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69話 箕作城夜襲

「ふぅ……」


鬼柴田の圧迫感から逃れられてホッとする。ホントに妙な威圧感を持ってるんだよな……あのおっさん。


俺はそのまま半兵衛の所へ向かう。結局考えていたよりも少ない兵数で夜襲を仕掛けなくてはならなくなってしまったからな。一応、追加の作戦も考えておきたい。


「なるほど。殿は主力部隊を温存したい訳ですね。余裕を持って観音寺城戦へ挑みたいという所ですか」


半兵衛は俺の話を聞くと、そう言ってまた考え込んでしまった。


「この後すぐに柴田殿が箕作城に攻撃を仕掛ける。日が落ちた頃に俺達が交代して夜襲を掛ける予定にしている」


俺は先ほどの鬼柴田との打ちあわせ内容も併せて伝える。それを聞いて、半兵衛は頷きつつ呟く。


「出来れば大軍で攻めた方が、敵に大きな精神的負担を与えられるのですが……」


大軍……。


俺はふと、以前、信長が小牧山城全体に篝火を焚かせたときに、それを見ただけで戦いもせずに敵の軍勢が逃げて行った出来事を思い出した。


「例えば一面に篝火を焚いて、大軍に見せるってのはどうだ?」


半兵衛に提案してみる。


「なるほど! それは良い案です。さっそく火籠と薪を準備しましょう!」


という訳で、俺達の部隊は柴田軍が戦っている間、火籠と薪を集めることになった。


しかしほどなく、周辺の村や寺からだけでは数が集まらないことが判明したため、急遽作戦を変更して3尺くらいの長い枝を山の中から大量に集めて松明を作ることにした。


他の部隊の人手も借りて、日が暮れる前になんとか千本程の松明を作ることが出来た。


その後、俺は部隊を50組に分けて、それぞれ20本くらいづつ松明を持たせると箕作山の各所に配置して日暮れを待った。


「もうすぐですね」


俺の隣に居た半兵衛が呟いた。日が西にどんどん傾いていた。


「ああ、もうすぐだ」


俺はそう答えて箕作山を見つめた。もうすぐ柴田のおっさん達が帰ってくる頃だ。


「おい、藤吉郎! なんか面白いことやってるらしいじゃねーか」


急に後ろから声を掛けられる。驚いて振り向くと、そこには相変わらず派手な具足を身に付けた又左衞門が立っていた。


又左衞門は信長親衛隊とも言える赤母衣衆(あかほろしゅう)という部隊に所属しており、今回の戦も信長の近くにいつも控えているのだった。


ちなみに赤母衣衆の他に、もう一つ黒母衣衆(くろほろしゅう)という信長親衛隊もあり、それぞれ10名程度の選ばれし者達が、戦の時には常に信長と行動を共にしているのだった。


それぞれが赤と黒に染め分けた母衣を背負って、信長と一緒に最前線で敵陣に突っ込んでいく様は傍から見ていてもマジでカッコ良かった。織田家の若い武士たちはみんなこの母衣衆メンバーに憧れていた。


