第0話◆想像してきた世界◇
朝。徹夜明けで今にもくっつきそうな瞼をこじ開けようと、リビングでコーヒーを飲みながらテレビをつける。
【『朱の世界』。ついに3億PV突破! 書店では第6巻が絶賛発売中!ーー】
【朱の世界】最近はよくCMで見かける。それどころか朝のニュースで取り上げられたりと今、人気急上昇中のライトノベルだ。
ジャンルはファンタジーで、困った人をほっておくことが出来ない少年が主人公だ。
そんな少年にはもちろんヒロインとなる女の子がいる。だが、序盤でそのヒロインは殺されてしまい、それから主人公の性格が変わって復讐の為に……。と言うあらすじだ。
ヒロインを序盤で殺すなんて、作者も思い切ったことをしたもんだ。
……まぁ、作者は俺なんだけど。そう。俺こそが【朱の世界】の作者である紅音こと、秋月 朱子だ。
本当に最初は趣味で書いていて、コンテストで優勝するなんて思ってもいなかった。
序盤でヒロイン死んでるしな……。あの時の俺はヒロインになんの恨みがあったのだろうか。
そんなことを考えながらテレビをボーッと眺めていると机に置いてオート周回していたスマホから着信音が流れた。少しイラッとしながらも電話に出る。
「……もしもし。紅音です」
「おはようございます〜。その声の調子だと徹夜したみたいね〜?」
かけてきたのは俺の担当である彩さんだ。担当さんだからな……。急に怒鳴るなんてことは出来ない。
ってか真面目でエリートで綺麗な彩さんに向かってそんなこと言えない……。
「まぁ。徹夜ですけど……。いつもの事ですよ。書き終わってます。データ送りましたよ」
「いやー。いつも締切守ってくれてありがとう! そうそう。今度……。と言うか近いうちに食事に行かない?」
「何か集まりがあるんですか?」
「んー。いいお店があったから二人で……。って思ってたけど、用事は大丈夫かしら?」
彩さんから食事の誘い……!? まさか……。俺なんかミスした!? クビかッ!?
待て。落ち着いて考えて、見方を変えればデート……。いやいやいやいや。まずいだろ。彩さんは他の小説家さん達や社内の人から何回も告白されていて、全て一言で断り、デートすら断ってる……。
そんな状況で二人で食事に行ったら……。
「物理的に死ぬ……?」
「えっ!? 大丈夫!?」
「あ、いや。なんでもないです。用事は寝てるか書いてるかのどっちかなんで、どこでも行けます!」
「そ、そっか。大丈夫なら良かったわ。じゃ、仕事終わりにまた連絡するわね〜」
そう言って、少し忙しめに電話を切ってしまった。
……寝ぼけては無いな。デートか。……あ、服……。まぁ、資料で買ったそれなりのがあったしいいか。
仕事終わりと言うと七時……。いや、小説を送ったから八時から九時の間くらいか。
まだ十二時間以上あるが、ソワソワとしてしまう。それでも徹夜明けで起きてるわけにも行かないので一眠りすることにする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めて、リビングの光景が目に入った。リビングに居たまま寝ちゃったのか……。
暗いな。電気をつけよう……。
「よいしょ。あっ。眼がァァ……」
どっかの大佐みたいになりながら、スマホをいじる。夜か……。夜ねぇ。よく寝たな……。
ん? ……夜? アァァァァァ!!??
時間は九時。急いでメールと着信履歴を見る。
メールは……。誤字修正の連絡か……。着信は……十件!? ぜ、全部彩さんだ……。
恐る恐る掛け直してみる。そして、ワンコールで電話が繋がった。早っ。
「大丈夫!? 死んでない!?」
そう言って玄関の扉が開かれて、スマホからも同じ声が聞こえる。……いやなんで、電話に出たの。
「す、すみません。……ぐっすりでした」
「なんだ……。朝、あんなこと言ってたから……」
「朝?」
「物理的に死ぬとか何とか……」
あー。あれか……。
「あと数十年は死ぬ予定ないんで安心してください!!」
「そ、そうよね。走ってきて汗かいちゃった……」
髪はポニテ……。スーツにタイツ。なのにどこか色っぽさがあり、色々と来るものがある。
「と、とりあえずお風呂入ります……。か?」
「え? うーん……。着替えがないし……」
「俺が買った資料の服でよければサイズが合うやつを貸しますけど……」
「そっか! 色々と着てみよっと〜。それで食事に行くわよ!」
「はい! ……って今日ですか!?」
「明日、私は休み。あなたは小説が書き終わっている。こんなに時間が重なる日が他にはないわ!」
明日休みって……。小説渡したよな……? もしかして仕事を全部終わらせてきたのか?
