もうちょっとちゃんと説明してくれないと分からないわよ!」
焦って部屋を出ようとした俺の手を掴んでそういうリーズ。そうだ……流石に伝えなさすぎた。
「あ、あぁ……。ごめん。元々中央の山脈を挟んでこちら側は煙草以外の薬物の使用は禁止されてるんだ。それは国家間で決められた事で破れば他の国に目をつけられることになる」
「えぇ、薬物が禁止なのは農家の子供でも知ってるわ」
「そんな危険な手段を大国相手に飢饉も内乱も起きていない小国が使うと思う……? 絶対に使わないはずだよ。多分、裏切り者のバード家の策略で狙いはこの王都から騎士団を少しでも多く、遠くに離す為に仕組んだ罠……」
そう考えるとしっくりくる。薬物を使うと思考が低下し、洗脳が掛けやすくなる。俺が設置型の魔法を壊しても薬物を使えば決めた日に暴動を起こす事も簡単になる……。
俺の話を聞いた皆は段々飲み込めてきたのか俺と同じ様な緊張に身をふるわせる。
「事務官! なら何もしていない小国家に騎士団を仕向けたってことになるんじゃ!?」
頭のいいサラが俺の言いたい事に気付いたようだ。
「そういう事! 起こらなくていい戦争が起きてしまうんだ。俺はその事を国王に言ってくる! サラとリーズは『アンチポイズン』を使って生徒の薬物中毒を直して欲しい」
「分かりました!」
「『アンチポイズン』ね。わかったわ」
「その護衛で僕達も行くんだな!」
「そういう事! クレイバルさん。現場の指揮は任せます」
「うむ。任された!」
学園の事は5人に任せて俺は急いで王宮へ向かった。
普段なら王に会う等しない時間帯な為、門番に止められるが、急を要する事情だと伝えるといつもの会議室へ通された。
数分待つとアウグステ王と一人の男が部屋に入って来た。
……隣にいるのは王子か。サリナの兄にあたる人物で、仕事は主に各国への訪問であまり王都にはいない筈だけど……。帰ってきていたのか。
「アカネこんな時間にどうしたというのだ」
「早急に伝えたいことがありまして……」
薬物や戦争自体が罠である可能性等を王へ説明する。
「そんなことがこの国で……」
「うむ……。薬物を使うか……。確かにハルバンがしでかす事件にしては大きすぎる。罠という線も分かるがバード家がどうしてそこまでするのかわかっているのか?」
「……いえ、そこまでは」
「例え本当にそれが真実だとしてもお主ら騎士団が証拠無しに捕まえてしまっては信用に関わってくる事だろう。それに確かな情報でないと兵を引き上げるにしてもそれすらもブラフだった場合大きな打撃を受けてしまう」
……言う通りだ。ハルバンの策略でこっちの貴族はただの使い捨てであり、戦争を匂わせておいて王都での襲撃の線を濃くする。
兵が王都の守りに戻った所で薄くなったバード公爵の土地を奪う。……そういう作戦とも捉えることが出来るわけだ。
「……ですが」
「分かっておる。そちらの対処をしなければならないのも事実だ。……オルトレア、アカネ。両名に王都内のバード公爵家へ向かい調査することを命ず! 何故王子であるオルトレアがついて行くのかは分かるだろう?」
そう試すようにオルトレアに聞く。
「……設立されたばかりの騎士団では権限が低く、アカネ殿は団長ではありません。公爵家の中には入れないかも知れないと言う点を補う為に私が同行する。という事ですね」
「間違ってはいないが、それだけではない。英雄騎士団はこのままだと貴族の裏切りを暴き、王都を守ると同時に戦争を食い止めた英雄として扱われる事だろう。それは確かに喜ばしい事だが些か功績が大きすぎるのだ」
「なるほど……。そうなると貴族達も他の騎士団もバード家に振り回されただけと国民達に言われかねませんね」
勇者が戦争に参陣もせずに王都で功績を上げてしまうのも問題なんだな……。
王子の付き添いという名目にすれば変な勘ぐりをする貴族達も減り、王家も騙されただけでは無いと言うことにできるという訳……か。
