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偽物の包帯①

「ダメ。ダメったらダメ。絶対にダメ。何があってもダメ」


 断固としたサイの拒絶にエイゲンは心の中で「ですよねー」と呟いた。

 しかしそうは思わないキリネは「なんで!?」と不満と驚愕を露わにする。


「ダメなものはダメ。なんでも何もなくダメ」


普段のサイであればキリネのお願いやワガママは何でも聞いてしまうのだが、今日ばかりはどうしても譲れないらしい。


「なんで? なんでダメなのマスターさん! なんでダメなのか教えてくれなきゃヤダ!」


 一方でキリネも引かない。普段こんなにワガママを言うような子では無いのでこれはこれで珍しい。

 そんな二人の衝突をエイゲンは後ろで黙って見守っていた。本当はこっそり帰りたいところなのだが、これを引き起こした発端でもあるため帰るに帰れないのだ。


「なんでキリネが回収屋さんになっちゃダメなのッ!!」


 そりゃあダメだよなぁ、とエイゲンは思わず頷いてしまう。エイゲンですらどうかと思ったのだ。それを過保護気味なサイが許すわけがない。

 事の発端は数時間前。

 キリネとエイゲンが大切な人だとか、こちら側の世界に居続ける理由だとか、そういうことについて話した時のキリネの結論が全ての原因だ。

 キリネの正体はなんなのか。お互いの大切な人がお互いなのか。それを知るために、そしてサイの記憶探しを手伝う為に、キリネは回収屋になるという結論に至ってしまったのだ。

 そこで回収屋になる方法を問われたエイゲンは「まずはサイに伝えてからじゃねぇかなぁ」と逃げに走ったのである。

 いや、逃げてはいない。正しい選択だし、とても大切なことだ。これでサイに黙ってキリネが回収屋になってしまった日には、エイゲンがどんな目に遭うかも分からない。

 ちなみに回収屋になるには役場で所定の手続きを踏んで、簡単な試験に合格すればいいだけである。そこに年齢などの制約はなく、キリネのように幼くとも回収屋になることは出来る。勿論保護者は不要だ。


「わかった! キリネ、マスターさんにお話ししてくる!」


 キリネは素直にエイゲンの提案を聞き入れて、家に向かって走り出そうとする。

 サイからどんな返答が来るか大体の予想がついているエイゲンは、それを呼び止めて一緒について行くことにした。こっぴどく断られた後にキリネを慰める役が必要だろうと考えて。

 本来であればそういう役回りはジェンヌにお願いしたいところだったが、この手の話題にジェンヌを呼び出したら逆にややこしくなりかねないので、自分がそれになるしかないのだ。

 そして家に着き、サイを呼び、サイに元気よく「キリネ、回収屋さんになる!」と宣言したキリネは、エイゲンの想像通りサイに訳も聞かずに拒否され今に至るのだった。


「キリネ。そもそも回収屋は戦わなきゃいけない時があるの分かってる?」

「そんなこと分かってるよ。だってマスターさんも戦ってるじゃん!」

「じゃあアタシが言いたいことは分かるね? キリネは戦えない。だからダメ」

「戦えないって決めつけるのヤダ! じゃあキリネが強くなったら回収屋になっていいの?」

「絶対にダメ」

「なんでーッ!?」


 強いとか戦えるとか、そもそもそういう問題じゃないのだ。まずもってキリネに危ないことをさせたくない。わざわざ危険に晒すような真似をしたくない。例え擦り傷だろうとキリネに傷を負わせたくない。そういうところなのだ。

 勿論それをキリネは分かっていない。


「まあまあキリネちゃん。サイがダメって言うのはキリネちゃんを思ってのことだから……」

「キリネだってマスターさんのこと思ってるもん! マスターさんのお手伝いがしたいんだもん!」


 エイゲンが宥めようとすると、キリネは勢いよく振り返ってキッとエイゲンを睨んで叫ぶように言う。その目には涙が溜まっていて今にも泣き出してしまいそうだ。


「アタシの手伝いなら店番をしてくれるだけで充分だよ。今の時点で充分助かってる。だから回収屋はダメ」

「お店のお手伝いだけじゃ足りないの! キリネも記憶を探すの!」

「ダメ」


 一歩も譲らないサイにキリネはキーッ! と喚きながらも続ける。ここまで頑なに拒否されると、逆にキリネも引けなくなってしまうのだ。意地になっているとも言う。


「じゃあ回収屋さんにならなくても、マスターさんと一緒にお仕事しに行く! お外で回収のお手伝いする!」

「それもダメ。尚更ダメ」

「なんで! マスターさんと一緒でもダメなのなんで!」


 それはサイがする回収の方が、普段回収屋が行う回収よりもずっと危険だからである。サイはその辺の回収屋では手に負えないような厄介なものを請け負っているのである。ちなみに、ジェンヌと一緒に行くときは更に危ないときである。そこにエイゲンがついてくるとますます危なくなる。


「うー……うぅーッ!」


 キリネにとってはかなり妥協した案だったのにそれすら拒否されてしまい、キリネは唸るしかなくなる。じゃあなんだったらいいのか。どうやって記憶を探すのを手伝えるのか。それを必死に考える。

 しかしサイはそんなキリネに躊躇なく、慈悲なく告げる。『記憶を探しに行くのは絶対にダメだ』と。

 それを聞くと、プツンとキリネの中の何かが切れた。そして目にたっぷりと溜まった涙が溢れ出す。同時にキリネの感情が爆発した。


「もういい! マスターさんの分からず屋! キリネ一人で回収屋さんになるもん!」

「あッ、こら! キリネ!!」


 どこからその声が出ているのかと思うような音量で叫ぶと、サイの制止も聞かずにキリネは涙をこぼしながら走って店から出て行ってしまった。

 サイは慌ててその後を追い店の外に出るが、どこを見回してもそこにキリネの姿は無かった。


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