そんな憧れの前田メンバーが突然俺の前に来て、


「俺もまぜろよ、な?」


とのたまった。


「は? だってお前、殿の馬廻(うままわり)のくせに何寝言言ってんだよ」


俺がそう言うと、又左衞門はニマニマしながら答える。


「殿の許可は貰ったから、大丈夫だ」


……大丈夫って、遊びに行くんじゃないっつーの。


「今日の城攻めには母衣衆は出ないって言うからがっかりしてさ。殿に文句言ったら、藤吉郎の所に入れて貰えってさ。殿のご命令だぞ」


絶対に信長はめんどくさくなって俺に押しつけたな……。


又左衞門は戦に出るとなってワクワクしているようだ。なんでこんなに戦を好きになれるんだかね。


まあでも又左衞門が居てくれた方が、他の兵士のテンションも上がるかもしれない。なんてったって赤母衣衆の筆頭だもんな。


俺はそう思い直し、又左衞門に作戦を伝える。


「日が暮れたら、松明の明かりを一斉に灯す。それを合図に全員で箕作城を攻め、攻撃が終わったと思って油断している敵陣を叩く」


「おう。一番槍は任せとけ!」


又左衞門は頼もしげに返事をした。


日が暮れはじめると、昼間戦いに出ていた柴田軍が続々と本陣に戻ってきた。


「ふむ。なかなかに、守りの堅い城だった。悔しいが、日暮れまでに落とすことが出来なかったな。さて、藤吉郎はどう攻めるのか楽しみにしておるぞ」


帰還した鬼柴田が俺の隣に立ち、そう言った。俺は一言答えた。


「はい。頑張ってきます!」


――さあ、もうすぐ俺達の出番だ。



日が完全に落ちたのを合図に、本陣の近くの松明に火をつける。松脂を塗った松明はほどなく炎をあげはじめた。


見上げると、箕作山の至る所に松明の炎が見えていた。敵は何事かと思っているだろうな。


「出陣だ! 箕作城を落とすぞ!!」


大声で自部隊に命令を出す。


「「「「おおーっ!!!!」」」


鬨の声を合図にみんなで一斉に箕作城へ攻めのぼった。


俺達が箕作城の近くまで来ると、別方向から登って来ていた第1陣がまさに門を破ろうとしている時であった。敵の兵の姿は見えない。すぐに門が破られた。


「よっしゃ。いっちょ手柄でもあげてくるか」


又左衞門がそう言って、門に向けて走っていった。又左衞門の後に一斉に大勢の武士たちが付いて、城内に吸い込まれていく。


俺は城の全体の様子を確認する。見えている所では激しい抵抗は今のところ見られない。敵軍は柴田軍の攻撃で思った以上に疲弊しているのかもしれない。


「搦め手の方から敵兵の一部が逃げ出しているようですが、いかがいたしましょうか」


裏の様子を見に行かせていた半兵衛が戻ってきて報告する。


「逃げる者は追わなくてもいい。大軍が攻めてきたという噂が他の城にも伝播して、敵の動揺を誘うことが出来るだろうしな」


俺は半兵衛に答える。


「分かりました。ではあえて搦め手は開放しておきましょう」


半兵衛はそのまままた裏の方へ戻って行った。


俺も城門の中に入っていく。城門の中ではところどころで小競り合いが起きていた。


全体を見回していると、時々どこか高い場所から狙い澄ましたように矢が飛んでくるのに気付いた。


見上げると、立派な具足に立派な弓を持った武者が矢倉から矢を放っているのが見えた。かなりの弓の腕前のようだ。箕作城の大将格は吉田出雲守という吉田流弓術の使い手だという話を聞いていたが……。


ほどなく矢倉に気付いた俺の部隊の武士たちが弓の武者を矢倉から追い落とし、数人がかりで捕らえた。


俺は慌てて近くまで走り寄り、部下の者たちに目線を送って捕らえられた武者に話しかける。


「あなたは吉田出雲守殿ですね?」


捕らえられた武者は俺を睨み上げて怒鳴った。


「いかにも! さあ首を取るがよい!!」


俺は首を振った。


「私は織田尾張守様の家臣で木下藤吉郎と申します。降伏してください。命までは奪いません」


吉田出雲守は俺を睨むと、また怒鳴る。


「ごちゃごちゃ言わずに殺せ!!!」


俺は吉田出雲守の肩を掴み、負けずに怒鳴った。


「尾張守様には私が口添えいたします! あなたとあなたの弓術をこんなところで失うのは惜しい!」


吉田出雲守は驚いたようにしばらく俺を見つめていたが、がくりと力を抜くと「わかった……」と呟いた。



気がつくと、城の一部に火の手が上がり始めていた。思っていたよりもすんなりと勝負はついたようだ。箕作城の正門に首級を持った武士たちが続々と帰ってくる。


――また、大勢死んでしまったな。


戦国の世で結構長く生きてきたけど、いまだに戦は好きになれない。いやおそらく俺が前世の記憶を持っている限り、一生好きにはなれないのだろう……。



複雑な気持ちを抱えながら、俺は箕作城の燃え上がる炎を見つめ続けていた――。




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