3人でそう話していると遠くの方で爆発音のような音が聞こえる。
「……これは」
「会議中失礼します!」
「何があった!」
爆発音からすぐに兵が駆け込んでくる。
「たっ、たった今国立騎士学園の方で爆発が!」
「すぐに兵を向かわせるのだ! ベルグを至急呼び、騎士団長達にも兵をかき集め王都内の警備を強化を!」
「はっ! 直ちに!」
兵にそう伝えると兵は走り去っていく。
「どうやら戦争の方が罠だった様だな。オルトレア王子、英雄騎士団所属アカネ。至急近衛兵を連れ、向かうように!」
「「はっ!」」
アウグステ王の命令に従い、十数人の近衛兵を連れて馬車で王都にあるバート邸へ向かう。
アレイ達の助けには行けないのが、歯痒いかな……。
「改めて私は第1王子のオルトレア・ディートリヒだ。よろしく頼むよ」
「英雄騎士団で主に事務を担当していますアカネです。……それで調査の内容ですがそちらの方ももうお分かりで?」
「あぁ。もちろん。帰ってきてすぐに父上から資料を見せられた時は驚いたものだ。私がここを離れている間に新しい騎士団の設立、戦争の予兆、更に貴族の中に裏切り者がいるときた。もう何があっても驚かない気分だ」
窓の外を見ながらそういうオルトレア。この王子は父親のアウグステとまではいかないが、頭が良く社交性がある男だ。威厳がある王ではなく親しみがある王になる素質がある。という設定だ。
「私よりも事情をよく知るアカネ殿が話を進めた方がよかろう。私は王家としての目線で話をさせてもらう事にする」
「分かりました。あと……流石に交渉の場に10人の以上の近衛兵を連れ込むのは高圧的なので数人にしては貰えないでしょうか」
「ふむ……。騎士団であるそなたがいれば大丈夫か。だが、外に待機はさせておく。それくらいは構わないだろう?」
「ありがとうございます」
数分走ると馬車の扉が開かれた。降りるとそこは既にバード邸の敷地内で屋敷の目の前だった。王族の紋章だったから門での確認はスルーだったんだ……。なんと便利な……。
「オルトレア殿下、英雄騎士団のアカネ様。近衛兵の皆様ようこそおいでくださいました。私は執事をしておりますロバートと申します。本日は夜分にどのようなご要件でしょうか」
「なに、ちょっとした調査だ。少しばかりお主の雇い主と話がしたいものでな」
「では、先程遠くで爆発の様な音も聞こえた事ですし安全なお部屋へ案内致します」
まぁ、急に来たし出迎えなくても不思議ではないかな。執事の人も悪い人……ではなさそうに見える。
窓には防音の魔法。敷地内にはいくつかの魔法の気配……。これが防犯の為であればいいけど。
部屋は普通の貴族の部屋だ。家具は豪華だけど成金の様な影はない。
「紅茶をどうぞ。……それで本日はどう言ったご要件なのでしょう。余程の御用かとお見受けしますが……」
そうロバートが聞いてくるが当人でないのに話していいか迷い、オルトレアを見る。
「まぁ、その家の者にも聞こうと思っていた事だ。それにお主は話ができると見える。商談等を任されているのか?」
「はい。私が取引先との商談等をしています」
「では裏の者との取引はしたことがあるか?」
「裏……という言いますと盗賊や裏商人という事でしょうか? その様な者の事でしたら私は1度も取引はしておりませんが……」
俺は『ライディテクト』と言う簡単な嘘発見器の様な魔法を使う。この魔法は直感的に嘘をついているかを見分けることが出来る様になる魔法だ。何となくわかると言うだけで証拠にはならない為、ボロを出して欲しいけど……。
この人は嘘をついているように見えない。首を横に振って王子に伝える。
「では当主であるステューブ卿は誰かと取引してはいませんか?」
「申し訳ありませんが執事である私にも、奥様にでさえ当主様は取引相手の事を話しておりません。部屋には一人もいれず、二重扉になっているので誰も部屋を覗いた者はおりません」