と、とにかく出かけるならば俺も着替えなくては……。
「分かりました。じゃあ、彩さんがお風呂入ってる間に着替えておきます」
「うんうん。じゃあ、お風呂借りるわね〜」
そう言ってリビングから出ていった。
俺も資料の服を保管している部屋に行こう。着替えを持って帰る為の袋も用意しとくか。……それを渡すために洗面所へ行き、脱いである下着を見てしまうなどのお決まり事など俺はしない。
そっと扉の前にメモと一緒に置いて、自分は資料部屋に入る。
さてと。デートって何着て行くんだ? スーツは固すぎるし……。そんなにチャラい格好は……無いな。
……普通に着ていくか。カジュアルな感じにまとめれば変には見えないだろう。
彩さんは何を着るんだ……。この資料室には女の物の下着まで数十種類ある。派手な物から少し控えめのものまで……。
か、考えないようにしよう……。よし、俺。リビングに行くんだ……!
リビングで正座待機すること十数分が経ち、リビングの扉が開かれた。
首元にフリルが付いていて女性らしさがあるシャツに、七分袖のロングサマーカーディガン。そして、スキニーのジーパンを履き、裾を数回折っている。髪型は少し長めのポニーテールだ。
このコーデはいわゆるお姉さん系ファッションと言うやつだろうか。よく似合っている。
「お待たせ〜。どうかしら?」
「……ふと、紅音が顔を上げるとそこには美しい女性が立っていた……」
「うん……。君達の悪い癖は小説家さん視点になっちゃうことね……」
「す、すみません。職業病というやつです……」
「まぁ、美しいって言ってくれてたしギリギリ合格ラインかしら……。朱子くんもその服イメージ通りで似合ってるわよ〜」
「あ、ありがとうございます」
俺のイメージはこんな感じだったのか。
「それで……。どこに行くんですか? 多分電車なくなっちゃうと思うんですけど」
「それは秘密よ。そうね〜。元々ホテルにでも泊まるつもりだったし無くなってもいいわ」
どんだけ飲む気なんだ……? まぁ、最悪タクシーで家に送って、俺も帰ればいいか。少し多めにお金は持って行こう……。
俺は彩さんに従い、目的地の店へ向かった。
「あの……。彩さん? ここは……」
「本格イタリアンよ!」
店の外に出ている黒板には一皿の値段が書かれている。一、十……。あー。一万ね……。高ぇ。
だが、最近は家に篭もりきりで贅沢なんて久しぶりだし、彩さんもいるしちょうどいいか。
「じゃあ、入りますか。いつもお世話になってるし、今日は奢ります」
「本当!? ありがとう〜! 人には優しくしておくものね〜」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
食事が終わり、完全に酔っ払っている彩さんを抱えながら店を出る。
結局コースやらデザートやらで十万。ワインやらの酒で十万。合計で二十万も使ってしまった。流石に飲みすぎだ……。今月の食費は抑えないとな……。
タクシーを呼び、住んでいるマンションまで送って、悪いとは思ったがバックの中にあった鍵で部屋を開けてベットに寝かせて中に鍵を置いて外に出る。管理人さんに事情を話し、閉めてもらう。閉めてもらったあとで気づいたが、この人に開けてもらえばよかったな……。
まぁ、いい。帰って次の巻のプロットを考えないとな……。
マンションから出ると外に止まっていたはずのタクシーがない。そう言えば戻ってくると言い忘れたな……。駅まではそこまで遠くないし歩くとするか。そこでタクシーに乗って帰ろう。もう電車ないしな。
電灯に照らし出される車の通りが全く無い道を一人で歩いていく。
こんなに静かだと少し異世界みたいで何だかワクワクしてくるな。
そう思いながら上を見て周りの建物を眺めていると下にあった段差に気づかず、派手に転んでしまう。
顔からいったが頬には芝生の感触。コンクリートじゃなくてよかった……。
起き上がり目を開けると目が眩むほどの光が入ってくる。転んだから車のライトが直に顔に当たったのだろうか……。運がないな……。
そう思ったが、目を閉じていても光を感じる。何かがおかしい。
光に慣れて、目を開ける。そこに映る景色は、家屋が百もない少しボロい村。その横を流れる川と辺り一面に広がる草原。村の奥には山まで見えた。パニックになったが、あることに気がつく。
待て。……ここは知っている。ずっと頭の中で考えてきた。場所だ。
【朱の世界】で重要な場所の一つ。主人公とヒロインが生まれた村。”レディーア村”だ。
読んでいただきありがとうございます!
こうして第0話を投稿しましたが、連載開始は【異世界ってこんなに多忙でしたっけ?】が完結してからにいたします。ご了承ください。
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