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76話 急報

――岐阜城に急報が届いた。


『岐阜大茶会』の3日後の永禄9年1月6日の事である。


丁度、俺と小一郎が上段之間で信長に『畑佐銀山』の採掘状況の報告をしているときのことだった。


昨日(さくじつ)、将軍様の仮御所である本國寺が三好衆と斎藤龍興の軍勢に襲撃されました! 将軍様は明智殿とともに寺内に立て篭もっておりますが、三好勢の兵力はおよそ一万、対して将軍様の護衛は二千ほど……! 一刻も早く援軍を御頼み申す!!」


上段之間に転がり込むように入ってきた急使の侍は、息を整える余裕もなく開口一番にそう告げた。


「藤吉郎!! すぐに京都へ出立する!! 家臣団に出撃命令を伝えよ!! 儂は母衣衆と先に行くので追い付いてこい!!」


信長がガバっと立ち上がり、大音声(だいおんじょう)で俺に命令を出した。


「はは!!」


俺はすぐに上段之間を退出すると、伝令役の控える部屋へ向かい各武将への出撃命令を伝えるよう指示した。


その後、小一郎には鉱山に戻るよう伝え、すぐに自分も出陣の準備を整えて半兵衛をはじめとした家来達を引き連れて岐阜城を出発した。


外は雪が降っていた。


「騎乗の者は全速で京都へ向かう!! 徒歩(かち)の者は武器と兵糧を整えたら、出来るだけ早く京都本國寺へ着到せよ!!」


俺は大声で家来達に指令を出すと、雪を蹴散らせて馬を走らせた。


京都までは通常の道程で約三日かかる。どんなに急いでもこの雪では二日は掛かるだろう。あの取り逃がした斎藤龍興が三好衆と手を結んでくるとは……。三好衆の攻撃に光秀はどこまで耐えきれるだろうか……。急がなくては……!!


既に信長が母衣衆と出立した馬の足跡が残っている。俺はその足跡を辿りつつ、京都へ向けて全速力で馬を走らせた――。



・・・・・・・・・



二日後、俺が京都本國寺に到着したのは、信長と母衣衆が到着してから半刻ほど後のことであった。


将軍と明智光秀は無事だったそうで、ひとまず胸を撫で下ろす。三好衆や斎藤龍興は戦況が不利と見るや否やすぐに退却をしていったらしい。


本國寺の警護についていた吉田出雲守ら近江国衆や、若狭国衆の活躍、そして近隣からの援軍のお陰で、無事に三好衆を撃退したということで、本國寺に入った信長はすぐにその戦功に報いるよう、論功行賞を行ったのであった。


しかし、三好衆も斎藤龍興も今回の戦いでも討ち取ることは出来なかったので、いずれまた隙を狙って攻めてくるだろうという懸念は残った。


論功行賞の後、信長は家臣団にすぐに次の指令を出した。


「本國寺は将軍の御所としては防衛力が足りぬ故、京都市内に新たな御所となる城を建造する! 天下の将軍の城じゃ。普請総奉行は儂が務める! 普請奉行は五郎左(丹羽長秀)、作事奉行は藤吉郎に任せる!」


げ! また城造り……。そして『作事奉行』ってことは城の建築の責任者が俺ってこと? 将軍様のお城なのに俺が作っちゃって良いのかね?? ……などと思いつつも、信長にはもちろん逆らえないので元気よく返事をする。


「はは!!」


こうしてまたもや俺と丹羽長秀は城造りに駆り出されることになった――。



新しい城は、武衛陣と呼ばれた斯波氏の屋敷跡に建てられることとなった。元尾張守護の斯波氏の邸宅だった場所だ。建築現場の視察中にふと、斯波義銀を思い出した。元気にしているだろうか……と思いを馳せる。


