小話 三郎
面白いガキ共を見つけた。
三郎は馬を走らせながら、先程の子供達の戦遊びを思い出しニヤリとした。
…ヤスケとトモと言ったか。
年端もいかぬ子ども達が、戦の場に合わせた見事な奇襲作戦を立てているのを見ていたら、つい参加したくなってしまった。
「吉法師様、子供と遊ぶために村を訪ねた訳では御座いませぬぞ」
「分かっておるわ、政秀」
いつの間にか並走してきた平手政秀に小言を言われる。
今日は中々村の寺に博識な僧が居るという話を聞き、私事として非公式に訪れたのだった。
しかし、寺に着く前に山の中をフラフラ歩く幼いヤスケの姿を見掛け、興味をそそられたのだ。まさか、戦場の下見をしていたとは。
ちょっとした寄り道のつもりだったのだが、結局一日子供と遊んでしまったな。だが、無益ではなかった。
「はぁ…。寺の僧にはまた日を改める旨、申し伝えました」
政秀がため息混じりに報告する。
「うむ。寺にはまた今度行く」
「子供に渡した短刀はどうなさいますか?回収致しましょうか」
「いや。あのガキにやる」
「しかし…」
「良いと言っている。面白いものを見せてくれた褒美だ」
「はあ…」
短刀とはいえ名刀だ。イザと言うときの助けにはなるだろう。
つかの間の交流だったが、三郎はあの子供達を無駄に死なせたくないと思ったのだ。
しかし、この厳しい戦国の世では貧しい農民の子供が生き残ることはなかなかに難しい。短刀一本でどうこうなるものでもないことも分かっている。
まあ、生き残れなければその程度だったと言うことだ。
…しかし、楽しい戦だった。
三郎はまたニヤリと笑った。
「政秀!来年以降、この村の年貢を二割減らせ!」
「は!?」
驚く政秀を尻目に、三郎は那古野城へと馬を走らせていった…