嘘では無い……。1人で全てを用意したのだろうか。ただ、証拠はその部屋にありそうだ。
しばらく、ロバートから資産の状況や怪しい者を見なかったかを聞いていたがステューブが来る様子はなかった。ロバートも流石におかしいと思ったのか執事の1人を呼び、話をしている。
「オルトレア殿下。申し訳ないのですが、屋敷中どこを探しても当主と奥様が見つからないのです。先程までは確かにいたのですが……残る場所は当主様の部屋ですが誰も鍵を持ってはおらず……」
「そうか。我々は当主と話すだけでなく、邸内を調査する事も国王様から許可を頂いている。その部屋へ案内してもらおう」
「かしこまりました。ではこちらへ」
2階の端の大きな両開きの扉の前へ俺達は案内された。
扉には鍵が掛かっていて、現代で言う指紋認証の様な魔道具もついている。
「アカネ殿。開けることは可能か?」
「罠も無いようですし、可能だと思います。少し離れていてください」
かなり丈夫なドアだけど材質は木で物理、魔法の抵抗を上げる加工をしているみたいだ。
これくらいなら、まず俺の持つ高い魔力操作で抵抗力を無効化し、『マテリアルロット』という魔法で木を腐らせていく。
徐々に俺の指はドアにめり込んでいき、突き破った。その調子でドア2枚を人が通れるくらいの大きさまで穴を広げる。
「……なんと……。あんなに頑丈だった扉が……」
「ははっ。聞いていた以上に面白いでは無いか」
「部屋の中も罠を確認出来ませんでした。安全のようですので中へどうぞ。まぁ……目当ての相手はいないようですが……」
俺がそう言うと王子が中へ入ってくる。
部屋の中は本や書類が乱雑にばらまかれていて、そのどれもが闇商人との取引書や脅迫する為の素材と思われるスキャルダルだった。
「お前達は隠し扉を探せ!」
「はっ!」
近衛兵達が本棚や壁、床を組まなく探し始める。
俺も仕事をするかな……。
「ロバートさん。これらの書類に見覚えは?」
「……いえ、全く存じておりません。我が当主が本当に……。申し訳ありませんでした……!」
加担してはいないか……。
何気なく手に取った本をめくり内容を確認する。
横領、脅迫、傷害、誘拐、薬物と山のように罪が重なっていく。
だが、どれも誰かからの依頼のようだった。
それが気になり名前を探すと【オンリー・ワン】と言う名前に行き着く。見覚えがある。
これは帝国、現皇帝の口癖……だ。
この国は帝国に侵略されかけていたのか……? 早すぎる。数年後の筈だ……。
そこでアレイ達の事がふと頭に浮かぶ。皆は大丈夫だろうか……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
煌びやかな装飾で覆われる部屋とその部屋にふさわしい煌びやかな鎧を着た人間がいく人も並んだ空間。
それらを見下ろす朱く冷酷な目。
その空間の扉が開かれ、縛り上げられた男女がその冷たい目の前へ連れてこられる。
女の方は気を失っているがもう一人の男。ステューブはその目に怯え、体を震わせる。
「久しいな。家畜よ。この私の考えであれば貴様は捕らえられ、首を吊られている事かと思っていたが?」
「わ、私はまだ貴方様の為に……!」
「我が身可愛さに逃げてきたという訳か。私の大切な【アーティファクト】まで使って」
「それは……!」
話を聞く気も起きないと言ったように欠伸をしながら皇帝は横に膝をついている男に命じる。
「地下に閉じ込めておけ」
「生かしておいてよろしいので?」
「まだ使いようはあるだろう。腐っても王国の人間なのだ。”腐っても”な」
男は察する。捕まり、殺されていた方がどれだけ楽だっただろうか。
「かしこまりました」
「私こそがただ1人の鮮血の上に立つ王。【オンリー・ワン】なのだ。世界よ待っていろ……ふははは!」
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