そんな感傷に浸っていた時、丹羽長秀が話しかけてきた。


「城の名前は二条城で決まりだと。堀は二重で、もちろん総石垣造りとのことでな。大量の石材を早急に集めねばならん」


「おお、やはり今回の普請も一筋縄ではいかなそうですな」


ため息交じりに呟く丹羽長秀に同情しつつ、返答する。


「お主とて、人ごとではないだろうが……」


丹羽長秀がちらりとこちらを見る。


「まぁ……そうですねぇ。将軍様の威容を現す為に、城の天守は三層にして高く大きくするように殿には言われております」


俺も負けじとため息交じりに呟く。三層の天守なんてこれまで作ったことどころか見たこともない。……いや、前世ではもしかすると写真か何かで見たことはあるかもしれないけどさぁ……。


「はっ。相変わらず、お互い苦労するのう」


「そうですね。はは……」


丹羽長秀と俺は軽く笑いあった。そんなことを言いつつも、お互いしっかりと任務は果たすのだろうという信頼感があるからこそできるやりとりである。この頃には丹羽長秀と俺はある意味、戦友ともいえる間柄になっていたのである。


そしてその日から二条城の工事は急ピッチで進められた。


丹羽長秀の懸念していた石材集めについてもこれから切り出すのでは間に合わないということで、近郷から石仏や石碑、石灯籠などの様々な石材を接収して石垣に利用することになった。


それは城郭造りでも同様であった。建築資材を急いで集めねばならない為、加工期間も短くて済むということで、将軍の仮御所であった本國寺をはじめ、周辺の建築物を解体しその資材を使いまわして建築することになったのだった。


当然人手も京都市内だけでは足りず、周辺諸国から人足を集め、多い時で二万人以上の人手を使って工事を進めたのであった。


それは驚くべき速さでの築城速度であった。



・・・・・・・



そして、二条城の建築中には新たな出会いもあった。


工事開始から1ヶ月ほど経ったある日、信長と丹羽長秀と俺の三人でいつものように二条城の建築現場へ赴き、それぞれの持ち場で指揮を取っている時であった。


「五郎左! 藤吉郎! こちらへ参れ!!」


ふいに俺達を呼ぶ信長の大声が聞こえた。


「はい!只今!!」


すぐに大きな声で返事をして、信長のもとへ走る。


途中で同じく駆け足で信長の持ち場へ向かう丹羽長秀と合流しつつ、急ぎ足で信長のもとへ行った。


信長は数人の男達と立ち話をしているようだった。近くまで来た時に、ふとその中の長身の男が振り返った。


その顔を見て俺は驚いた。――外国人だ!!!


帽子からはみ出た明るい茶色の髪。大きな目、高い鼻。明らかに日本人と異なる彫の深い顔立ちの男性がこちらを見ていた。


「……殿の隣に居るあやつは何者だ?」


丹羽長秀も外国人の存在に気付いたらしく、小さく俺に聞いてきた。


「おそらく、南蛮人かと思いますが……」


「ほう、あれが……」


たしか外国人の事は南蛮人って言うんだよな……。あやふや知識で答えたので合ってるか不安だが、丹羽長秀は納得したようだ。


俺達が信長のもとに駆け付けると、


「二人にも紹介しておこう。こやつは『ルイス・フロイス』と言う伴天連(バテレン)だ」


と信長は楽しそうに俺達にその外国人を紹介した。


「はじめまして。ルイス・フロイスと申します。日本にはキリスト教の布教に参りました」


少し癖のある外国人独特のイントネーションではあるが、ルイスという伴天連は上手な日本語で自己紹介をした。


「私は丹羽五郎佐と申す」


「私は木下藤吉郎と言います」


それぞれ名乗り合ったところを見届けて、信長は言った。


「今このルイスの話を聞いていたのだが、大変興味深いのだ。この後、東福寺に招きゆっくりと話を聞くことにするので、お前達も同席せよ」


「はは!!」


こうして城の建築現場は現場監督に任せることにして、俺達はルイス・フロイスを伴って、早々に京都の陣屋である東福寺に戻ることになったのだった……。








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