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04話 2歳の手習い

寺に通いだして約1年が経った。


途中、遂にこの尾張の国で「オダ」が「イマガワ」の「ナゴヤ城」を奪うという大きな事件が起こったが、幸いに計略を用いた奇襲作戦だったため大きな戦にはならなかった。

もちろんヤエモンも戦に駆り出されることはなかった。ただ、戦が無いということは足軽としての給料も入らないってことだから、これは良くも悪くもあるのだが。

なんにせよ、引き続き俺たち家族は貧乏ながらも平和な生活を送っていた。


寺には毎日通っていた。

さすがに1歳児が一人で寺に通うわけにもいかず、毎日母親のナカが寺まで送り迎えをしてくれた。ちなみに、トモも一緒に寺に通うことになった。俺のおむつ交換とかご飯を食べさせてくれたりとか、寺に居る間はしっかりと俺の面倒を見るという条件で、住職に寺に通うのをOKしてもらったらしい。俺も助かるし、トモも念願の寺に通えるしWIN-WINだな。


寺の授業は中々に有益だった。

俺的には生まれる前の知識もあったし、読み書きはまあ大丈夫だろうという自信があったのだが、実際に習ってみると毛筆の草書体の読み書きは思ったよりも苦労することが分かった。

旧い漢字も結構あるし、似たような文字の判読がとても難しい。また書いた人によって文字の癖が大きく違って、印刷された楷書体になれ親しんでいた身としては非常に読みにくい事この上ないのだ。

まあ、とは言え日本語だから、コツさえつかんでしまえばすぐに使いこなせるようになったが。これでもし現代日本に戻れたら、履歴書の特技欄に「戦国時代の古文書解読」って書けるな。


もう一つ基本として習うのがそろばんだ。

前の人生の小学生時代にちょっとだけ習った記憶はあるが、あくまでも「そういう道具で昔は計算してたんだよ」っていうことを教えるため、といった感じで、ちゃんと計算ができるまでは習わなかった。まあ、俺が授業を真面目に聞いてなかったってのもあるかもだが。

しかし、この時代ではもちろん電卓なんてないから、ガチの計算用ツールとして活用していかないといけないだろう。今回の人生ではしっかり使えるようにしておくに越したことはない。


そして、なによりいちばん興味深かったのは、俺に最初の授業を受けさせてくれた若いお坊さんが話してくれる時事解説だった。昨今の戦国武将の動向・戦の状況・世の中の流れなど、この尾張の土地を中心に分かりやすく解説してくれるのだ。もちろん、一般庶民に流布している情報なので、それほど深い情報ではないのだが。


けれどおかげでようやく、ある程度の概要が掴めてきたところだった。

もちろん戦国時代だということは以前から感づいていたが、具体的な年号で言うと今年は「天文(てんもん)8年」だということが分かった。これをヒントに西暦も出せれば良かったのだが、残念ながら俺はそこまで歴史に詳しくなかった。もっと勉強しとけばよかったな。


そして今住んでいる場所は「尾張(オワリ)の国」の「中々村(ナカナカムラ)」。地理もあんまり詳しくはないが、確か「尾張」って愛知県あたりだよな。「ナゴヤ城」ってのも近くにあることだし、これは間違いないだろう。


そして戦国時代と言えば外せないのが戦国武将だ。

今、この地を治めているのは「今川氏豊(イマガワウジトヨ)」から「那古野(ナゴヤ)城」を奪った「織田信秀(オダノブヒデ)」だということだ。始め「オダ」と聞いたときはすぐに「織田信長(オダノブナガ)」のことだと思ったが、どうやら違うらしい。けど、きっと血縁者だよな。名前も似てるし、信長も確か尾張に居たはず。信長がいれば名前が出てこない訳がないだろうから、おそらくまだ生まれてないか、まだ子供か。どちらにしてもこの後出てくるのだろう。何年後かは分からないが。


尾張の周辺国の状況としては、遠江(トオトウミ)駿河(スルガ)を治める今川義元(イマガワヨシモト)美濃(ミノ)斎藤利政(サイトウトシマサ)という武将が特に最近勢力を伸ばしてきているらしい。うん。今川義元は知っているぞ。馴染みのある武将の名前が出てくるとちょっと嬉しい。

また隣にある三河(ミカワ)では松平清康(マツダイラキヨヤス)という有力な武将が居たが、数年前に家臣に暗殺されたそうで、跡を継いだ松平広忠(マツダイラヒロタダ)は凡人らしく脅威ではないとのこと。三河の松平って聞いたことあるな。徳川家康(トクガワイエヤス)が関係してるよな。確か。


こうなってくると、本当に歴史の勉強をちゃんとしていなかったことが悔やまれる。この時代の出来事や人物をしっかりと覚えていれば、少しの情報から過去や未来も含めた色々なことが導きだせるのに・・・。

まあ、いまさら悔やんでも仕方ないので、とにかくもっと情報を集めるしかない。大雑把とは言え、ある程度の知識はあるんだ。その知識を活用するためにはもっと情報収集が必要なのだ。


そんな思いの中で、俺は自分が2歳の子供だということも忘れて、引き続き貪欲に情報を集めることに熱中した。


そんな2歳児の姿は他の人たちから見ればかなり異質に映ったようだ。まあ、実際に36歳のおっさんが中に入ってるんだ。そりゃあ異質だろう。

特にお坊さんたちは、俺のことを出来のいい子供だと思ってくれたらしく、とてもかわいがってくれた。勉強を教えてくれるだけでなく、貧乏な俺の家を見かねて檀家から貰った農作物を分けてくれたり、色々と便宜を図ってくれた。おかげで、戦がなくまったく収入の無い俺たち家族もなんとか食べていくことだけは出来ていた。


寺では相変わらず、男児たちが時々絡んできたりはしたが、ヤエが常時目を光らせていることもありひどいイジメを受けることも無かった。中には俺に興味を持ってくれる子供達も居て、俺が困っていると色々と手伝ってくれたりしたので、寺の生活は総じてとても楽しいものだった。


そんな感じで平穏な日々を送っていたのではあるが、ある日突然事件は起こった。


ナカ(かーちゃん)の妊娠が発覚したのだ。

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