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46話 桶狭間の戦い

前線付近の今川軍は完全に浮足立っていた。


派手な当世具足を着用し、真っ赤な長槍をぶん回す又左衞門を筆頭に、織田家の勢いのある若侍達が少数精鋭と言うのに相応しい勢いで今川の雑兵を蹴散らしながらこちらに攻めてくる様子は映画を見ているようなカッコ良さだった。


敵だったら、恐ろしい事この上ない。一体何の集団だ?と思うだろう。


しかしあまりの乱戦でなかなか又左衞門に近付くことができない。うっかり近付くと又左衞門の槍の露と消えそうだ。


よく見ると周りの足軽の多くはいつもは農民をやっているような者達で、完全に戦場の雰囲気に飲まれているようだった。足軽頭の声も周りの喧騒に掻き消されてしっかりと届かないようだ。


あっという間に、この部隊の指揮官らしき騎乗の武士が討ち取られていた。それを見た足軽たちはタガが外れたように一斉に逃げ出した。


やべ。この部隊が崩れたら、次は松下家の部隊だ!!


今川軍の足軽達が一斉に逃げだしたので又左衞門達の周辺が広く空いた。よし、今がチャンスだ!!押し寄せてくる人波をかき分け、急いで又左衞門の方へ近づく。


「又左衞門!!!」


大声で呼び掛ける。逃げる足軽たちを追ってきた又左衞門が驚いて足を止めた。


「藤吉郎!?おまえ、何やってんだ!?」


いやいや、それはこちらのセリフ…。おっと、けどそれどころじゃなかった。


「今川の本陣を探ってたんだ!!…で、こんな時にすまんが、あそこの部隊は見逃してくれないか? 戦意は無いから背後から襲ってくることもないだろうから…」


甘い願いだということは分かっている。何も知らない又左衞門からしたら危険な願いだ。聞いてくれるだろうか?


「あの四目結の旗印の部隊か?」


「頼む!!」


又左衞門は少し怪訝な顔をしたが、頷いて言った。


「分かった!! その代わり、後でちゃんと理由を教えろよ!!」


「すまん!! 恩に着る!! それと、今川義元はあそこの陣幕の中央付近にいる!!」


併せて又左衞門に今川の場所を教えておく。


「よーし!! おい、皆!! 今川義元はあそこの陣幕の中だ!! 中央付近に攻め込むぞ!!」


「「「おお!!!」」」


威勢の良い声が響き渡った。俺もそのままその部隊に加わる。又左衞門は少し向きを変え、ターゲットを松下部隊から今川義元本陣に移す。


「もうすぐ殿も来る。俺達は今川軍を混乱させるのが目的だ。できれば西の田楽狭間の方へ今川本隊を誘い込んで幕山の別動隊と挟み撃ちにしたいんだ」


又左衞門は一気にしゃべる。


「お前、殿に許してもらえたの?」


一応、聞いておく。


「へへ。まだ許して貰ってないけどな。森殿に頼んで混ぜてもらった。手柄を上げれば殿も許してくれるだろう?」


まじで? こいつポジティブだな~。勝手に混じって逆に怒られるとかは思わんかな?


「あっそ…」


とだけ答えておいた。


と、その時…ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。


「雨だ…」


誰ともなく呟く。


「行こう!! 今川本陣への一番槍は俺が貰うぞ」


又左衞門が張り切って走り始めた。


次第に雨足は強くなり、叩きつけるような豪雨となっていた。雷までなっている。なんだこれ?すげーな。ゲリラ豪雨か?


敵も味方も良く見えないほどの雷雨だ。辛うじて今川本陣の旗印がうっすら見える。とにかくまずはそこに向かって走る。


豪雨に混じって後ろから地鳴りのような大きな音が聞こえてきた気がした。次第に音が大きくなってくる。馬を走らせる音のようだ。


振り返ると見慣れた馬印が近付いてきた。信長だ!!


騎馬部隊と撹乱部隊はほぼ同時に今川本陣に辿り着いた。信長が馬から下りて大音声で下知した。


「今川義元はこの中だ!!! かかれ!!!」


「「「うおおお!!!」」」


雷雨の中でも腹に響くほどの、雄叫びが織田軍から上がった。


あっという間に辺りは乱戦となっていた。が、今川軍が押されているようで狙い通り段々と西に追い込まれているようだった。


俺はさすがに具足無しで乱戦に巻き込まれるのは勘弁なので、桶狭間村の方へ下がる。小一郎は大丈夫かな? 雨足は更に強くなっていた。


村の人達はみんな逃げ出した後の様で、村に人気は無かった。


「兄ちゃん!!」


豪雨の中、村の家の一つから小一郎が駆けだしてきた。


「小一郎!!無事だったか?」


「うん! とりあえず、その家に入って」


小一郎が俺の手を取り、村の入り口に近い家に招き入れる。…勝手に入っていいのかな?ちょっぴり躊躇したが、ま、緊急事態だからいいか、と自分を納得させる。


「一若さんと彦二郎さんが戻ってきたんだ」


小一郎の言葉と共に、家の中に入ると二人が待っていた。


「よー。藤吉郎、無事だったか?」


「一若! 彦二郎! 良かった。お前達も無事だったんだな!」


ホッと胸をなでおろす。


「おう! 殿にもしっかり情報は伝えたからな!」


「今川の本陣の場所を伝えたら『よくやった!』って殿にすごい褒められたぞ!! 」


一若と彦二郎が口ぐちに報告してくる。


「殿が俺達に藤吉郎と小一郎を迎えに行けってここによこしたんだ。藤吉郎達と合流したら、清洲に戻ってろって」


「そっか、じゃ雨が止んだら清洲に戻ろうか」


うん。みんな無事で、作戦も上手くいったようで良かった!



俺達が桶狭間村で合流していた頃、桶狭間山の西の田楽狭間では今川義元が織田軍に討ち取られていた。その後、総大将を討ち取られた今川軍は大崩れして、敗走していったそうだ。



こうして史実通りに今川義元は討たれ、桶狭間の戦いは信長の勝利で終わったのだった――。




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